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話題 野菜情報 2022年11月号

列車荷物輸送サービス「はこビュン」で持続可能な輸送サービスを推進

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株式会社ジェイアール東日本物流 執行役員 営業本部 副本部長 石川 元彦
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1 はじめに

 これまで、JR東日本グループでは、地域再発見プロジェクトの一環として、東日本エリアの地域を対象に、魅力的な地産品の販売や観光流動の創出を目指す「産直市」を実施してきた。併せて、地域の魅力的な地産品をより魅力ある状態で運ぶために、当社ではJR東日本グループの持つ未活用輸送インフラに着目し、新幹線をはじめとする列車の空きスペースを活用した新たな荷物輸送サービスを展開してきた。
 日本の新幹線は海外でも「Shinkansen」と呼ばれるほど認知されており、「速さ」「定刻」「安定」の面で運行に定評がある。東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」という)では、各方面にネットワークされた新幹線や在来線特急列車が日々、数多く運行されており、当社ではその「速達性」と、時間に正確で天候に影響されにくい「定時性」「安定性」という強みを活かし、東日本エリアを中心に、農産物を含む地産品などの荷物輸送サービス拡大に向けて取り組んでいる。

2 列車荷物輸送サービス「はこビュン」の経緯

 新幹線をはじめとした列車荷物輸送サービスは、2017年よりエキナカで開催される産直市向けに取り扱いを開始した(図1)。

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 2020年2月には、西日本旅客鉄道株式会社様と連携し、北陸エリア(富山駅)より初の輸送を実施、同年8月には、北海道旅客鉄道株式会社様と連携し、函館より初の輸送を実施するなど、取り扱い駅の拡大を図りながら、列車による荷物輸送サービスの事業性の検証や課題を抽出の上、2021年4月からは、「エキナカ」販売に限定してきた本サービスを「エキソト」に向けて本格展開を開始した(図2)。

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注:はこビュンのサービス範囲(駅間配送)以外のオプションサービスでは、荷主様の集荷先から出発駅までの集荷および到着駅から首都圏のスーパーマーケットやホテル内レストラン、飲食店舗などへの配送を請け負っている。

 また、同年10月にサービス名称を「はこビュン」と決定し、現在、取り扱い荷量や品目の拡大に取り組んでいる。
 はこビュンとは、荷物のイメージである「箱」と「運ぶ」をかけて「はこ」、そして新幹線や在来線特急列車でスピーディーに「ビュン」とお届けするイメージを表している。速達性や定時性、鉄道ネットワークを活かし、輸送ビジネスとしての成長と地方創生の推進の両面を目指すという思いを込めている(図3、写真1)。

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 はこビュンでは、「速達性」という優位性から、これまでは、その地域に行かなければ食べられなかった採れたての農産物や水産物を、“より新鮮な状態”という付加価値と共に納品先へ届けることが可能になったことから、食品類を中心に多くのご利用をいただいている。
 また、お届け先も催事などのスポット利用から、スーパーマーケット、ホテル内のレストラン、市中の飲食店舗などへの定期利用へと広がりを見せている。また、食品類以外でも、医療関連品や半導体関連部品などの電子部品に至るまで、利用シーンの幅も広がってきており、その結果、流通も地方から首都圏へ、首都圏から地方への双方向の流れ、更には地方間の流れも生まれてきている。
 また、事前申し込みによる企業間の取引に限定していたはこビュンに加えて、限られた駅、指定された列車のみとしているものの、事前申し込み不要で対象列車出発30分前までに駅の指定されたカウンターまで持ち込んでいただければ、個人のお客さまでも利用可能な「はこビュンQuick」というサービスも展開している(図4、写真2)。

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3 個人客の潜在ニーズ(“食料品”が6割以上)

 当社にて、個人のお客さまに列車荷物輸送ニーズについてWebアンケート調査を実施した結果、調査対象者の約7割が「即日配送サービス」の利用経験がない一方で、そのうちの約5割弱が利用に前向きな回答をしている。
 また、即日配送サービスで届けたい・受け取りたい・取り寄せたいものは何か、については「食料品」が6割以上、遠方(自分で移動出来ない距離)からの品物を即日配送サービスで届ける・受け取るサービスに「魅力を感じる」と回答した人は7割を超えており(図5)、その内の約8割が10~40代との回答結果になっている。
 「食料品」の内容は食品、弁当、スイーツ、飲料、酒類などで、費用負担面においては、約3割の人が通常料金とは別に1000円までの加算なら即日配送サービスを利用しても良いと回答し、食料品に限ると、4割強が1000円までの加算なら利用しても良いと回答し、若年層では更にその傾向が強い結果となった。

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4 食料品のはこビュン利用状況について

 当社では、新幹線などの列車荷物輸送サービスに関する情報を発信し、認知度を高めるとともに食料品を中心に利用者を増やし、潜在ニーズを掘り起こすことが、農産物をはじめとする地産品マーケットの拡大に繋がると考えている。
 はこビュンの強みである「速達性」「定時性」「安定性」の優位性は、特に「新鮮さ・鮮度」が重要な農産物をはじめとする食料品と親和性が高いと言える。
 食料品というキーワードからはこビュンの利用状況を見てみると、魚介類、駅弁、スイーツなど比較的高価格帯の食材・商品の利用が多く見受けられる。
 果物に比べ低価格な野菜は、数量・サイズにより一商品当たりの価格が大きく左右されることから、各種費用の店頭、卸価格への転嫁がしにくく、採算面で取り扱いが難しい商材の一つと言える。しかし、はこビュンにより鮮度良く運ぶことで、鮮度を強みとして商品価値を最大化し、採算性を高めることもできると考えている。
 実際に、過去の実績として、採れたての新鮮な地元野菜をはこビュンで輸送したものが、エキナカの催事会場で販売され、多くのお客さまからご好評を得ている(写真3、4)。

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5 はこビュンの可能性

 はこビュンの「速達性」「定時性」「安定性」という強みを生かし、BtoB(Business to Business:企業間取引)の場合、生産事業者においては、広く地元野菜を知っていただくための「宣伝・告知」機能として、小売飲食事業者では、低価格帯である野菜を理解しつつ、お店のこだわり、目玉商材としての「集客力・吸引力」機能として、卸売事業者では、生産事業者と小売飲食事業者を繋ぐ「安定した販売先(出口)」としてのマッチング機能として、それぞれの役割を担うことで、モノ(野菜)が動き、結果として地域間の流通が生まれ、マーケット拡大の機会を生み出すことに繋がるのではないかと考えている。
 また、to C(to Consumer:対消費者・利用者)においては、はこビュンの強みを店頭で発信することで、小売店・飲食店などのリアル店舗の利用を促し、更にネット販売の利用に繋げるきっかけを作り出すことも可能だと考えている。
 例えば、はこビュンで運んだ新鮮野菜を首都圏催事で販売しつつ、売り場でネット販売を案内し、連動させる。旬の採れたての新鮮野菜をリアル店舗で購入してもらい、食べる機会を提供することで、顧客(ファン・リピート客)を作る。さらに催事では取り扱っていないものをネット販売に品揃えすることで価値を高めてネットへ誘導し、催事(スポット販売)開催以降の利用に繋げてリピートを確保するという仕掛けも可能と考える。
 旬の時期に都度、売り場に多くの農産物を用意・輸送することは負担が大きいことから、場所・時間を問わないネット販売の利点を生かしつつ、リアル店舗とネット販売の取り扱い限定をそれぞれ組み合わせることで、地域・商品のブランド価値を高め、農産物の出口拡大の機会に繋げていけるのではないかと考える。また、はこビュンを介したリアル店舗とネット販売の融合による販路拡大は、「出口ある農業」にも寄与すると考える。
 次に“消費者から消費者”の場合、企業間取引というビジネスの観点からではなく、例えば、故郷から採れたての新鮮な農産物を知人や身内に送るといった利用も考えられる。移動時間と交通費をかけず(遠方や自分では移動できない距離)、故郷に帰れなくても、またその地域を訪れなくても、その日のうちに手に入れ食することが出来るのは、大変魅力あることだと考える。人から人、知人からの贈り物もまた、リアル店舗やネット販売を介して知ること以上に、発信力(口コミ)を持ち合わせている。
 これらのように、はこビュン・はこビュンQuickは、鉄道を介した輸送手段と前述の活用の組み合わせによって、単にA地点からB地点へ”モノ”を運ぶということだけではなく、さまざまな点において、付加価値を生み出すことが出来る輸送サービスになり得ると考える。

6 持続可能で高付加価値な輸送サービスの提供に向けて

 はこビュンは、「速達性」や「安定性」だけでなく、「地球環境に優しい」という点も優位性の一つである。モーダルシフトの推進が啓蒙される中、昨今の異常気象は、日本を含む世界規模で発生し、気候変動は年々厳しさを増している。2050年までに温室効果ガス排出ゼロ、脱炭素社会を目指すわが国において、昨今注目されるSDGsの観点からも、モーダルシフトの重要性は高く、急務と言える。
 一方、国内貨物輸送量(輸送距離を加味したキロトンベース)における各交通機関の分担率は、自動車(トラック)が約50%を占め、鉄道は5%程度で推移しているのが現状である。これはトラックに比べ輸送コストが高い、小口の輸送に適していない、など理由はさまざまであるが、安定した荷量を確保することで、地域の活性化と共に地球環境保全に向けたモーダルシフトを推し進めるきっかけになると考えている。
 物流業界では、慢性的なドライバー不足に加えて、ドライバーの高齢化と2024年の働き方改革関連法に伴う時間外労働時間上限規制の物流業界への適用開始など、物流機能確保の問題が顕在化してきている。
 これらを解消するための選択肢として、一つには中長距離区間の基幹輸送を新幹線や特急列車で輸送し、発着駅をハブに、トラックなどの二次交通手段の利用との組み合わせにより届ける方法が提案できると考えている。さらに、当社ではJR東日本グループの輸送インフラである高速バスと連携することが可能であり、列車と高速バスを組み合わせた輸送サービス「はこビュンplus高速バス」の提案もしていきたい。これまでの事例としては、はこビュンを使って、魚介類を新函館北斗駅から東京駅まで新幹線輸送し、東京駅から千葉県館山までを高速バス輸送で配送した実績がある(写真5)。
 このように、新幹線をはじめとした列車荷物輸送サービスの拡大と高速バスと連携した新たな輸送サービスの展開を進めることで、地域活性化の推進と共に、物流業界の抱える課題の解消の一助となる、持続可能で高付加価値な輸送サービスの提供が実現できると考える。

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7 まとめ

 法人を対象としたはこビュン、個人も利用出来るはこビュンQuick、さらには列車と高速バスを組み合わせた新たな輸送サービスなど輸送手段の多様化を進め、モノを送る、受け取る上での選択肢の一つとして、今後さらに発信していきたい。
 そのためには、関係箇所の協力と連携が不可欠であり、荷物取り扱い箇所となる拠点駅拡大、受付機能整備、発着駅の集荷配送体制などさまざまな課題整理と問題解決が重要となる。
 当社は、JR東日本グループが展開する地域再発見プロジェクトの一環として、幅広く地産品を紹介・販売する情報発信を物流の側面から支援し、地域の活性化につなげることで、ヒト・モノの循環を推進するとともに、物流業界の抱える課題であるドライバー不足の解消や、CO2排出量の少ない新しい荷物輸送サービスの仕組み作りにチャレンジしていく所存である。

石川 元彦(いしかわ もとひこ)
【略歴】
株式会社ジェイアール東日本物流 執行役員 営業本部 副本部長。
1969年生まれ、埼玉県出身。92年東日本旅客鉄道株式会社入社。12年長野支社運輸部事業課課長、16年株式会社JR東日本ウォータービジネス取締役商品部長兼宣伝戦略部長、19年株式会社JRアグリ仙台代表取締役社長、22年から現職。