ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~
日本の年平均気温は、100年当たり1.26度の割合で上昇しており、世界平均の2倍近い上昇率で温暖化が進んでいます(図1)。農林水産業は気候変動の影響を受けやすい産業であり、高温による品質低下や、降雨量の増加、災害の激甚化により、さまざまな被害が発生しています。
2015年の国連総会で採択されたSDGsに多大な影響を与えた考え方に、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)というものがあります(図2)。これは、気候変動、窒素とリンの循環、生物多様性の損失、化学物質による汚染など、人類が今後何世代にもわたって発展・繁栄を続けるための定量的な地球の環境許容量のことであり、この境界を越えると、大規模で急激な、あるいは不可逆的な環境変化が発生するリスクが高まるという考え方を示したものです。既に、種の絶滅の速度と窒素・リンの循環については、高リスクの領域にあると考えられています。
SDGsの17のゴールを階層化したとき、森林、土壌、水、大気、生物資源など自然によって形成される資本(自然資本)は他のゴールを達成するための土台となります(図3)。自然資本から生み出されるさまざまな便益を受け、我々の社会は成り立っています。農林水産業は、適切に行われなければ生物多様性を含めた自然資本の劣化の原因にもなりますが、やり方次第でその維持・増大に貢献することも可能です。つまり、自然資本に配慮した農林水産業は、その維持・増大を通じて、社会・経済・環境の持続可能性の向上に貢献することができます。
一方、我が国の農林水産業の従事者は年々高齢化するなど、労働不足等の生産基盤の脆弱化が深刻な課題となっています。里山林の利用減少や農林業の担い手の不足による耕作放棄地の増加等により、従来、身近に見られた生物種の減少が見られるとともに、鳥獣被害の深刻化にもつながっています。
また、コロナ禍では、穀物輸出国が輸出規制を行うなどサプライチェーンの混乱が発生しました。我が国は、農林水産物のみならず、食料生産を支える尿素、塩化カリウム、リン酸アンモニウムなどの化学原料やエネルギーも定常的に輸入に依存していることから、農林水産物や肥料、飼料などを輸入から国内資源へ転換していくことも重要です。
これらの状況を踏まえて、農林水産省では、令和3年5月12日に、「みどりの食料システム戦略」を公表しました(図4)。
「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに、(1)農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現(2)化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減(3)化学肥料の使用量を30%低減(4)耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%(100万ヘクタール)に拡大-など、全体で14の目標を掲げており、革新的な技術・生産体系の開発を、その後の社会実装により実現していくこととしています。また、本戦略には、個々の技術の研究開発・実用化・社会実装に向けた2050年までの工程表を掲載し、従来の施策の延長ではない形で、サプライチェーンの各段階における環境負荷の低減と労働安全性・労働生産性の大幅な向上をイノベーションにより実現していくための道筋を示しています(図5)。
具体的な取り組みの一例として、野菜生産においては、ドローン等を活用したリモートセンシングによる生育・病害虫の管理・診断技術の確立やピンポイント農薬・肥料の散布の普及や化学農薬のみに依存しない総合的病害虫管理の確率と現場への実証等を通じた促進、ハイブリッド型施設園芸設備やゼロエミッション型園芸施設の導入等があげられます。
本戦略は、これら生産現場の取り組みに限らず流通・加工・消費に関わるさまざまな関係者がそれぞれの理解と協働の上で実現するものであり、また、欧米とは気候条件が異なるアジアモンスーン地域の新しい持続的な食料システムの取組モデルとして、国際ルールメーキングに参画することも目指します。