種子は農業生産の基本となる資材であり、基本的な特性として、品目の遺伝的特性を踏まえた斉一性、病害虫に侵されていない健全性、生産条件下において速やかな発芽と十分な初期生育を確保するビガー(勢い)などが求められる。同一作物や品種が大規模に作付けされる野菜の機械化一貫体系においては、これらの基本的な特性に加え、機械的な播種作業に対応した種子形態に改変することにより、播種や育苗の作業性や効率性を向上させることができる。
このような目的のため、ヨーロッパでは1960年代頃から種子処理技術の開発に取り組まれており、わが国でも1980年代頃から種苗メーカーなどにより開発が進められ、現在では北海道などの大規模産地を中心ににんじん、レタス、たまねぎ、ブロッコリーなどで広く利用され、キャベツ、だいこん、はくさい、トマト、トルコギキョウなどでも利用が拡大している。
(1) シードテープ
水溶性繊維や微生物分解性素材を使用したテープに種子を一定間隔に封入したもので、播種の深さや間隔が均一で、一直線上に発芽、生育するため、機械などを利用した栽培管理の効率化を図ることができる(写真1)。
(2) ペレット種子
天然粘土鉱物(
珪藻土、タルク、粘土、炭酸カルシウムなど)に結合材(水溶性ポリマーなど)を添加した造粒素材(粉末を固めて粒状に形成したもの)で種子を包み、一定のサイズの丸粒状に成型したもので、にんじんなどの形態的に機械播種に適さない種子でも効率的な播種作業が可能となる(写真2)。
ペレット種子には、かん水により種子が膨潤することで造粒素材が割れて発芽に至る割層タイプと、かん水により造粒素材が溶けて種子が露出して発芽に至る溶解タイプがあり、後者は草花などの微細種子に利用されることが多い。また、造粒素材に発芽後の初期生育などを促進する菌根菌(植物の根に菌を作って共生する菌類)などを添加したものも利用されている。
(3) フィルムコート種子
登録農薬を加えた水溶性ポリマー溶液で種子を薄層に被覆したもので、発芽から生育初期の病害虫制御が効率化される(写真3)。薬剤が種子に固着していることから、かん水や降雨により薬剤が一気に流れ出すことがなく、持続的な病害虫抑制効果が期待でき、また薬剤の飛散が少ないため作業者の安全面にも有効と考えられる。
(4) プライミング種子
植物の種子は適切な水分、酸素、温度条件に一定時間置かれることで発芽に至るが、これに長時間を要する品目もある。そこで、発根しない程度の少量の水分を種子に与え、発芽のための内部代謝を活性化させたものである。これにより、播種後発芽までの時間短縮、発芽や苗立の均一化、不良環境下での発芽向上などが期待できる。
(5) ネーキッド種子および種子の研磨処理
ほうれんそうなどの硬実種子の発芽を促進する技術として、ネーキッド種子は果皮や種皮を
剥皮して裸状にしたものであり、種皮などに付着する病原菌などを除去することができるが、播種後の土壌病原菌などの影響を受けやすくなるため、殺菌剤などによるフィルムコートと併用される場合もある(写真4)。また研磨処理は、砂などの研磨剤あるいは硫酸などにより、種皮を薄く加工することで、発芽に必要な水分吸収を促すことができる。