野菜 野菜分野の各種業務の情報、情報誌「野菜情報」の記事、統計資料など

ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 持続可能な野菜流通を支える物流システムの構築

【特集】持続可能な野菜の生産・流通・消費 野菜情報 2022年8月号

持続可能な野菜流通を支える物流システムの構築

印刷ページ
流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野 裕児
矢野 裕児

【要約】

 輸送トラックのドライバー不足など物流危機といわれる状況が続いており、今後、野菜流通に深刻な影響を与えることが予想される。
 ドライバーの長時間拘束、パレット化(規格の標準化)の遅れなどの現在の野菜物流問題に加え、ドライバーの労働時間が大きく見直される「2024年問題」も控える中、野菜流通の構造そのものを変えていく必要がある。商物分離や物流ネットワークの再構築、パレット化の推進など、新たな野菜物流システムの構築が求められる。

1 物流が抱える課題

 ドライバー不足など物流危機といわれる状況が続いており、今後、野菜流通に深刻な影響を与えることが予想される。従来、野菜の生産地側では、貨物車はいつでも確保できるのが当たり前であった。必要な時に、必要なものを、安く輸送できるということが続いてきたが、これが難しくなってきている。野菜流通において、物流がボトルネックとなりつつあり、卸売市場などが円滑に機能しなくなることも予想される。持続可能な野菜流通を考える際、これを支える野菜物流システムの構築が求められているのである。
 ドライバー不足の問題は、高度経済成長期、バブル期にも発生していたが、当時の発生要因は、景気拡大などによる急激な需要増加に対して、供給が間に合わないというものであった。しかしながら、現在のドライバー不足は、ドライバーがいないという状態である。ドライバーの有効求人倍率は、2015年は1.72倍と全産業の1.11倍を大きく上回っていたが、その後さらに上昇し2019年は2.82倍となっている。現在、新型コロナウイルス感染症拡大により、一般貨物の輸送量の停滞があり、ドライバーの有効求人倍率は若干下がり、運賃も低下傾向がみられるが、今後、輸送量が回復すれば、ドライバー不足が再燃することは確実である。
 今後のドライバー数について、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会によると、2015年のドライバー数は76万7000人なのに対して2030年には51万9000人にまで減少するとしている。同じ貨物需要があるとすると、約3割の貨物が輸送できないということになる。さらに大型貨物車のドライバー数は、公益社団法人鉄道貨物協会によると、2005年が46万4000人だったのが、2020年に31万7000人、2030年には25万9000人になるとしており、さらに深刻である。大型貨物車のドライバー数が足りないということは、特に中・長距離輸送に与える影響が大きくなる。ドライバー不足が起きている背景として、若い人にとって、ドライバーは魅力があまりない職業となっており、なり手が少ないという状況がある。ドライバーは3K(「きつい」「きたない」「危険」)というイメージを持たれる職業であり、さらに他業種に比べて労働時間が2割長く、賃金が2割安いといわれている。そのため高齢化の傾向が顕著となっている。

2 野菜の物流の特徴

 野菜は、非常に多品種であり、かつ季節、天候などによって、生産量が大きく変動する。全国の生産地から、季節に合わせて、全国の消費地市場に輸送することが必要であり、近距離だけでなく中・長距離の輸送をする場合が多くなっている。野菜などの農産物は、他の品目に比べて、取り扱いが難しいという特徴がある。野菜物流の特徴を、まとめると次のようになる。

(1)長いドライバーの拘束時間
 長距離を輸送する場合が多く、運転時間が長い。また、発地側では、日々の野菜の生産量が大きく変動するほか、出荷先も変わるため、出荷量、出荷先がぎりぎりまで決まらず、貨物車側に荷物を受け取るまでの手待ち時間が発生している。さらに着地側、特に大都市の拠点市場においては、全国から多くの貨物車が集まることから、深夜を中心に混雑し、荷卸しするまでの手待ち時間が発生している。このように、運転時間が長く、さらに手待ち時間が長いため、ドライバーの拘束時間が長い。

(2)パレット化の遅れ
 卸売市場に到着した後、貨物車車両内で手積みされた段ボール箱などを、ドライバーがパレットに積みつけ、卸売市場内の作業員がフォークリフトでパレットを卸すという作業をしている場合が多い。そのため、ドライバーは長時間の運転をし、さらに手積み手卸しの作業をしている場合が多く、重労働であり、肉体的負担が大きいと同時に、拘束時間が長くなる。特に長距離輸送については、パレット化すると積載率が低下するため、手積み手卸しの場合が多い。また、外装箱のサイズも、パレット積載に合わせたものではないため、積載率が低下するという問題がある。パレットを使う場合、一貫パレチゼーション(注1)での利用が望ましいが、輸送にあたってはT11型(パレット規格のひとつ。農林水産省「青果物流通標準化ガイドライン」において、標準パレットサイズと位置付けられている。)のパレットを使うのに対して、生産地側の保管などに使われているのは、違うサイズの場合が多く、積み替えの作業が発生する。さらに、パレットの回収率が低いため、パレット・プール・システム(注2)の導入がなかなか進まないという問題がある。

(注1) 荷物を出発地から到着地まで、パレットなどの同一輸送機器に荷物を載せたまま、輸送・保管すること。
(注2) 同一のパレットをより多くのユーザーが循環利用することによって物流効率化を図ること。


(3)短い輸送時間の要請
 取引時間に合わせて、到着することが必須である一方、生産地側の出荷時刻がぎりぎりに設定されており、時間的に余裕がない輸送を要求されることが多い。さらに、鮮度の面からも短い輸送時間が要求される。

(4)小ロット多頻度輸送
 計画的な輸送スケジュールとなっていないため、帰り荷が確保しにくいという問題がある。品目が非常に多く、かつ1日に出荷できる量が限られていると同時に、消費者ニーズも多様化しており、かつ鮮度も求められることから、小ロット多頻度輸送にならざるを得ない。
 野菜物流は、非常に複雑であり、平準化が難しく、計画的に業務を進めることが難しいという特徴がある。そのため、ドライバーが過酷な労働環境の中、その場その場で対応することで行われてきた。野菜物流は、拘束時間が長い上にパレット化がされておらず手荷役が多く、かつ時間の制約が厳しいという特徴があるため、ドライバーから敬遠されやすいという側面がある。特に中・長距離輸送において、今後運べないという問題が発生する可能性が高い。

3 「2024年問題」で野菜物流が直面する課題

 現在、自動車の運転業務の労働時間は、「自動車運転者の労働時間などの改善のための基準(以下「改善基準告示」という)」により規定されている。具体的に、ドライバーの1日の拘束時間は13時間以内を基本とし、休息期間は継続8時間以上、1日の運転時間は平均で9時間までと定められている。しかしながら現状において、この規定に違反している場合も多くなっている。さらに、政府は「働き方改革」を進める中で、ドライバーの労働時間を大きく見直すことを決定している。労働基準法が改正され、2024年4月から時間外労働時間は年間960時間が上限となる。これは「2024年問題」ともいわれ、中・長距離輸送を中心に、大きな影響を与えると考えられる。
 東京都中央卸売市場が取り扱っている野菜の輸送距離をみると、重量ベースで500~1000キロメートルが16.9%、1000キロメートル以上が22.9%となっており、長距離輸送が4割弱を占めている。このような長距離輸送は、時間外労働時間の上限を超えてしまうこととなる。
 長距離運行に従事するドライバーの1年間の拘束時間をみると、全体では「3300時間未満」が68.2%、「3300時間以上~3516時間以下」が24.8%、「3516時間超~3840時間以下」が 5.8%となっている。さらに、発荷主が農業・水産品出荷団体の場合、「3300時間未満」が46.3%、「3300時間以上~3516時間以下」が
35.8%、「3516時間超~3840時間以下」が10.5%、さらに「3840時間超」が
7.4%となっている。「3516時間超」が
17.9%を占めているが、これは現状の改善基準告示の規定を超えて、無理な運転をしているということになる。さらに、2024年4月からの労働基準法改正によって問題となる「3300時間超」が53.7%と、半数以上が時間外労働時間の上限規制を違反している状況となる。
 また、長距離輸送について、従来のような1人の運転手による輸送は困難になる。そのため、まずは鉄道、船舶を利用したモーダルシフトの推進が考えられるが、貨物車を利用する場合、中継輸送などにより、複数の運転手がつないでいく形で、長距離を輸送することが必要となる。例えば九州から関東の場合、3日目販売が難しくなり、4日目販売になるなどの影響がでる。このように「2024年問題」は、単に物流の問題というだけでなく、野菜流通の構造そのものを変えていく可能性が高い。

4 求められる野菜物流システムの構築

 野菜物流の問題を解決していくためには、単にトラック輸送を改善すれば良いというわけでなく、物流全体のシステムを構築していかなければならない。その視点としては、大きく以下の3点がある。

(1)商物分離、混載の推進
 従来、商物一致の原則によって、卸売市場が取り扱う農産物は、卸売市場に実物が搬入されるのが原則であった。そのため、特に大都市の拠点市場においては、多くの車両が集中し、限られたスペースの中で、混乱する状況が発生している。卸売市場法改正によって、商物分離が認められ、生産地から卸売市場を経由せず届け先へ直接輸送することが可能となり、物流効率化という面から、とても効果が大きい。商物分離は、出発から目的地まで、貨物車1台を貸し切り同じ荷物を運ぶ場合は、取り組みが容易である。そのような大ロットの輸送は限られており、積載量を上げるために、複数生産地の野菜を混載するなどの工夫が必要である。

(2)物流ネットワークの再構築
 全国の生産地、卸売市場、小売間を結び付け、新鮮な野菜を安定的に供給するためには、リンク(輸送経路)とノード(結節点、拠点)で構成されるネットワーク全体の再構築が必要となる。これまでは、生産地と卸売市場を結び付けるリンクの貨物車をいかに確保するかといった議論だけであった。今後は、中・長距離輸送について、混載などにより野菜をいかに束ねるか、積載量を大きくする仕組みの構築が重要である。そのためには生産地側も単位農協ごとに出荷するのではなく、選果場なども含めて複数地域の野菜を集約する、あるいは地方部の卸売市場について、地域野菜を集約するノードとして機能させることを考える必要がある。同時に、消費地側でも、混載などにより束ねられてきた野菜を、複数の卸売市場あるいは小売物流センター向けに仕分けるノードを整備する必要がある。例えば首都圏のノードは、圏央道沿いなどの外周部に立地させ、中心部への貨物車流入を減らすことによって、ドライバーの拘束時間を短縮させると同時に、交通混雑を避け、計画的な輸送を可能にすることにもつながる。同時に、長距離輸送については、鉄道、船舶へのモーダルシフトを積極的に展開すべきである。輸送日数が、トラック輸送より長くなる場合があるが、温度管理を徹底することによって、解決すると考えられる。以上をまとめると図のようになる。

018a


(3)パレット化、標準化の推進
 野菜物流において、ドライバーが確保しにくい理由の1つとして、手荷役が多いということがある。10トン車では、手積み、手卸しの場合、作業にそれぞれ2時間程度かかり、大きな負担となる。そのため、パレット化の推進が欠かせないが、パレット、さらに段ボール箱のサイズが標準化されていないという問題がある。また、各生産地では、保管用に独自のパレットを利用していることが多く、一貫したパレチゼーションを目指すべきであるが、難しいという問題がある。さらに、パレットを導入しても卸売市場での回収率が悪く、レンタルパレットの仕組みがうまく機能しない。このように課題も多いが、パレット化、標準化の推進は、積み替えを容易にし、混載を進める上でも重要であり、物流システム構築において欠かせない視点である。
 全国で生産されたさまざまな野菜を、全国どこへでも、比較的安価に、確実に供給するためには、物流システムの見直しが欠かせない。ノードを絡めたネットワークの再構築が必要であり、野菜のサプライチェーンについての早急な議論が必要となる。

矢野 裕児(やの ゆうじ)
【略歴】
流通経済大学流通情報学部 教授
物流科学研究所所長
横浜国立大学工学部、大学院、日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。工学博士。日通総合研究所、富士総合研究所を経て、現在に至る。
専門分野:ロジスティクス、物流。
主な著書「物流論」「現代ロジスティクス論」中央経済社。

 
参考文献
(1) 農林水産省・経済産業省・国土交通省(2017)「農産品物流の改善・効率化に向けて」(農産品物流対策関係省庁連絡会議中間とりまとめ)
(2) 厚生労働省(2022)「トラック運転者の労働時間などに係る実態調査事業報告書」
(3) 日本ロジスティクスシステム協会(2020)「ロジスティクスコンセプト2030」