以上、有機給食を有機農業の拡大につなげる論理を説明してきたが、実際に有機給食を導入しようとすれば、給食を担当している市町村の教育委員会、学校・幼稚園・保育園、給食センターや栄養士らと連携する仕組みを作る必要がある。その仕組みの概要を図2にまとめたが、その仕組みの中心には、関係者が一堂に集まる「有機給食推進協議会」というような組織を置いて、有機給食の方針や計画を作るのがよいだろう。
計画の作り方はシンプルだ。最初に1年間の給食で使う農産物の種類と量がどのくらいなのかを栄養士から示してもらう。そのようなデータはどの学校でも持っていると思う。それが有機給食の年間需要量となる。そのほとんどは慣行栽培だろうから、それを地元産の有機農産物に置き替えていくと考える。
有機給食の長い歴史を持つ愛媛県今治市の安井孝さんによれば、「学校給食でよく使われる野菜はばれいしょ、にんじん、たまねぎ、だいこんなどで、1000人規模の学校だとそれぞれ年間3~4トン使う。それを生産する農地は1品目について30~40アールが必要だ」という。
いきなり農産物全部を有機栽培に置き替えることはできないから、有機栽培に取り組む農家の人数、得意な作物、有機栽培の経験などを考慮しながら、毎年少しずつ生産を増やしていくという姿勢が必要だ。特に、農家側に有機農業の経験が乏しい場合は、病害虫が少ない時期に農薬を使わなくても作りやすい作物を選ぶなど、取り組みやすい配慮をしてほしい。
有機農家が地域にいない場合はどうしたらいいだろうか。島根県雲南市木次町のように家庭菜園の延長で農家を集めたり、長野県松川町のように遊休農地を耕作する「ゆうき給食とどけ隊」を組織するなど、自給野菜を作っている農家や、家庭菜園で野菜を育てている市民に声を掛けるという手もある。こういう人たちは無農薬栽培をしている人が多いからだ。
それ以外にも、農産物の集荷や配送、代金回収を誰が担うのかという課題もある。こうした作業は農産物流通の基本であり、JAや流通の関係者であれば想像できるだろう。しかし、給食関係者にはよくわからない人が多いだろう。これらの点においては、JAや地域の流通団体との提携・協力が必要となろう。このように有機給食を実現するには、供給側と需要側がお互いの強みを活かして連携することが必要不可欠である。
有機給食は日本ではまだ始まったばかりの新しい取り組みのため、全国で試行錯誤が繰り返されている。そんな現状を少しでも改善したいと、有機給食が求められている理由、全国10地域の事例紹介、有機給食の仕組み作りの解説などを取りまとめた
(2)。
筆者らが提案した仕組み作りなどが全国に広がり、有機給食の導入による有機農業の拡大や、子どもたちの食の充実の一助となれば幸いである。
谷口 吉光(たにぐち よしみつ)
【略歴】
秋田県立大学生物資源科学部教授。
1956年、東京都生まれ。上智大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(農学)。専門は環境社会学、食と農の社会学、サステナビリティ・トランジション。日本有機農業学会会長(2019~現在)。著書に「『地域の食』を守り育てる」、「食と農の社会学」(編著)、「有機農業大全」(共著)、「八郎潟はなぜ干拓されたのか」、「有機農業はこうして広がった」(編著)、「有機給食スタートブック」(編著)など。
参考文献
(1)谷口吉光編著、2023、「有機農業はこうして広がった:人から地域へ、地域から自治体へ」、コモンズ
(2)靏理恵子・谷口吉光、2023、「有機給食スタートブック」、農文協