わが国の農業は、限られた農地、限られた労働力の中で農薬や肥料を効率的に使いながら、生産性を向上させ、国内外に農産物を供給してきた。
しかし近年では、気候変動問題が顕在化し、高温による品質低下や果実の着色不良、降雨量の増大に伴う災害の激甚化などさまざまな形で、農業分野に大きな被害をもたらしている。同時に農業も、わが国の温室効果ガス排出量の約4%を占める一方、わが国のメタン排出量の8割を占めるなど、環境に負荷を与えている。さらに、国内生産を支える化学肥料は、原料のほぼ全量を輸入に依存している。これは、海外から持続的に調達が可能かという経済的な観点に加え、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)、SDGsや環境への対応があらゆる産業で求められる中、農業の生産性向上のために世界から窒素やリンの原料を大量に輸入することについて、持続可能性の観点からも考え直す必要がある。
一方、欧米でも、農業分野における持続可能性に関わる戦略が策定されているが、わが国は欧米と異なり、高温多湿で比較的小規模な水田農業を中心とする農業構造であるため、わが国の気候や農業構造に適したアプローチが必要である。
このような国際的な動向も踏まえつつ、国内農業の生産力向上と持続性の両立をイノベーション(革新)で実現させるための戦略として、2021年5月にみどりの食料システム戦略を策定した。わが国はこれをアジアモンスーン地域の持続可能な食料システムのモデルとして、国際ルールメーキング(国際ルールづくり)の場で打ち出すこととしている。
みどりの食料システム戦略では、2050年までに目指す姿として、農林水産業におけるCO
2ゼロエミッション化の実現、化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減、化学肥料の使用量を30%低減、有機農業の取り組み面積を25%(100万ヘクタール)まで拡大など、14のKPI(“Key Performance Indicator〈重要達成度指標〉”の略)を設定した(図1)。また、2022年6月には、中間目標として2030年目標も決定した。KPIの進捗状況については、農林水産大臣を本部長とするみどりの食料システム戦略本部において、毎年確認を行うこととしている。
みどりの食料システム戦略の目標達成に向けて、2030年までは開発されつつある技術の社会実装や先進的な取り組みの横展開を進め、さらに2040年までに革新的な技術・生産体系を順次開発し、2050年までにこれを横展開することで達成することとしている。また、この目標達成に向けて、生産現場の関係者のみならず、調達、生産、加工・流通、消費という食料システムの関係者全体で取り組むことが本戦略の大きなポイントである。