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話題 野菜情報 2022年12月号

子どもの健康と野菜摂取について

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医療法人つばさ会 高座渋谷つばさクリニック院長 武井 智昭
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 近年、日本の食生活においても欧米化が進んでいる。これまで、自身の子どもが成人同様に野菜や魚類を多くとるように指導された方も多いのではないだろうか。近年では、子どもはファストフードやスナック菓子を多く食べるようになり、野菜・果物の摂取量は減少傾向にある。野菜には子どもの発育に重要である、ビタミン類・食物繊維が豊富に含まれている。子どもの1日の野菜摂取目標量としては、
 1~2歳/180グラム
 3~5歳/240グラム
 6~7歳/270グラム
とされており、8歳以上では成人と同様に350グラムが推奨されている。また、この目標量のうちの3割以上は緑黄色野菜の摂取が推奨されている。ところが、厚生労働省の近年の調査では1~6歳の1日当たりの野菜摂取量は平均144.7グラムであり、摂取目標量にはほとんど到達していない。学校や幼稚園・保育園の給食のみでは、この推奨となる量への到達は困難であるため、家庭での積極的な野菜の摂取が重要である。
 子どもの頃の野菜摂取の習慣は、成長して成人となってからの野菜摂取量にも影響する。子どもの時期に、味付けや独特の食感、あるいは感覚過敏などにより野菜摂取が嫌いとなった場合には、大人になっても野菜が苦手なままであるケースが多い。成人では、野菜摂取量が低下して、食物繊維摂取量が低下した結果、肥満傾向となり、糖尿病・高脂血症・高血圧などの生活習慣病のリスクが高まり、脳梗塞・心筋梗塞などの発症リスクも必然と高まる。同時に食物繊維摂取量が低下すると大腸がんのリスクが高まることも報告されている。人生100年時代といわれる近年では、健康寿命を延ばすためにも、子どものうちからの野菜摂取習慣が非常に重要である。

 ここからは、野菜に含まれる栄養素ごとに、摂取を推奨する理由を記載する。

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1 食物繊維

 野菜には食物繊維が多く含まれている。野菜の摂取不足による食物繊維の不足では腸内細菌(そう)(フローラ)の形成が不十分となり、近年増加傾向である便秘症の発症にもつながる。この便秘症の発症が免疫力低下、すなわち上気道炎・胃腸炎などの風邪に対する抵抗力の低下にも関与する可能性が示唆されている。その理由は、人体の免疫に関与している細胞(リンパ球など)の6~7割が腸管のリンパ節に存在しているためである。免疫作用があるリンパ球の機能は腸管における細菌のバランスが大きく影響することも報告されている。これまで流行していたインフルエンザや、手足口病・アデノウイルス感染症などの夏風邪のシーズンにおいても、腸内環境を整える「腸活」として、野菜摂取やヨーグルトが注目されていた。その理由は、これらの食材の積極的な摂取により腸内細菌バランスが良好となり、免疫細胞を活性化する働きが期待できるからである。免疫状態を良好にするには食物繊維の効果のみならず、心身のストレスをなくすこと、質の良い睡眠をとることも重要である。近年の新型コロナウイルス感染症に対しても同様であり、小児には特効薬がない現況では自分自身の免疫機能を上げることが重要である。
 また、野菜に含まれる食物繊維にはコレステロールの上昇を抑制する働きがある。さらに、糖質・脂質の消化吸収を低下する作用がある。食物繊維が不足すると、糖質・脂質の吸収が促進され、便秘や運動不足と重なると肥満につながる。結果として、前項で記載したような生活習慣病のリスクの一つとなる。

2 ビタミンA

 緑黄色野菜に多く含まれているビタミンAにも、重要な役割がある。ビタミンAは、光を感じる視細胞などの機能維持に重要であり、不足すると夜盲症、目の乾燥を生じ、長期にわたると視力低下・失明のリスクがある。ビタミンAは視覚における重要な機能を担っている。
 また、ビタミンAには外界と接する粘膜や皮膚の機能を強化する作用もある。粘膜のバリア機能を司る役割があり、さまざまなウイルス・細菌などの侵入を抑制している。例えば、咽頭や鼻粘膜の機能が低下すると、咽頭炎や鼻炎が発症しやすくなる。胃腸の粘膜の機能低下では食欲低下・胃痛・下痢を生じ、尿道粘膜の機能低下では尿路感染を生じやすくなる傾向がある。

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 さらに、細胞膜の機能を維持するために、肌にもその機能が発揮される。ビタミンAの欠乏により、肌が乾燥して湿疹ができやすくなり、けがをしても治癒に時間がかかる傾向がある。化粧品やアンチエイジングの分野においてもビタミンAは利用されている。このようにビタミンAは、視力や皮膚、粘膜機能(咽頭、鼻腔、気管、腸、尿道など)の機能を保ち、体内に細菌やウイルスの侵入を防ぐバリアの役割を果たす。

3 ミネラル

 ミネラルとは、野菜や果実に含まれる栄養素であり、子どもの時から身体の臓器や組織の反応を円滑に働かせるために必要なものである。ミネラルは身体の中で作り出すことができないため、野菜、肉、海藻などの食物から摂取する。以下に、野菜不足によって欠乏が生じる可能性のあるミネラルの種類と、不足した場合に生じる症状をまとめた。

(1)Ca(カルシウム)
 主に骨や歯の原料となり、身長の伸びや骨格の発達に影響する子どもの時期には必須なものである。不足すると身長の発育、発達が悪くなり、筋肉・神経・心臓が正常に機能するためにも必要であるため、欠乏するとイライラするなどの精神症状、筋骨格の違和感などの症状が起きる。野菜では、ほうれんそうに多く含まれており、小魚類、牛乳、乳製品とうまく組み合わせて摂取することが重要である。

(2)K(カリウム)
 主に尿量や血圧の調節、心臓の筋肉を含めた神経・筋肉の機能維持の作用がある。不足すると脱力感、疲労感、尿量増加、不整脈による胸部違和感などの症状が生じる。緑黄色野菜のほか、ナッツ類、ヒジキなどから摂取できる。

(3)Fe(鉄)
 赤血球のヘモグロビンの主成分であり、欠乏すると、息切れ・動悸・運動機能低下などの貧血症状が起きる。緑黄色野菜のほか、レバー、ヒジキに多く含まれている。

 このように、野菜にはさまざまな栄養が含まれており、品目によって含まれている栄養素も異なる。特に、緑黄色野菜には、ビタミンAの素となるβ‐カロテンのほか、抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンK、葉酸、前述のミネラルなどが多く含まれている。

・野菜嫌いな子どもが楽しく野菜を食べるコツ

 健康維持に不可欠な野菜だが、乳幼児期における、野菜独特の「におい」「食感」「苦み」「硬さ」への拒否感、また感覚過敏(五感から受け取る刺激を過剰に強く感じてしまう状態)の子どもは、他の食品と比べて野菜により強い違和感を持つことから、近年、野菜の摂取を嫌う子どもが増加している。特に発達障害が疑われる子どもにその傾向が強い。野菜の好き嫌いは、味を感じる舌と、その味を認識する大脳が完成するおおよそ8歳頃にほぼ決まるとされている。よって遅くとも小学校卒業までに野菜嫌いを克服することが目標である。
 子どもの成長段階において小さな「成功体験」の積み重ねは、自尊心・自己肯定感を向上させるため、苦手を克服する重要な手段である。小学校卒業までに苦手な食材を克服することは短期では困難ではあるが、野菜に含まれる栄養素の重要性を理解し、生産者・給食・家庭での調理方法への関心を高め、食事への感謝の気持ちを高めることなどを経て、野菜に対してのネガティブなイメージをポジティブなイメージに変えていく工夫が必要である。昨今注目を集める「ベジトレ」と呼ばれる野菜を好きになるためのトレーニングは、生活習慣病の予防や人生100年時代における健康維持という長期的視点からも、子どもの一生の健康を守ることにもつながる。
 その第一歩として、野菜を見ただけで苦手意識を抱く子どもには、おやつや間食に野菜のジュースや野菜を利用した食品を試してみることが重要である。クッキーやビスケット、手作りのゼリーなど、実は「野菜が入っていた」ということを伝え、野菜が食べられたという成功体験が初めの一歩となり、子どもの自信につながる。
 この段階を超えたら、次は自分自身で野菜のスムージーを作るなど、調理を手伝う、可能であれば食材を一緒に買い物して選ぶという、主体性がある行動につなげてみると良い。加えて、自分で作ったスムージーが、家族や友人から「おいしい」とほめられることも、野菜へのポジティブなイメージを作る第2のステップとして重要である。調理という過程を経て、野菜という素材に触れさせる貴重な機会と、野菜を食べることの重要性を認識させることができる。
 最終的には、できるかぎり野菜そのものの形を摂取できることが望ましい。野菜をかなり細かく刻み、形をほとんど残さず、カレーやハンバーグなどに混ぜてみることから始めて、少しずつ形のある野菜にチャレンジしてみると良い。そして、野菜を食べられたら誰かに自慢してみる、あるいは、過剰でもよいので周囲が褒めるという行動をとってみてほしい。例えば「にんじんやなすを食べたとおばあちゃんに話したら、喜んでいたよ」「学校のお友達に野菜が食べられるようになったと自慢しよう」などは、子どものモチベーション向上につながる。

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 自宅での食事のみならず、外食やピクニックなど、自宅と違う雰囲気で野菜の摂取に楽しくチャレンジしてみることも1つの方法である。子どもにとって、楽しいイベントや雰囲気は野菜克服の1つの契機になる。野菜嫌いな子どもに無理矢理食べさせることは、野菜に対してのイメージがさらに低下して逆効果になってしまうこともある。子どもを野菜好きにするためのトレーニング「ベジトレ」のコンセプトは、従来のように野菜を我慢してイヤイヤ食べさせるのではなく、楽しく食べられるような工夫を周囲が仕掛けていくことにある。

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 こうした「ベジトレ」を通した成功体験は、食事だけにとどまらない。子どもの身体的なメリットに加えて、物事の考え方などの精神面の発育にもプラスに働くことが多いと考えられる。「ベジトレ」は単なる目先の野菜嫌いの克服だけではなく、それを通じて子どもが健康で豊かで幸せな人生を送れるようにするための大事なプレゼントであるため、家庭でもしっかりと取り組んでほしい。
 また、野菜は2~3種類にこだわらず、可能であれば10種類程度のものをバランス良く、継続的に摂取していくことが重要である。なぜなら野菜ごとに身体への作用が異なるからである。トマト、かぼちゃなどは抗酸化作用が高いため、免疫強化につながる。また、キャベツやレタスなどには食物繊維が多く含まれており、腸内環境の改善による免疫力の維持に効果がある。にんじんにはビタミンAが多く含まれ、皮膚や鼻・喉の粘膜を強化して病原体の侵入するリスクを軽減する。ブロッコリーには、風邪などのウイルス感染の対策の定番であるビタミンCが多く含まれている。ほうれんそうには貧血予防となる鉄分が他の野菜と比べて多く含まれている。こうした野菜を組み合わせて摂取することが、健康維持には重要であるという「食育」も、家族で実践することが大切である。


武井 智昭(たけい ともあき)
【略歴】
医療法人つばさ会 高座渋谷つばさクリニック院長。内科・小児科・アレルギー科標榜。
慶応義塾大学医学部卒業後、平塚共済病院小児科医長、なごみクリニック院長を経て、2020年4月より現職。日本小児科学会専門医、指導医。臨床研修医指導医。現在、0歳から100歳までの「1世紀」を診療する医師として、家庭医として地域医療に従事している。