スポーツ選手が抱える問題の一つとして、「引退後のセカンドキャリアをどうするか」があります。ですが、私たちはセカンドキャリアという言葉自体が過去のものだという認識です。毎日農業に従事しているため、引退後も農業で自立できるくらいの能力が身についています。よってセカンドキャリアではなく、農業とスポーツを並行してやっていく「デュアルキャリア」として考えるようにしています。また、収入は企業に属しているのでサラリーマン同様、固定給となっており、選手が不安を抱えることはありません。
全国的な問題ですが、われわれが農業に取り組んでいる地元の糸島市も、就農者の高齢化と後継者不足が深刻です。就農人口が減少していけば、日本国内でも食糧危機が訪れるのではないかと感じています。これは就農者しか分からない危機感だと思います。
会社の創設時、すべての選手が1~2年間ほど、地元の農家に弟子入りをして農業を学びました。若手が不足している農業界において、20代前半の選手が就農して弟子入りという流れは大変喜ばれました。当初は、若手が農業を始めても2~3カ月ですぐに辞めてしまうと言われ、半信半疑で指導を受けることもありました。しかし、選手は本気で農業に取り組み、自分たちの能力向上に励んだ結果、少しずつではありますが、親方の皆さまに認められるようになり、農業における技術や知識の伝承が始まりました。やがて互いに信頼関係が構築されていき、親方の皆さまの手厚い指導やご協力もあり、今では自分たちで農業を営むことが出来るレベルに達しています(写真5)。
また、引退した選手が「農業で独立」するという、本来の目的である「若手の就農」の流れが出来始めており、私たちの目指す世界が少しずつ見えてきているのではないかと実感しています。引退し、当チームを卒業した選手の中で2人が地元のいちご農家、トマト農家としてそれぞれ独立しました。その他3人が、このまま現役選手と共に農業がしたいと当チームの会社に残って農業に従事しています。会社に残った彼らは、引退後に他の企業に再就職するよりも、これまで毎日農作業の後に練習をしてきた仲間たちと一緒に、農業を成功させたいと強く思うようです。
農業は多くの一般企業と異なり、最初から裁量が与えられ、時間も内容も自由です。各々が一経営者として運営するため、ある意味束縛されない環境と言えます。農業の自由な時間の使い方に魅力を感じる社員(選手)が多いことも確かです。