4.1 検証方法
リスク評価結果には、雨量の予測精度と、河川流量の計算精度が関係する。よって、事前にこれらの精度をしっかり確認し、評価結果の信頼性を検証する必要がある。
雨量については、現在から15時間先まで配信される予測値(降水短時間予報)の精度を評価する。検証期間は令和元年台風19号が襲来した期間を含む2019年10月9日9:00から10月16日8:00までとして、その期間の予測値と、その後に配信される観測値(解析雨量)を比較して、予測の誤差を計算した。誤差は、予測値から観測値を差し引いた値で評価しており、プラスの場合は予測値が実際より過大、マイナスの場合は実際より過小であった、となる。
流量については、全国の河川で観測された水位および流量がインターネット上で公開されているため(水文水質データベース、国土交通省)、そこから対象期間の観測値を入手して、計算値と比較する。ただし、システム開発時(2020年11月時点)は、信濃川水系の一部を除くほとんどの地点で令和元年台風19号時の観測流量の確定値が公表されていなかったため、今回は確定値が公表されている水位を使って計算流量の検証を行った。
4.2 雨量の予測値の検証結果
茨城県の取手地点のデータを例にすると、雨量の予測時間が先に長くなるほど誤差が大きくなる傾向があり、1時間先では最大で10ミリ程度であったのが、15時間先では最大で30ミリ程度の誤差が見られた。24時間分の累積雨量で誤差を見ると(図5)、1時間先の予測では、影響するのは1時間分の予測誤差だけとなるため、大きな差は見られなかった。ただし、最大の15時間先では、24時間のうち15時間分の予測の誤差が影響するため、検証期間中の10月11日15:00の時点で約74ミリの過大評価があった。これは雨の予測が外れたケースといえる。その後、10月12日0:00時点では、約48ミリの過小評価となった。これは、雨の降り始めを予測できていなかったケースである。このように予測に誤差が含まれると、リスクレベルの評価にも影響して実際より「大きい」あるいは「小さい」レベルとなる可能性もある。
4.3 計算流量の検証
検証地点の代表として、利根川の中流域に位置する八斗島地点と、下流域にある取手地点における計算値と観測値の比較を図6に示す。計算流量に対する比較データが観測水位である点に注意されたいが、両地点とも出水の立ち上がりおよびピーク到達のタイミングはよく合っており、本システムにより外水リスク上昇の時間的な評価ができていたといえる。また、利根川のような大河川では、上流に降った雨が下流に流れつくまでに時間差があり、上下流で河川の水位や流量のピークに時間的なズレが生じる。本システムでは、観測水位で見た場合の両地点のピーク発生の時間差が約17時間であったのに対し、計算での時間差はやや短かい11時間であったものの、時間的なズレも表現されていた。
ただしシステムで計算された流量値の精度には、改善の余地がある。令和元年台風19号時の八斗島地点の確定値のピーク流量は約13800 m
3/sを記録しており(2022年6月8日確認)、同期間の計算値のピーク(3287 m
3/s)はかなりの過小評価であったことが示された。これは、本システムで用いている分布型水循環モデルの構造や、河川流量の計算に用いる複数パラメータを全国共通で設定していることなどが関係している可能性がある(工藤ら、2016)。計算精度の改善に向けて、地区ごとに適切なパラメータを設定したり、必要に応じて内部の流出計算方法の改良などの対応が必要である。
一方、取手地点においては、降雨時のピーク流量の速報値(国土交通省、2019)は8750 m
3/sとの報道があり、計算流量のピーク(10159 m
3/s)はやや過大評価であるが、おおむね良い結果であった。ただし、取手地点では観測水位がピークから十分低下するまでにかなりの時間がかかっていたのに対して、計算流量の低下速度が早い。河川の下流域では、勾配が緩いため水位がほぼ平らになり、流れが緩慢になって水位低下に時間がかかるが、現在の流量計算方法ではその下流の影響を考慮できないため、このような誤差が生じている。よって、現時点では特に下流域において外水リスク低下の判断が早期になる場合が想定される点には留意する必要がある。