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話題 野菜情報 2022年3月号

ジューシー干し野菜?!~身体と心と環境に良いことづくしの干し野菜~

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干し野菜研究所 Ali(廣田 有希)
廣田有希
 ジューシー干し野菜。耳慣れない方がほとんどだと思います。それもそのはず、私が呼んでいる”半生に干した野菜”のことなのです。
 一般的に”干し野菜”というと、干し椎茸、切り干し大根などの、いわゆる”乾物”を意味します。もともと、乾物は保存するためのものだからカラカラに干しています。ですが、私はこの乾物があまり得意ではありませんでした。
 そんな私がジューシー干し野菜を始めたきっかけは、ミニトマトでした。私は2008年より築地で料理道具の専門店を営んでおり、たくさん頂いて食べきれなかったミニトマトを盆ざるで干してみたところ、とてもおいしかったのです。
 乾物の本当の魅力を知らずに育った私にとって、”半生に干した野菜”が生のそれよりもおいしくなっているということは大変な衝撃でした。いろんな野菜を干してみると、これまで感じることがなかった野菜の存在感を知るようになり、すっかり干し野菜の魅力にはまり、ついには、野菜を干すための国産の干しかごを作りたいと思い(当時は国産物がなかった)製造を開始しました。
 
写真 ある日のジューシー干し野菜
 
 こうして干し野菜の魅力を広く皆さんに知らせるために、晴れたら干すという生活が始まったのです。
 野菜は数時間~1日(場合によっては数日)干すと、水分が程よく抜けるため、野菜の味が濃く感じられ、甘さも旨みも増します。干し野菜をするようになってから、調味料を使う量が圧倒的に少なくなってきました。干すことで水分が減り、野菜の味の”輪郭”がはっきりするため、調味料は少しまとわせる程度で良いイメージになり、次第と料理への姿勢も変わります。ここで、ジューシー干し野菜のおすすめポイントを挙げてみたいと思います。
 1 野菜の甘味、旨みが増す
 2 えぐみ、青臭さが減る(なくなる)
 3 食感が良くなる
 4 水分が出にくくなるので、保存食に向く 
 5 火の通り、味の染みこみが早い
 6 煮崩れがしなくなる(防げる)
 7 おいしく冷凍保存できる
 8 皮や芯がおいしく食べられる(生ゴミ減)
 さらに、乾物状態まで干すと…
 9 保存食・携帯食・非常食が作れる(旅行、キャンプなどでも大活躍)
 また、食育ポイントとしては…
 10 野菜の味をきちんと感じるようになるので、調味料の味に頼ることが減る(減塩効果)
 11 野菜の味、個性、生命を感じる
 12 太陽、風を感じる暮らしになる(都会にいると自然に生かされていることを感じることは難しいので)
 野菜は切った後に太陽光に当てると、野菜自身がまだ生きていると勘違いし、生きるための糖を作る結果、甘味が増します。旨みも紫外線の影響です。
 青臭さは野菜にもよりますが、ピーマンを干す実験では風が青臭さの成分を飛ばすということがわかりました。
 食感に関しては、水分が少なくなる結果、お漬物のような「パリパリ」「コリコリ」という食感が得られます。うり科の野菜は火の通し方によってはべちゃっとなりがちですが、それを改善します。歯切れが良くなると、食べた時の印象が変わるので、食感も味わいの一つということでしょうか。
 
写真 冬支度
 
写真 ジューシー干し野菜のピクルス
 
写真 ジューシー干し野菜のフリッター
 
 常備菜や漬物などの保存食を作る際も、保存している間に水分が出ないのでより長持ちするようになります。塩もみをする必要もないので減塩にもなり、塩なしで振り塩と同じ効果が得られます。
 また、火の通りが早く、味も染み込みやすくなり、煮崩れもしにくくなります。鍋や煮込み料理の時にその効果が分かると思います。
 「乾物」は冷蔵冷凍機能のない時代の保存方法。一方、半生のジューシー干し野菜は、水分が残っているので常温での保存はできないのですが、冷蔵か冷凍保存に向いています。しかもおいしくできます。買い物に行かずとも、ジューシー干し野菜が冷凍庫にあれば、カレー、シチュー、スープなどがいつでもできてしまいます。
 さらに干し野菜は食卓を華やかにしてくれます。数年前の台風の時、1週間近い停電を経験しましたが、その時に干し野菜や乾物、穀物などを常備していたため、豊かな食卓になったことを覚えています。非常時でなくとも、天気が悪かったり、具合が悪く外に出られない時などにも大変重宝します。
 東京で生まれ育った私は、自然に生かされていることを感じることなく育ったのですが、干し野菜を通して、食べ物の命を感じるようになりました。そして毎日、天気を気にするようになり空を見上げる日々になりました。風が吹けば、野菜が乾く!と思うように。雨が降りそうになると急いで帰ったり、まるで、わが子を思うような感覚になっていきました。太陽を浴びて日向ぼっこをすると、緊張から解放されたかのように野菜の表情が豊かになり、味の面でもおいしくなっている。「緊張がほぐれたら個性を出す」まるで人と同じだなと思うようになってからは、親近感が湧くようにもなりました。
 干し野菜を通して、野菜に近づき、そして「食べる」ことに対して、何か大切なことを教えてもらっているように思えました。だいこんの“葉と実の間”やキャベツの“芯の部分”の成長点は、どれもほくほく感があります。そもそも成長点なのだから生命の湧き出すところでそこを捨ててしまうなんてなんてもったいない!いつも捨てていたところが実はおいしく食べられることにも気付きました。
 一人暮らしやあまり料理をしない時には持て余してしまいがちなだいこん1本、夏のすいかなども、干せばおいしく冷凍保存ができる。野菜を無駄にすることなくおいしく食べ切ったり、保存ができるということを学びました。
 
写真 star家の人々
 
 日本の生ゴミの量はかなり多く、家庭から出る生ゴミも相当量と聞きます。そもそも私が食の世界に入ったのも、大学時代の児童福祉の現場の経験からでもあります。国内外の食事に恵まれない子供たちに触れ、食べ物はできるだけいただくようにしたいと考えるようになり、廃棄を見るたびに残念な気持ちになります。
 その点、干し野菜は保存できるので無駄がなくなります。そして食べ物をありがたく、丁寧にいただくようになると、「足るを知る」という生き方になる気がします。干し野菜で、皆が自分に必要な量を手にし、それを丁寧に頂く。食べきれない分は干して、太陽チャージして保存する。そうすると、雨の日や外に出られない時にもお腹の中は日向ぼっこができるのです。干し野菜を通して、”食べること”とはどういうことなのか、今一度考えて欲しいと考え、その魅力を伝えています。
 干し野菜は干し加減で保存の仕方、保存期間も変わってきます。ライフスタイルや好みはひとそれぞれ。自分にとって心地よい作り方、食べ方を見つけてもらいたいなと思います。
 そんな野菜の干し方は、(1)新鮮な野菜を洗う(2)水気を拭き取る(3)晴れている時に好みの干し加減まで干す―が基本です(注)。
 曇りの日はお勧めしていません。乾くまで時間がかかるため、褐変しやすいのと、晴れの日とは異なった仕上がりになるからです。
 初めての方は、だいこんが干しやすいと思います。厚さは好みですが私のお気に入りは1.5~2センチの厚切り。これを晴れた日に、盆ざるや干しかごに置いて、外に出す。1日でもいいのですが、ソテーをする場合は1日半~2日干しています。2日間干す場合は夕方一旦家に取り込み、蒸気の上がっている台所は避けて、廊下などに置いています。そしてまた翌日(もちろん晴れです!)外に出す。2日ほど経って、くにゃくにゃっとしたら、出来上がり。これを油を引いたフライパンでじっくりソテー。両面きつね色に焼けたら出来上がり!甘くいい香りがしてきます。好みで少々塩を振りますが、おいしい油で焼くとほとんど味付けせず食べる人も多いです。この要領でいろいろな野菜を干していただいています。
 
写真 ジューシー干し大根の唐揚げ
 
 干し野菜は、あまり深く考えずに、晴れたら干してみる。半日~1日干して、おいしいなと思う加減で取り込む。半生の場合は数日冷蔵保存か、くにゃんくにゃんになるまで干したら冷凍保存可。これだけです。地域によって干しやすい、干しにくいなどいろいろあると思うのですが、その土地で生活している方に聞くと、いろいろ教えてくれます。日本も津々浦々、私もまだまだ学び続けています。
 干すことで、野菜が太陽や風、土、種があっての存在であること、農家さんの愛情が育ててくれていることなど、色々なことに気付きました。
 都会には自然がないと思っていましたが、毎日食べる食材が、実は自然そのもの。この自然の恩恵が身体を作ってくれていると思うと、水をきれいに使いたい、命を大切にしたいなど、さまざまな学びがあります。また、旅先には自分で作った干しかごを持って行き、世界の野菜を現地の太陽と風で干しています。全ての人に等しくある太陽は、食べ物をどこでも保存させてくれるスーパーエコな存在。干して世界が繋がるようにとの願いから、海外の人にも伝えています。
 
写真 手作り干しかご
 
 食べる人の身体と心をほっこりさせてくれる、日向ぼっこした干し野菜。まだ干したことのない方はぜひ干してみてください。
 
(注)参考:野菜の詳しい干し方ついては、
1.podcast 干し野菜と旅するロマンで、野菜の干し方を一つずつ話しています(24節気72候の干し野菜の話し)
2.youtube 干し野菜研究所 こちらでは、画像で干し方のレクチャーをしています
3.干し野菜研究所ホームページ https://sunnylifelab.com

 
Ali(アリ・本名 廣田(ひろた) 有希(ゆき)
【略歴】
 フードコーディネーターとして駅ナカなどの店舗開発に携わった後、家業である厨房設備の会社に入社。その後料理道具の店“つきじ常陸屋”を築地と米国・ロサンゼルスに開く。
 野菜や魚を干す”干しかご”の国産品がなかったのをきっかけに、国産干しかごの製造を開始。それを機に干し野菜の研究を始める。「天と地と胃袋のむすび」をテーマに活動中。