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話題 野菜情報 2022年4月号

野菜をペーストにして乾燥させたシート食材「VEGHEET(ベジート)」

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株式会社アイル 代表取締役社長 早田 圭介
早田圭介

1.野菜シート「ベジート」の歩み

 野菜シート「ベジート」とは、野菜をペーストにして乾燥させたシート食材である。現在、にんじん、だいこん、かぼちゃ、トマトの4種類を全国のスーパーマーケットなどで販売している(写真1)。原料は野菜と寒天のみのため、安全安心な食材である。賞味期限は常温で2年もつため、防災食としても活用可能な商品である。

写真1  野菜の色そのままのカラフルな野 菜シート「ベジート」
 野菜シートとの出合いは1998年、熊本県にある大手()()メーカーの工場の一角で、試作を繰り返していたのを見学したのが最初であった。当時は有明海沿岸に3000基以上ある海苔乾燥機を使用し、野菜をすり潰したものを機械に投入してシート化していた。海苔と同様に繊維質を重ね合わせて成形し、プレスして熱風乾燥させたものであった。野菜そのものの色でカラフルなシートではあるが、紙を食べているような食感で、色も1週間程度で変色するため、アルミ包材を使用しなければならない食品だった。健康食品会社に販売したが、全くリピートがない状態で市場に受け入れない商品でもあった。
 その後、商品改良を続けていたが解決できず、原価を安くする目的で海苔メーカーが中国に工場を建設したが、完成直後に同社が民事再生となり事業を断念。同時に野菜シートの事業が一時中断することになった。
 一方、問題点の一つであった食感の改良については2005年に、長崎県内にある大学と共同開発を開始した。2006年には、野菜シートの事業を継承する株式会社アイルを設立した。同年、食感の改良に成功し、現在の商品の原型が出来た。2008年には、日本商工会議所が主催する「ビジネスプランコンテスト(注1)」でグランプリを受賞し、事業が少しずつ動き始めた。
 
(注1)地域の課題解決や産業の活性化に貢献するビジネスプランを表彰するコンテスト。
 
 グランプリ受賞をきっかけに1000万円の資金調達をし、海苔乾燥機を購入した。量産化の実験を重ねたが、乾燥時間が海苔の4倍以上も必要で、海苔乾燥機での生産を断念した。その後、ベンチャーキャピタルから2000万円を資金調達し、野菜シート専用の乾燥機の開発に着手した。乾燥に関する基礎研究からスタートし、2014年にプロットタイプの乾燥機を完成させ、新たな乾燥機で生産した商品を海苔の老舗店で販売を開始した。また、フランス、イタリア、アメリカ、シンガポールなど海外での展示会へも出展し、本格的な販売に向けての準備を開始した。
 その後、量産体制を確立するための新工場建設を計画し、ベンチャーキャピタルから2億円を資金調達して新工場と量産型乾燥機を設置し、試験操業を開始した。2016年には「ニッポン新事業創出大賞(注2)」で中小企業長官賞を受賞し、環境・地域・人にやさしい事業としても高い評価を受けることができた。
 
(注2)全国各地のニュービジネス協議会(ニュービジネス振興のための起業家の育成・支援などを行う経済団体)が推薦した企業から今後の日本の産業界を担う企業を選ぶ。
 
 海外の展示会でも、環境に配慮した食品ということで評価が高かった。海苔と比較し、価格面での問題を抱える日本国内より、海外での展開の方が有効であると実感したことで、海外戦略として(1)欧州(2)北米(3)アジアの順番で展開していく方向性を決定した。
 2017年、農林水産省が主催するフードコンテスト「フードアクション・ニッポン・アワード(注3)」で1万点以上の中から10選に選ばれ「イトーヨーカドー賞」を受賞し、翌年の2018年には、イトーヨーカドー全店での販売を開始した。一時は生産が追いつかないような状態となり、社員を増員し増産体制を整備。衛生管理面も充実させるために国際基準であるISO22000を取得し、コンビニエンスストアでも販売が可能となる生産体制を確立した。
 
(注3)国産農林水産物の消費拡大に寄与する事業者・団体等の優れた取り組みを表彰し、全国へ発信することにより、事業者・団体等によるさらなる取り組みを促進することを目的として2009年に創設した表彰制度。
 
 しかし、大手コンビニエンスストアへ商品提案し、具体的な商品が完成しつつあった時期に新型コロナウイルスがまん延した。商談がストップし、生産もできない状態となった。その間、雇用調整助成金などを活用し、社員教育と商品開発を実施し、生産技術と衛生管理レベルの向上に努め、ベジートを活用したレシピの開発や調味料やフルーツなどの新商品開発にも注力して、50種類以上の新種を完成させた。衛生管理では2020年に国際最高レベルのFSSC2200を取得し、2021年には有機JAS認証も取得した。
 2022年1月、オーガニックスーパーにてオーガニックベジートを販売開始した(写真2)。同年2月には回転寿司チェーンにおいて恵方巻の新商品として販売し、1日で4万食を販売した(写真3)。同年3月には100円ショップで、4月には健康食品会社での販売を予定している。

写真2  オーガニックスーパーで販売を開始したオーガニックベジート

写真3 ベジートを使った恵方巻

2.環境・地域・人にやさしいベジート

 弊社の事業は「環境・地域・人にやさしい」事業を展開している。ベジートの原料は野菜と寒天のみで安全安心な食材である。原料の野菜は、大きさや形、傷などの理由で市場に出回らない規格外の野菜を使用している。収穫されずに圃場(ほじょう)で廃棄されていたものを、悪い部分をカットするなど人の手を加えてもらい原料としている(写真4)。仕入の基準は(1)腐敗部分がない(2)土が付着していない、の2点のみである。しかも、少なくとも生産原価で購入することにしている。生産者にとっては新たな収入源になり、圃場で生産したもののほとんどが販売できるようになる。廃棄をなくすことで環境負荷を軽減し、また、生産者の収入確保は、高齢化が進んで後継者が不足している日本の農業に役立つものと考えている。

写真4 ベジートの原料となるにんじん

 野菜の種類によって異なるが、平均すると生産される野菜全体の30%程度が規格外となるため、市場に出回らない。そう考えると、年間約500万トンもの野菜が収穫されることなく廃棄されていることになる。もし、500万トンを原料にベジートを製造すると、500億枚が生産可能となる。すなわち、野菜の国内生産量の30%が、廃棄物から保存できる野菜に生まれ変わらせることができる。
 2050年には世界の人口が100億人になり、食糧危機が具体的な問題になると言われている。主食である穀類は保存可能であるため、年間生産量の約30%が在庫としてストックされている(図)。しかも消費量に生産量が追いついている状態でもあるので、ある程度準備ができているように思える。それでも昨今は、穀類の高騰が話題となり、食品の値上げも連日報道されている。

図 世界全体の穀物生産量、消費量、期末在庫率

 しかし、常温で保存できる野菜はほとんどない。フリーズドライの商品は存在するが、体積が大きいため物流コストが高く、保存にも適していない。ベジートは、体積と重量をそれぞれ10分の1以下にすることができ、移動と保存に最適である。物流コストも安く、世界中に流通させることが可能となる。世界的に見ても規格外野菜は存在する。世界中の野菜の30%を規格外野菜と考えると、それをベジートにすることができれば、穀類と同等のストックが確保できる。人類にとって貴重な食料資源となる可能性がある。
 ベジートの工場は野菜の生産地に設置する必要があるため、地方創生の一役にもなる。現在の本社工場は人口3万人の長崎県平戸市にある。同市の主幹産業は農業と水産業と観光業で、製造業がほとんどない地域である。少子高齢化と過疎化が加速度的に進行している中、新たな製造業を興すことは、若者の流出を抑制する効果があり、地域貢献が期待できる。過疎化が進む地域で、ベジート工場を設置していくことで地域が活性化すれば、地方を元気にすることができるだろう。一方、都市部では、スーパーマーケットなどで売れ残った野菜を原料に生産することも可能で、これもフードロス削減となり、国連が採択したSDGsに貢献できる事業でもある。
 野菜をペーストにして乾燥させるべジートは、野菜の栄養成分をほとんど含んだ状態の商品である。特に食物繊維が豊富で、1枚(20×19センチ)に約2グラム含まれている。これは日本の成人女性に不足しているといわれる食物繊維の1日当たりの不足分と同じ量で、1日1枚食べれば不足分を補うことができる。この他、にんじんやかぼちゃにはβ-カロテン、トマトにはリコピンなど、その野菜の代表的な成分が多く含まれていて、有効成分を効率よく摂取できる。
 野菜の色をそのまま変化させることなくシート化しているベジートは、料理に使用しやすく、巻いたり、挟んだり、トッピングに取り入れることで食卓をカラフルにすることができる(写真5)。弊社では、料理レシピアプリ「クックパッド」に350以上のレシピをアップしている。原料は野菜と寒天のみで、グルテンフリーでアレルゲンフリーである。ベジートは寒天を含んでいるため、水を含ませて煮沸させた後、冷却させるとジュレができる。水の割合を調整すれば嚥下(えんげ)困難者や乳児でも食べることができる柔らかさになり、幅広い世代に食べてもらうことができる。ベジートは、環境・地域・人にやさしい食品と言える。

写真5  料理に幅広く使え、食卓を華 やかにしてくれるベジート

3.今後の展望

 シート食材のパイオニアを目指す弊社では、これまで野菜だけでなくオレンジやグレープ、マンゴー、なしなどの果物や、みそ、しょうゆ、唐辛子、こしょうといった調味料など50種類以上の商品を開発し、調理のバリエーションを考えた商品開発を行っている。生産ラインで製造を行う職員は、通常業務の他に(1)商品開発(2)レシピ開発(3)機械開発(4)衛生管理システム開発の4つの開発のいずれか一つを担当している(写真6)。原料の仕入れ状況に応じてラインを停止し、職員全員が開発を行う。昨今はコロナ禍の影響でラインを停止している期間が多く、この間、それぞれの開発を実施している。(1)50種類の新商品(2)350以上のレシピ(3)機械の熱効率の20%アップとロス率の大幅削減(4)FSSC22000と有機JAS取得-と各々大きな成果をあげている。専門的な知識がない職員でも「世の中にない商品だから職員全員が専門家」として、少しずつ知識を習得しレベルアップを図っている。

写真6 商品開発、レシピ開発、機械開発、衛生管理システム開発を行う職員

 今後も「商品製造」と「商品開発」を並行して実行していく戦術で事業を展開していく予定である。地方都市での課題の一つである人材不足を、社員教育とモチベーションアップによって克服していく。職員が積み上げていく「自信」が企業の財産になり、レベルアップに結びつく。過疎化で悩む地方都市では社員教育に最も力を入れて取り組まなければならないと考えている。
 事業拡大に欠かせないのが生産工場の増設である。弊社では、生産工場を提携企業や団体に設備から運営まで委託する委託工場を設置していくことでの増設を計画している。すでに国内2カ所と海外2カ所の候補地があり、協議を進めている。資金力に問題があるベンチャー企業にとって、資金を調達して自社工場を増設していく方法ではスピード感がない。国内外で新たな食材として急拡大させていかなければ、弊社の存在価値はない。委託工場で生産したものは、全て弊社が購入する契約で、工場運営のリスクを相互に補完するシステムである。技術提供と営業を弊社が担うことで海外の大手企業とも提携が可能となっている。
 規格外野菜を活用することは、環境問題に積極的に取り組んでいる欧米での評価が高い。フランスでは世界最大級の市場「ランジス市場」から出る年間6万トン以上の規格外野菜を無償で提供してもらい、商品を生産する計画が進んでいる。現在はコロナ禍の影響で中断しているが、収束後には協議を再開する予定である。この他にも多くの国々で協議可能な企業が複数存在しており、保存できる野菜は、人類にとって貴重な食品であると国際的に評価されつつある。
 現時点での最重要課題は、消費者への認知度アップである。日本国内では、オーガニックスーパーや、回転寿司チェーン、100円ショップ、健康食品会社などと、2022年に入り大手企業での販売がスタートし、認知度を徐々に上げていくことが可能となった。2022年度中に大手コンビニエンスストアでの販売が実現すると、一気に認知度をアップできるだろう。一方、パッケージの素材を強化することで、現在2年の賞味期限を5年に延長することが可能である。自然災害が多い日本においては、防災食として利活用できる一面もある。防災食は主に自治体が備蓄しているが、全国の自治体に防災食として販売していくことでも認知度を上げられると考えている。すでに福岡市と連携して、災害時にベジートを活用するための料理教室を2年連続で開催し、好評で今後も当事業を継続する予定である。
 海外では米国のウォルマートやコストコ、欧州のカルフールやメトロといったグローバル企業にアプローチしている。日本国内のコストコでは販売実績があり、米国での展開も今後具体的に提案していく予定である。また、カルフールは、本社がフランスにあるオーガニックスーパーの親会社でもあるため、アプローチがスムーズな可能性が高い。大手量販店での販売で世界的な認知度をアップしていく計画である。
 グローバルな量販店と各国の地域に根づく製造会社との連携で、生産と販売を強化し、世界の家庭に必ず1パックはベジートがあるような商品に成長させたいと考えている。保存できる野菜「ベジート」で、人類の食糧を確保し、争いのない平和な社会を目指す。
 
早田 圭介(そうだ けいすけ)
【略歴】
1989年野村證券に入社し、中小企業を中心に営業活動で実績を積んだ後、1993年に長崎県平戸市にUターンし、父の食品卸売事業を継承。ふるさとのマーケット分析の結果から食品製造業の起業を目指し、全国を行脚。1998年に野菜シートと出合い、以来同事業の研究開発を20年以上続け、2018年に全国販売を開始した。