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話題 野菜情報 2023年10月号

カット野菜の栄養素~野菜の栄養をより手軽に摂取~

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デリカフーズ株式会社 研究開発室長 服部 玄
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1 デリカフーズグループとその研究開発活動について

 デリカフーズグループ(以下「当社」という)は、1979年10月に名古屋市で創業した企業で、BtoB(企業から企業)とBtoC(企業から個人)を両輪に事業展開している青果物総合企業です。BtoBとしては、ホール野菜、カット野菜、加熱野菜および日配品などを主として外食企業向けに、BtoCとしては、ミールキットを一般消費者向けに販売しています。創業当時は品質の良いカットレタスが世間に出回っておらず、創業者である舘本勲武(現会長)が植物生理学の観点から鮮度保持テストや研究を重ね、「おいしくて鮮度の良いカットレタス」を開発し、商品化したことが当社の原点となっています。
 現在、流通している青果物の価格は、その多くが形や大きさなど見た目によって値付けされており、不揃いになりやすい青果物を見た目のまま決めることで取引しやすくしたい、というニーズによるものです。また、農業技術向上と品種改良により、一年を通じて同じ青果物の流通が可能となりましたが、青果物の持つ旬の意味が薄れてしまったことも事実です。さらに、栄養成分の分析方法の変更による影響はあるものの、日本食品標準成分表の改訂ごとに栄養成分量の減少が見られます(1)
 当社の研究でも、栄養成分が一年を通じて決して一定ではないことは明らかです(2)。このことから、青果物の流通においては外観の良し悪しだけではなく、買い手側のニーズに合わせた栄養価の高い青果物を供給することも、売り手側の使命であると考えています。
 青果物が本来的に有している「食べる意義」、すなわち医食同源といった考え方からも中身の質を評価する重要性が高まってきており、当社においても中身の質で青果物を評価する研究開発活動に長年の間力を入れています。特に、青果物の機能性の一つである抗酸化力(植物ストレス耐性力)に着目した研究においては、脊椎動物のモデル生物として研究に使用されているゼブラフィッシュ(インド原産の小型熱帯魚)を使い、抗酸化力の高いトマトには抗メタボ効果があることを、三重大学との共同研究で明らかにして学術報告を行いました(3)

2 野菜の成分分析の研究成果

 当社が特に力を入れているのが、青果物の抗酸化力の評価手法の開発とその活用です。世界中にはさまざまな抗酸化力の評価手法が研究開発されていますが、当社では、ポリフェノール類などの水溶性成分を対象にしたDPPH(1,1-Diphenyl-2-Picrylhydrazyl)法、ESR(Electron Spin Resonance)スピントラッピング法(以下「ESR法」という)およびカロテノイド類などの脂溶性成分を対象としたSOAC(Singlet Oxygen Absorption Capacity)法(以下「SOAC法」という)を採用しています。DPPH法は日本で開発・普及されていた手法ということもあり、検体数も多く測定できることから約20年前から当社はこの方法を導入しています。一方で、医学的観点からより生体系に近いフリーラジカル(分子の中の電子は2つが対をなして安定して存在していますが、その電子が対をなしていない電子〈不対電子〉を持つ原子や分子をフリーラジカルと呼びます)を使用して評価できることが特徴的であるESR法にも注目し、約17年前に導入しました。また、物理化学の分野で研究されていたESR法を食品の抗酸化評価に応用し研究開発するなど、新しい取り組みとして専門学会でも注目されてまいりました。その結果、国産農産物の優位性を証明した成果として、2013年に「フード・アクション・ニッポン 研究開発・新技術部門 優秀賞」を受賞しました(写真1)。

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 SOAC法は、DPPH法やESR法のような水溶性成分の抗酸化力評価手法と補完関係にある脂溶性成分を対象とした抗酸化力評価手法で、2010年に愛媛大学の研究グループが開発しました。当社はいち早くSOAC法を導入して2015年から受託分析を開始し、現在は国内で唯一の分析サービスとして展開しており、製薬企業や大手食品企業などからも依頼があります。
 当社のこれまでの研究により、青果物が持つそれぞれの旬の時期には中身の質が高く、逆に旬以外の時期には中身の質が相対的に低下していることを確認してまいりました(2)
 当社では、野菜の中身の質を評価する方法を「野菜の健康診断」と名付けて、「抗酸化力(DPPH法)」、「Brix糖度」、「ビタミンC含量」および「硝酸イオン含量」の4項目の分析を20年以上にわたり行ってきており、4万検体以上の青果物の分析ビッグデータを取得し、全国の出荷量に基づいた全国平均値を保有しています。当ビッグデータの活用例としては、一般社団法人日本有機農業普及協会(以下「JOFA」という)が主催する「身体に美味しい農産物コンテスト」において検査機関として参画し、全国の生産者が丹精を込めて生産した野菜の中身の質を当社が分析し、その分析結果を当ビッグデータと比較し、中身の成績が良い野菜にはコンテストのアワードとしてJOFAが表彰しています(写真2)。

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 また、当ビッグデータにより、周年変動や栽培方法の違いなどによるさまざまな中身の質の違いを測定しています。そのうち、当社の研究成果の一つとして、こまつなの抗酸化力の周年変動については、夏季はビタミンCによる寄与率が高く(83%程度)、冬季はビタミンCの寄与率が低下(56%程度)し、この時期は他の抗酸化成分(たとえばポリフェノール類)の寄与が考えられることが解明されてきました(4)

3 中身の質が高い青果物を摂取する重要性

 近年、日本人に対する野菜の健康寄与に関する重大な研究成果が報告されました。国立研究開発法人国立がん研究センターが約30年にわたって日本全国で実施した多目的コホート研究(通称:JPHC研究)において、2019年には食事由来の抗酸化力が心血管・脳血管・循環器などの疾患による死亡リスクを低下させていること(5)、2022年には野菜と果物の摂取が同様の死亡リスクを低下させていること(6)の学術報告がありました。これまでは欧米を中心に青果物によるヒトへの健康効果が認められていましたが、食文化的・遺伝的にも異なる日本人においても同様の効果が認められたという内容です。特に、食事由来の抗酸化活性が高い人ほど前述の死亡リスクが低下することから、この研究成果の報告と同様に、青果物の抗酸化力が高いことが中身の質として非常に重要であると考えています。こうした青果物を広く提供するためにも、当社では青果物の分析ビッグデータから選び出された中身の質が高い青果物を仕入れ、BtoCとして販売している青果ボックスに使用するなど、中身の質が高い青果物を流通させることに力を入れています。

4 中身の質の成分とカット野菜製造時の変化

 当社はカット野菜メーカーとして、さまざまな野菜におけるカット特性や、カット工程前後での中身の質の変化についても調査を行ってきました。その一例として、キャベツのカット製品についてご紹介します。
 日本食品標準成分表(八訂)におけるキャベツ(野菜類/(キャベツ類)/キャベツ/結球葉/生)においては、100グラム当たり食物繊維総量1.8グラム、カリウム190ミリグラム、カルシウム42ミリグラムなどのミネラルを含んでいます。また、ビタミンC含量も38ミリグラムと多く含まれています(7)。キャベツをカットした場合、その含量はどのように変化するのか、一年を通じて加工・業務用の原料キャベツ(原体の可食部)とカットしたキャベツのビタミンC含量の比較測定を行いました(キャベツ原体の可食部:n=2~4/各月、総数n=28/カットキャベツ:n=2~6/各月、総数n=53)。その結果、カットキャベツのビタミンC含量は、一年を通じて原体キャベツの7割以上を保っていることが明らかになりました(図1)。 また、Brix糖度(図2)および抗酸化力も同様に、一年を通じて原体の7割以上の値となりました(図3)。
 一般的にカット野菜は栄養価が低いと思われていることがありますが、実際にはキャベツでは7割以上の成分を保持していることが分かりました。このことから、カットによる栄養減少よりも原料にこだわることの方が非常に重要です。

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5 より手軽に1グラムでも多く野菜を食べてもらうために

 野菜にはさまざまな食べ方があります。たとえば、前述のキャベツであれば、生食でサラダや肉類などの添え物としておいしく食べられるほか、熱を加えてかさを減らして食べる量を増やすこともできるため、栄養素を十分に摂取することにもつながります。さらに、煮込み料理やスープなどで汁ごと食べることにより、溶け出した栄養素まで無駄なく摂取することもできます。現在はカットキャベツもコールスロー(千切りキャベツ)、野菜炒め用など、料理別にさまざまな形態で販売されているため、より活用しやすくなってきています。実際、家庭用カット野菜の市場規模も年々拡大傾向にあり、食品スーパーにおけるカット野菜(冷凍野菜込み)の1000人当たりの販売金額の推移は、平成22年対比で令和2年では約1.8倍にまで伸びています(8)。また、当社ではカット野菜のほかにも「楽彩(RAKUSAI)」というブランド名で野菜が主役のミールキットを一般消費者向けに販売しており、これまでの研究成果を活かした原料野菜からこだわった、当社ならではのミールキットを手掛けています。
 カット野菜やミールキットをうまく活用して、より手軽に1グラムでも多く野菜を意識的に食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか。
 加えて、近年ではSDGs関連の商品開発などにも力を入れており、カット野菜製造時の残渣(ざんさ)から独自の方法で野菜のうま味を抽出・凝縮した野菜だし「ベジブロード®」商品を開発しています。(写真3)
 「野菜は生きている」「野菜の一生をなんとかおいしく食べてもらいたい」という創業者の想いから、大量に廃棄されている野菜残渣の有効活用に取り組んでまいりました。また、野菜残渣の成分調査も行っており、当社調べではキャベツにおける残渣(外葉および芯、写真4)は可食部と比較して、カリウムは約1.9倍、カルシウムは約1.6倍など、さまざまなミネラル成分で高い値が示されています(図4)。当社では、これまで行ってきた野菜残渣の堆肥(たいひ)化と並行して、野菜が食べ物としての一生をまっとうするよう今後も全力を尽くしてまいります。

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6 最後に

 当社は“「農」と「健康」を繋ぐ創造企業”として、健康寿命の延伸のためにこれまで研究開発を行ってきました。機能性表示食品制度による青果物への機能性表示も広がってきており、青果物が健康に寄与することなど、その重要性が年々高まってきています。前述の通り、カット野菜の成分流出は当社のデータでも非常に低く抑えられていることがわかります。カット野菜の成分流出を懸念するよりも、野菜を1グラムでも多く食べることが最も重要です。それでもカット野菜の栄養価が気になる方のために、より良い原料を使用するなど野菜の中身の質に着目し、当社としてもビッグデータを活用しながら、中身の質の良い青果物を供給してまいります。
 
 野菜に関する研究開発やビッグデータの蓄積、商品開発などさまざまな取り組みを行いながら、情報発信を通じて中身の質の高い青果物を摂取していただく活動を推し進め、“「農」と「健康」を繋ぐ創造企業”として、これからも社会に貢献してまいります。
 
 
【参考文献】
(1) 小島彩子、佐藤陽子、橋本洋子、中西朋子、梅垣敬三(2010)『栄養学雑誌 Vol. 68(2)』p141-145、日本栄養改善学会
(2) 丹羽真清(2013)『おいしいものは体にいい』 FB出版
(3) Nutrition & Metabolism 8:88. 2011.
(4) The Horticulture Journal 89(3): 251-260. 2020.
(5) The Journal of Nutrition 149: 1967-1976. 2019.
(6) The Journal of Nutrition 152: 2245-2254. 2022.
(7) 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
(8) 加工・業務用野菜をめぐる情勢 農林水産省(令和5年6月)
 
服部 玄(はっとり げん)
デリカフーズ株式会社 研究開発室長
【略歴】
2008年3月 東京農工大学大学院 連合農学研究科 修了 博士(農学)
2008年4月 東京デリカフーズ株式会社(現デリカフーズ株式会社東京事業所)入社
2008年9月 デザイナーフーズ株式会社 転籍。研究開発を主軸に、数年ごとに製造部、営業
         部へ出向
2022年4月 デリカフーズ株式会社(株式会社メディカル青果物研究所) 配属
         研究開発室長
         現在に至る(入社16年目)