健康維持に不可欠な野菜だが、乳幼児期における、野菜独特の「におい」「食感」「苦み」「硬さ」への拒否感、また感覚過敏(五感から受け取る刺激を過剰に強く感じてしまう状態)の子どもは、他の食品と比べて野菜により強い違和感を持つことから、近年、野菜の摂取を嫌う子どもが増加している。特に発達障害が疑われる子どもにその傾向が強い。野菜の好き嫌いは、味を感じる舌と、その味を認識する大脳が完成するおおよそ8歳頃にほぼ決まるとされている。よって遅くとも小学校卒業までに野菜嫌いを克服することが目標である。
子どもの成長段階において小さな「成功体験」の積み重ねは、自尊心・自己肯定感を向上させるため、苦手を克服する重要な手段である。小学校卒業までに苦手な食材を克服することは短期では困難ではあるが、野菜に含まれる栄養素の重要性を理解し、生産者・給食・家庭での調理方法への関心を高め、食事への感謝の気持ちを高めることなどを経て、野菜に対してのネガティブなイメージをポジティブなイメージに変えていく工夫が必要である。昨今注目を集める「ベジトレ」と呼ばれる野菜を好きになるためのトレーニングは、生活習慣病の予防や人生100年時代における健康維持という長期的視点からも、子どもの一生の健康を守ることにもつながる。
その第一歩として、野菜を見ただけで苦手意識を抱く子どもには、おやつや間食に野菜のジュースや野菜を利用した食品を試してみることが重要である。クッキーやビスケット、手作りのゼリーなど、実は「野菜が入っていた」ということを伝え、野菜が食べられたという成功体験が初めの一歩となり、子どもの自信につながる。
この段階を超えたら、次は自分自身で野菜のスムージーを作るなど、調理を手伝う、可能であれば食材を一緒に買い物して選ぶという、主体性がある行動につなげてみると良い。加えて、自分で作ったスムージーが、家族や友人から「おいしい」とほめられることも、野菜へのポジティブなイメージを作る第2のステップとして重要である。調理という過程を経て、野菜という素材に触れさせる貴重な機会と、野菜を食べることの重要性を認識させることができる。
最終的には、できるかぎり野菜そのものの形を摂取できることが望ましい。野菜をかなり細かく刻み、形をほとんど残さず、カレーやハンバーグなどに混ぜてみることから始めて、少しずつ形のある野菜にチャレンジしてみると良い。そして、野菜を食べられたら誰かに自慢してみる、あるいは、過剰でもよいので周囲が褒めるという行動をとってみてほしい。例えば「にんじんやなすを食べたとおばあちゃんに話したら、喜んでいたよ」「学校のお友達に野菜が食べられるようになったと自慢しよう」などは、子どものモチベーション向上につながる。
自宅での食事のみならず、外食やピクニックなど、自宅と違う雰囲気で野菜の摂取に楽しくチャレンジしてみることも1つの方法である。子どもにとって、楽しいイベントや雰囲気は野菜克服の1つの契機になる。野菜嫌いな子どもに無理矢理食べさせることは、野菜に対してのイメージがさらに低下して逆効果になってしまうこともある。子どもを野菜好きにするためのトレーニング「ベジトレ」のコンセプトは、従来のように野菜を我慢してイヤイヤ食べさせるのではなく、楽しく食べられるような工夫を周囲が仕掛けていくことにある。
こうした「ベジトレ」を通した成功体験は、食事だけにとどまらない。子どもの身体的なメリットに加えて、物事の考え方などの精神面の発育にもプラスに働くことが多いと考えられる。「ベジトレ」は単なる目先の野菜嫌いの克服だけではなく、それを通じて子どもが健康で豊かで幸せな人生を送れるようにするための大事なプレゼントであるため、家庭でもしっかりと取り組んでほしい。
また、野菜は2~3種類にこだわらず、可能であれば10種類程度のものをバランス良く、継続的に摂取していくことが重要である。なぜなら野菜ごとに身体への作用が異なるからである。トマト、かぼちゃなどは抗酸化作用が高いため、免疫強化につながる。また、キャベツやレタスなどには食物繊維が多く含まれており、腸内環境の改善による免疫力の維持に効果がある。にんじんにはビタミンAが多く含まれ、皮膚や鼻・喉の粘膜を強化して病原体の侵入するリスクを軽減する。ブロッコリーには、風邪などのウイルス感染の対策の定番であるビタミンCが多く含まれている。ほうれんそうには貧血予防となる鉄分が他の野菜と比べて多く含まれている。こうした野菜を組み合わせて摂取することが、健康維持には重要であるという「食育」も、家族で実践することが大切である。
武井 智昭(たけい ともあき)
【略歴】
医療法人つばさ会 高座渋谷つばさクリニック院長。内科・小児科・アレルギー科標榜。
慶応義塾大学医学部卒業後、平塚共済病院小児科医長、なごみクリニック院長を経て、2020年4月より現職。日本小児科学会専門医、指導医。臨床研修医指導医。現在、0歳から100歳までの「1世紀」を診療する医師として、家庭医として地域医療に従事している。