昨年、コロナ禍での家庭用冷凍食品は、家庭内での調理が大幅に増加し、使用頻度の増加、多面的な使用など、新たな需要や使用方法に変化が生じた。また、新たに冷凍食品の良さに気づいた、あるいは非常食としての新規顧客の獲得も進んだ。そうした中、今後の課題として、新規顧客に一過性ではなく継続的に利用されること、あるいはさらなる新規顧客獲得などが求められており、そこへの新たなアプローチや展開が必要となっている。
一方、業務用の回復にはまだまだ時間がかかりそうである。外食産業では、緊急事態宣言・まん延防止対策などによる休業や時短営業が継続され、企業の社員食堂などの産業給食では、在宅勤務が定着し、食数は元には戻らない状況などが継続している。学校給食でも、昨秋にはおおむね再開したが、短縮授業や時差通学、あるいは始業の遅れなどもあり、完全には回復していない。当協会の調査では、デリカ総菜でも冷凍食品の使用頻度が減っている。しかしながら、当協会が実施中の学校給食調査では、より調理が簡便な商品などが求められる傾向が出てきており、冷凍食品の今後の増加も期待される。
昨年前半、家庭用の冷凍野菜は購入額が大きく増加した。また、廃棄ロス、家庭内ごみの問題が問われる中、ロスや廃棄物が少ない冷凍野菜への注目がますます高まり、昨年後半以降も緩やかな増加を継続している。
一方、業務用の冷凍野菜では、昨年よりいくらか回復はしたが状況は厳しいままである。しかしながら、急速に増加しているテイクアウトやデリバリー業態では、冷凍野菜が長時間保存でき、下処理不要でそのまま使えることで、あらためて注目を集めている。いずれにしろ、今後のコロナ収束後に向けて、新たな展開や今までにない提案を行っていくことが求められている。
冷凍食品は「手抜き」とネガティブに言われることが依然として多く、当協会ではその認識を変えるべく「冷凍食品は手抜きではなく手間抜きである」をキャッチフレーズとして、栄養のある冷凍食品を上手に使うことをアピールしている。そうした中、昨年、「冷凍餃子は手抜きだ」と夫にいわれた主婦のSNSでのツイートに、冷凍食品メーカーが反応して始まった「冷凍餃子 #手間抜き論争」があった。そのメーカーの反応に、「いいね!」が44万件、動画再生数が90万回にのぼり、昨年のPRアワード
(注)でシルバーを受賞するなど、大きな話題を呼んだ。また、今年の東京オリンピックの選手村食堂で、海外選手の多くから、冷凍餃子が「世界一おいしい餃子」としてSNSを通じて発信され、冷凍食品の認識も大きく変わりつつある。
注:優れたPR事例を選考・顕彰することで、PRの普及と発展に寄与することを目的に、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会が毎年実施している。
冷凍野菜は、「手抜き」と言われる以外に、ブランチング(短時間、熱湯に漬けたり、蒸気を当てて鮮度を保つ手法)や冷凍によって、栄養素や味が損なわれる、冷凍は新鮮でないなどのイメージが根強くある。当協会では、ブランチングは、野菜の酵素の不活性化や貯蔵中の変質・変色を防ぎ凍結による組織の破損を防ぐものであること、例えば、マイナス18度以下ではほうれんそうなどでのビタミンCの貯蔵中の減少は極めて緩やかであり、生鮮品と比べても遜色がないことなどを説明している。
また、冷凍野菜は最適(旬)の季節に栄養価が高く鮮度の良い原料を加工するため「冷凍だから新鮮」であること、使いたい量だけ手軽に使えて余ったものも保存できること、下処理してあるため調理時間も短縮でき、家庭ごみや洗い物が少なくなること、種類が豊富にあるため料理メニューのバリエーションの広がりに役立つことなどをアピールしている。このような冷凍野菜のメリットが浸透してきたことも、消費の増加に繋がってきたと思われる。
国産冷凍野菜の生産量が低迷している要因としては、昭和50年代半ば以降、国内品が輸入品に比べて割高であることが顕著となり、輸入品との価格競争力の劣勢が大きくなっていったこと、国内の原料作物の安定供給や数量確保などが難しくなっていったことなどが挙げられる。しかしながら、国産需要は、家庭用では量販店、業務用では学校給食などで根強くある。
一方では、国内で冷凍野菜事業への参入には多額の投資が必要となること、生産での人員確保の問題、人件費、輸送保管費などのコスト等の問題もあるが、輸入品にはない新たな価値創造、より発展した契約栽培などによる安定供給(実需者により対応した生産)、新たな商品開発などにより、さらなる発展の可能性が十分あると考えられる。
森実 俊彦(もりざね としひこ)
【略歴】
昭和61年4月 食品メーカーに入社
令和2年4月 一般社団法人日本冷凍食品協会に入会
令和2年6月より現職