野菜シート「ベジート」とは、野菜をペーストにして乾燥させたシート食材である。現在、にんじん、だいこん、かぼちゃ、トマトの4種類を全国のスーパーマーケットなどで販売している(写真1)。原料は野菜と寒天のみのため、安全安心な食材である。賞味期限は常温で2年もつため、防災食としても活用可能な商品である。
野菜シートとの出合いは1998年、熊本県にある大手
海苔メーカーの工場の一角で、試作を繰り返していたのを見学したのが最初であった。当時は有明海沿岸に3000基以上ある海苔乾燥機を使用し、野菜をすり潰したものを機械に投入してシート化していた。海苔と同様に繊維質を重ね合わせて成形し、プレスして熱風乾燥させたものであった。野菜そのものの色でカラフルなシートではあるが、紙を食べているような食感で、色も1週間程度で変色するため、アルミ包材を使用しなければならない食品だった。健康食品会社に販売したが、全くリピートがない状態で市場に受け入れない商品でもあった。
その後、商品改良を続けていたが解決できず、原価を安くする目的で海苔メーカーが中国に工場を建設したが、完成直後に同社が民事再生となり事業を断念。同時に野菜シートの事業が一時中断することになった。
一方、問題点の一つであった食感の改良については2005年に、長崎県内にある大学と共同開発を開始した。2006年には、野菜シートの事業を継承する株式会社アイルを設立した。同年、食感の改良に成功し、現在の商品の原型が出来た。2008年には、日本商工会議所が主催する「ビジネスプランコンテスト
(注1)」でグランプリを受賞し、事業が少しずつ動き始めた。
(注1)地域の課題解決や産業の活性化に貢献するビジネスプランを表彰するコンテスト。
グランプリ受賞をきっかけに1000万円の資金調達をし、海苔乾燥機を購入した。量産化の実験を重ねたが、乾燥時間が海苔の4倍以上も必要で、海苔乾燥機での生産を断念した。その後、ベンチャーキャピタルから2000万円を資金調達し、野菜シート専用の乾燥機の開発に着手した。乾燥に関する基礎研究からスタートし、2014年にプロットタイプの乾燥機を完成させ、新たな乾燥機で生産した商品を海苔の老舗店で販売を開始した。また、フランス、イタリア、アメリカ、シンガポールなど海外での展示会へも出展し、本格的な販売に向けての準備を開始した。
その後、量産体制を確立するための新工場建設を計画し、ベンチャーキャピタルから2億円を資金調達して新工場と量産型乾燥機を設置し、試験操業を開始した。2016年には「ニッポン新事業創出大賞
(注2)」で中小企業長官賞を受賞し、環境・地域・人にやさしい事業としても高い評価を受けることができた。
(注2)全国各地のニュービジネス協議会(ニュービジネス振興のための起業家の育成・支援などを行う経済団体)が推薦した企業から今後の日本の産業界を担う企業を選ぶ。
海外の展示会でも、環境に配慮した食品ということで評価が高かった。海苔と比較し、価格面での問題を抱える日本国内より、海外での展開の方が有効であると実感したことで、海外戦略として(1)欧州(2)北米(3)アジアの順番で展開していく方向性を決定した。
2017年、農林水産省が主催するフードコンテスト「フードアクション・ニッポン・アワード
(注3)」で1万点以上の中から10選に選ばれ「イトーヨーカドー賞」を受賞し、翌年の2018年には、イトーヨーカドー全店での販売を開始した。一時は生産が追いつかないような状態となり、社員を増員し増産体制を整備。衛生管理面も充実させるために国際基準であるISO22000を取得し、コンビニエンスストアでも販売が可能となる生産体制を確立した。
(注3)国産農林水産物の消費拡大に寄与する事業者・団体等の優れた取り組みを表彰し、全国へ発信することにより、事業者・団体等によるさらなる取り組みを促進することを目的として2009年に創設した表彰制度。
しかし、大手コンビニエンスストアへ商品提案し、具体的な商品が完成しつつあった時期に新型コロナウイルスがまん延した。商談がストップし、生産もできない状態となった。その間、雇用調整助成金などを活用し、社員教育と商品開発を実施し、生産技術と衛生管理レベルの向上に努め、ベジートを活用したレシピの開発や調味料やフルーツなどの新商品開発にも注力して、50種類以上の新種を完成させた。衛生管理では2020年に国際最高レベルのFSSC2200を取得し、2021年には有機JAS認証も取得した。
2022年1月、オーガニックスーパーにてオーガニックベジートを販売開始した(写真2)。同年2月には回転寿司チェーンにおいて恵方巻の新商品として販売し、1日で4万食を販売した(写真3)。同年3月には100円ショップで、4月には健康食品会社での販売を予定している。