野菜物流の問題を解決していくためには、単にトラック輸送を改善すれば良いというわけでなく、物流全体のシステムを構築していかなければならない。その視点としては、大きく以下の3点がある。
(1)商物分離、混載の推進
従来、商物一致の原則によって、卸売市場が取り扱う農産物は、卸売市場に実物が搬入されるのが原則であった。そのため、特に大都市の拠点市場においては、多くの車両が集中し、限られたスペースの中で、混乱する状況が発生している。卸売市場法改正によって、商物分離が認められ、生産地から卸売市場を経由せず届け先へ直接輸送することが可能となり、物流効率化という面から、とても効果が大きい。商物分離は、出発から目的地まで、貨物車1台を貸し切り同じ荷物を運ぶ場合は、取り組みが容易である。そのような大ロットの輸送は限られており、積載量を上げるために、複数生産地の野菜を混載するなどの工夫が必要である。
(2)物流ネットワークの再構築
全国の生産地、卸売市場、小売間を結び付け、新鮮な野菜を安定的に供給するためには、リンク(輸送経路)とノード(結節点、拠点)で構成されるネットワーク全体の再構築が必要となる。これまでは、生産地と卸売市場を結び付けるリンクの貨物車をいかに確保するかといった議論だけであった。今後は、中・長距離輸送について、混載などにより野菜をいかに束ねるか、積載量を大きくする仕組みの構築が重要である。そのためには生産地側も単位農協ごとに出荷するのではなく、選果場なども含めて複数地域の野菜を集約する、あるいは地方部の卸売市場について、地域野菜を集約するノードとして機能させることを考える必要がある。同時に、消費地側でも、混載などにより束ねられてきた野菜を、複数の卸売市場あるいは小売物流センター向けに仕分けるノードを整備する必要がある。例えば首都圏のノードは、圏央道沿いなどの外周部に立地させ、中心部への貨物車流入を減らすことによって、ドライバーの拘束時間を短縮させると同時に、交通混雑を避け、計画的な輸送を可能にすることにもつながる。同時に、長距離輸送については、鉄道、船舶へのモーダルシフトを積極的に展開すべきである。輸送日数が、トラック輸送より長くなる場合があるが、温度管理を徹底することによって、解決すると考えられる。以上をまとめると図のようになる。
(3)パレット化、標準化の推進
野菜物流において、ドライバーが確保しにくい理由の1つとして、手荷役が多いということがある。10トン車では、手積み、手卸しの場合、作業にそれぞれ2時間程度かかり、大きな負担となる。そのため、パレット化の推進が欠かせないが、パレット、さらに段ボール箱のサイズが標準化されていないという問題がある。また、各生産地では、保管用に独自のパレットを利用していることが多く、一貫したパレチゼーションを目指すべきであるが、難しいという問題がある。さらに、パレットを導入しても卸売市場での回収率が悪く、レンタルパレットの仕組みがうまく機能しない。このように課題も多いが、パレット化、標準化の推進は、積み替えを容易にし、混載を進める上でも重要であり、物流システム構築において欠かせない視点である。
全国で生産されたさまざまな野菜を、全国どこへでも、比較的安価に、確実に供給するためには、物流システムの見直しが欠かせない。ノードを絡めたネットワークの再構築が必要であり、野菜のサプライチェーンについての早急な議論が必要となる。
矢野 裕児(やの ゆうじ)
【略歴】
流通経済大学流通情報学部 教授
物流科学研究所所長
横浜国立大学工学部、大学院、日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。工学博士。日通総合研究所、富士総合研究所を経て、現在に至る。
専門分野:ロジスティクス、物流。
主な著書「物流論」「現代ロジスティクス論」中央経済社。
参考文献
(1) 農林水産省・経済産業省・国土交通省(2017)「農産品物流の改善・効率化に向けて」(農産品物流対策関係省庁連絡会議中間とりまとめ)
(2) 厚生労働省(2022)「トラック運転者の労働時間などに係る実態調査事業報告書」
(3) 日本ロジスティクスシステム協会(2020)「ロジスティクスコンセプト2030」