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【特集】「みどりの食料システム戦略」の実現に向けた野菜業界の取り組み 野菜情報 2023年8月号

青果物流最前線!物流2024年問題に向けて

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株式会社 福岡ソノリク 代表取締役副社長 園田 裕輔
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1 はじめに

 物流2024年問題とは、働き方改革関連法により、2024年4月以降、トラックドライバーの年間時間外労働時間の上限が変わることに伴って生じるとされる問題の総称である。
 スーパーの店頭に全国各地の産地から届く新鮮な野菜が並び、飲食店で多彩なメニューがいつもの通り提供される、そんな私たちの日常を支える青果物流は、フードサプライチェーンにおけるまさに「動脈」の役割を果たしている。
 当社は、1992年の創業以来約30年にわたり、佐賀県の鳥栖(とす)本社を含む西日本の各地の拠点を活用し、青果物に特化した(1)運送(2)保管(3)青果物調達・販売(4)カミサリー(食材の一次加工)の一貫物流に取り組み続けている。その立場から物流2024年問題への取り組みについて考察したい。

2 物流2024年問題とは

 2024年4月以降、ドライバーの労働環境の改善を目的に、特別条項の定める年間時間外労働時間の上限が、1176時間から960時間(月平均80時間)に約20%縮小される。上限時間が見直されることに加え、改善基準告示では自動車運転にかかるドライバーの拘束時間が原則1カ月284時間、1日13時間(最大15時間)に制限される。この拘束時間は運転・整備・荷扱いなどの作業時間、荷待ちなどの手待ち時間(待機時間)のほか、仮眠時間などの休憩時間も含まれる。
 現状、農産物の輸送はトラックによる陸路輸送が大半を占めているが、国土交通省の「トラック輸送の実態調査(平成27年)」(図1)によると、輸送品別では、農水産品は13時間超えの拘束時間が全体の39.2%、特に16時間超えの割合は15.7%と、他の輸送品と比べ高い比率となっている。
 農産物の輸送は、小ロット・多頻度・長距離輸送が特徴であり、また、発注から出荷までのリードタイム(所要時間)が短いため事前に出荷量を把握できないことや、厳格な納品時間の設定などにより、出荷・荷降ろし待ちなどの手待ち時間が長く、手積み手降ろしの手荷役作業が多い。これらの要因が長い拘束時間の一因となっていると考えられる。
 運送業界も慢性的な人手不足が続く中、一人当たりの走行距離および1日当たりの輸送可能距離が短縮されることから、特に青果物流においては、産地から消費地への長距離輸送がこれまで以上に難しくなると予想され、対策が急務となる。

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3 物流2024年問題の波紋

(1)拘束時間の短縮に伴う輸送距離及び販路の制限、リードタイムの延長
 青果物流は小ロット・多頻度・長距離輸送が特徴であるが、拘束時間の短縮に伴い、ドライバー1人当たりの輸送距離が短くなることで、今後、中継拠点を持たない物流会社では、単独での長距離輸送が難しくなると想定される。例えば、消費地から離れた九州などの大規模産地にとっては、消費地へ運ぶ手段がこれまでよりも制限され、また、長距離輸送を断念した場合は販路が制限されるなど、経営に関わる課題がすでに現場レベルで表面化しつつある。
 また、輸送が可能であったとしても、リードタイムがさらに延びてしまうのも懸念される。例えば、佐賀県の鳥栖から東京大田市場への距離1200キロメートルの場合、現状、鳥栖を夜に出たトラックは、翌日夕方頃市場に到着、翌々日量販店などの店頭に到着と、鳥栖での積み込みから2日後に届くが、2024年以降は、中継輸送に伴う荷物の積み替えや、ドライバー交代などにより、1日程度延びると見込まれている。したがって、「採れたて新鮮」や「朝採れ」といったキャッチコピーの利用も制限されてくる。
 
(2)荷役作業や荷待ち時間の制限
 青果物業界において、これまで物流会社が担ってきた役割についても制限される。物流業界としては、荷主によるパレタイズ(荷物をパレットに積み付ける作業。パレットごとトラックなどに積めるため、荷積みの効率化が図れる)で解決されつつある課題ではあるものの、青果物業界においては手積み手降ろしの荷役はいまだに存在し、ドライバーの拘束時間に影響を与えている。また、天候などの外部環境に左右されるため荷造りが遅延し、その荷待ち時間が拘束時間の増加につながっている。拘束時間の短縮を図るならば、運ぶという直接的な業務を優先する場合は、前述の業務に割く時間は必然的に限定せざるを得ない状況となってくる。
 このように、2024年以降はこれまでの常識や価値観が通用しないことは自明である。これを機に、これまでの常識や価値観を見直し、持続可能な物流を構築することが喫緊の課題となっている。

4 課題解決に向けての取り組み

 ここからは2024年問題に向けた当社の取り組みについて取り上げたい。
 
(1)独自の保管技術による青果物の在庫化(ストックポイント)
 産地から消費地へのリードタイムが延びることで、到着時までの青果物の鮮度保持の技術は、産地側・実需側共に今後さらにニーズが高くなると考えており、当社では、以下の2種類の冷蔵倉庫を各拠点に設置し、さまざまな品目に合わせた保管体制を構築・運用している。
 
ア CA(Controlled Atmosphere)冷蔵倉庫は、従来の温度・湿度の調整に空気成分の調整を加え、さまざまな農作物を長期かつ新鮮に保存ができる(たまねぎやばれいしょなど)。
 
イ 当社で特許を取得している冷蔵倉庫(写真1)では、独自の技術により、農作物を腐敗させるエチレンガスを換気扇から庫外に排出している。また、超音波加湿器により、冷蔵保管によって起きる農作物の乾燥を防ぐことで、長期保管が可能となる(キャベツ、レタス、安納芋、シャインマスカット、柑橘類など。写真2)。

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 この鮮度保持と長期保管を可能とした技術により、消費地から離れた産地の農産品を当社冷蔵倉庫で一括保管・在庫管理し、出荷オーダーに応じた仕分け・納品まで、一気通貫での対応が可能となる。すでに冷蔵倉庫に保管しているたまねぎやばれいしょ、安納芋は、ほぼ通年出荷を実現している。
 在庫化できることにより、産地にとっては1回当たりの出荷量を増やすことで出荷回数の低減や平準化が可能となり、実需側は、リードタイムの短縮や欠品回避、相場に応じた出荷調整が可能となる。
 
 (2)コールドチェーンを実現する中継拠点の活用
 今後の青果物流の課題解決の鍵になるのが、中継拠点の存在である。中継輸送は、トラックの長距離運行を複数のドライバーで分担することで、一人当たりの輸送距離を短縮しつつ、長距離輸送を可能とする。ドライバーにとっては、これまでの宿泊を伴う輸送から日帰りでの運行業務と労働時間の短縮が実現する。また、青果物の輸送においてはトラックの輸送中のみならず、中継拠点においても品目に応じた最適な温度で管理することにより、鮮度維持が可能となる。
 2024年問題の課題解決の一つとして国土交通省も中継輸送の普及を目指しているが、令和3年時点のまとめでは、中継輸送に前向きな事業者は半数以上であるものの、実際に実施している事業者は16%にとどまっており、道半ばとなっている。
 当社は鹿児島、鳥栖、倉敷、神戸と、西日本を中心に前述の保管施設を備えた大規模な拠点(ストックポイント)を設置しており、これらの自社ネットワークを活用した中継輸送により、九州・中四国の産地から、関東の消費地へのコールドチェーンを実現している。
 
(3)拠点シェアと共同物流などによる業界全体の最適化
 これまで述べてきたことからも分かる通り、2024年問題は事業者単独の企業努力で解決できるものではなく、業界全体で取り組む必要がある。
 当社でも、各地域の物流事業者と(1)中継拠点(ストックポイント)のシェア(2)共同配送(3)複数社間での最適配車―を目指し、連携を進めている。
 具体的には、当社の岡山(倉敷)の拠点を各地域の物流事業者が中継拠点として活用できるよう、営業所となるオフィスやトラックの駐車場、ドライバーの休憩所などを整備し、九州・中四国の産地からの物流事業者と拠点をシェアすることにより、各社の長距離物流をサポートするほか、各集荷場所から物量を集約し、関東などの消費地に向けての幹線輸送を共同化する事で、配送コストと人員を抑制し物流資源の効率利用を図っている(図2)。

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(4)産地のファーストワンマイルにおける連携強化
 産地内における集荷の仕組みを効率化し、数量をまとめる集荷便の運用も始めている。すでに運用を開始している鹿児島県垂水市では、現地のエリアパートナーが各生産者の出荷数を把握し、当日の集荷ルートや物量を調整することで、集荷回数を減らすことができ、生産者もエリア内で数量をまとめることによって集荷コストの軽減が図れている。
 
 このように、物流2024年問題への取り組みは、単一の経営体の努力だけで解決できるものではなく、業種・業界を超えたサプライチェーンを構成するすべてのステイクホルダーとの横断的な取り組みが必要となる。業界を超えた各事業者の強みを活かし、個社単体では成し得ない物流業界全体での物流資源の最適化を目指すべく、われわれは取り組みを進めている。

5 さいごに

 物流2024年問題は、一過性の課題ではない。今後の物流の安定化には、生産者から消費者まで、フードサプライチェーンを構成するすべてのステイクホルダーの理解と、業種・業界を超えた取り組みが必要不可欠である。
 


園田 裕輔(そのだ ゆうすけ)
株式会社福岡ソノリク 代表取締役副社長
【略歴】
1982年 鹿児島県生まれ。
公認会計士試験合格後、株式会社エスネットワークス入社。CFO領域のコンサルタントから副本部長を歴任。
2020年 株式会社福岡ソノリク 取締役就任。
2023年より現職。