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話題 野菜情報 2021年10月号

これからの野菜の売り方 価値創造~多様性とWKWK(ワクワク)♪感を~

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愛の野菜伝道師(野菜バイヤー) 小堀 夏佳
著者写真 小堀 夏佳








 さまざまな野菜があふれる昨今、野菜の売り方に悩んでいませんか?
野菜バイヤーなどとして20年にわたり全国津々浦々1000件以上の農家を訪問する中で、さまざまな野菜に出会いました。そこで感じたのは、野菜には多様性があるということです。野菜が持っている価値にはさまざまなものがあります。味、形、香り、色、効能、ストーリーなどなど、まさに千差万別です。
どんな野菜にも必ずいいところがあります。野菜が持っている「どの価値」をアウトプットして、「誰に向けて」発信するかということがとても重要であると思います。ターゲットを明確に設定する。もちろん、そこから広がりはありますが、まずは誰に向けて、野菜のどの価値をアウトプットするかを考えることが、先決です。
 今後さらに求められていることは、口の中で感じるおいしい以上に「心が(ひら)くおいしさ」です。つまり、五感をWKWK(ワクワク)♪させる価値を提供することです。
 「おいしい」の世界を越えて、もっと五感でWKWK(ワクワク)♪すること。「おいしい♪うれしい♪たのしい♪」気持ちを野菜で表現できればと思っています。
生産面については、単収ベースをどのようにして上げていくかも重要です。収量を増やす農業も良いのですが、農業資材などのコストも上がる一方で、野菜の市場価格はなかなか上がらない中、もっと野菜の価値を見つめ直しながら単収をどう上げるかを考えていく時代と思っています。
 一定の面積で生産できる作物は限られています。育てた作物を余すことなく、価値化する。できる限り捨てない。まさにSDGsの時代到来です。野菜を単なる青果として販売するだけではなく、野菜の効能に焦点を当て、6次産業化に取り組むことで、定期的な収入を得ることも大切です。また、健康食品などのヘルスケア商品やコスメ商品としての価値や、ファッション界や音楽界など異なる業界とコラボレーションすることで、さらなる未知な価値が多分にも広がります。野菜にはそんな潜在“農”力があります。ひとつの野菜が持っている価値を多様性の面からさまざまな切り口でアピールする時代が来ています。
 本稿では、そのような事例のいくつかをご紹介します。

1.大玉トマトでもカラフルな世界を ~カプレーゼトマト~ 宮崎県日向市 株式会社興農宮崎

 糖度センサーを通してフルーツトマトを出荷している農業法人です。ここ数年フルーツトマト市場はなかなか相場が上りません。一般家庭でのトマト需要は、お弁当需要の増加、包丁を使わずそのまま食べられる、食味がよいなどの理由でミニトマトの人気が高まっています。そこで、大玉トマトにも何かWKWK(ワクワク)♪感をと販売したのが、大玉トマト(赤)とゴールドトマト(オレンジ)の小箱売りです。カラフルミニトマトはだいぶ出回っていますが、大玉のカラフルさはまだまだ少なく、同法人は赤とオレンジを同梱し、“カプレーゼトマト”とあえてメニューを絞ってネーミングすることで、消費者に伝わりやすい工夫をしています。もともと何も手を加えなくてもおいしいフルーツトマトのため、そのままカットしてすぐ食べられます。一皿がまるでレストランで食べるような逸品になることも嬉しいところです。さまざまな料理に向いていますと紹介するより、簡単で、誰もが試したくなるレシピにターゲットを絞ったことで、より多くの人に魅力が伝わりました。売る側にとっても、店頭に並べた際に赤&オレンジトマトの色彩が棚映えするため、新たなトマトカテゴリーに加えたい商品として位置付けられました。

カプレーゼトマト

2.原料からの脱却野菜 ~やさい野沢菜~ 広島県神石郡神石高原町 株式会社神石高原

 以前は漬物業者に原料として卸していた野沢菜ですが、農薬化学肥料不使用で栽培し、そのまま食べてもえぐみのないおいしい野菜のため、『やさい野沢菜』と命名して青果コーナーでの販売を始めました。これまでは捨てていた根元部分にあるかぶも、火を通して味噌汁やパスタなどの具にすると大変おいしいため、かぶ付きのやさい野沢菜としての価値を見出しました。漬物原料としてだけでは取引単価が安くなってしまうことが多い中、青果物の野菜として販売することで単収も上がり、さまざまなマーケットが創造できて多様性が見えてきます。また、一般消費者にも新しい野菜として価値創造の場を提供できるのです。今まで漬物原料として納めていた野菜が青果売り場でデビューする!何かWKWK(ワクワク)♪しませんか?原料として捉えていた野菜に別の価値はあるだろうか?という視点でも是非アンテナを張ってみて下さい。宝の原石はすぐそばにあるのです。多様性ある野菜界をつくりましょう!

やさい野沢菜畑 

やさい野沢菜生産者

やさい野沢菜を使った料理例

3.捨てていた部分に価値あり!一石二鳥野菜 ~新顔やさい『ケロッコ』~ 住化農業資材株式会社

 ケールとブロッコリーをかけ合わせたスティック状のブロッコリーで、葉の部分がケールのケールブロッコリーです。2018年に販売を開始しました。この野菜の優れた点は、栄養価が高い高機能野菜であること。βカロテン、ビタミンC、葉酸などの含有量が高く、スーパーフードと呼ばれるケールの約1.2倍の葉酸値を含むと言われています。また、食味も良く、ケールの苦みが苦手な子供も多い中、ケロッコは苦みが少なく甘くておいしいと子供も喜んで食べてくれます。まさに令和のスーパーフードとして期待されている野菜です。
●優れた食味
ケール特有の苦みが少なく、甘みがあっておいしい。野菜嫌いな方も召し上がりやすい。特に野菜嫌いの子供におすすめです。
●調理が簡単
葉、茎、花蕾すべて食べられます。茎は歯ごたえがあり食感も楽しい。電子レンジで下ごしらえをすることで、歯ごたえを残しつつおいしく召し上がれます。
●栽培シーズン
12月から2月末頃がケロッコの旬。菜花のように次から次にでてくる葉を収穫できるため、栽培効率が良い品種です。
●加工にも適した新野菜
 ケールと同様、青汁や野菜ジュースなどの原料にも使われていますが、独特なえぐみがないため、他の果物などで薄める必要が少なく、より効果的に栄養を摂取することができます。

ケロッコ成分分析結果、ケロッコ生産者

 さらにこのケロッコの優れた点は、花蕾を収穫し終えた大きな葉っぱの部分がケールと同様、加工原料となること。品種デビューしてからまだ3年ほどと日が浅いこともあり、このことに気付く前は、ケロッコ収穫後の葉は圃場(ほじょう)にすき込むか廃棄していたそうです。
 スーパーフードとしてケールが注目されている昨今、捨てていた葉を利用しないともったいないと奮起し、ケロッコサミットが立ち上げられ、生産者、流通業者、カット業者、加工業者が意見を交わしながら、製品化に向けてさまざまなチャレンジをしています。
 
【ケロッコ農産加工品】

ケロッ葉せんべい


 東京都葛飾区青砥にある米菓製造業「富士見堂」とのコラボレーション商品です。帆立と干ししいたけの旨みと独自の味付けの工夫によって、海苔のような風味を感じさせた商品となり、大好評に!野菜嫌いの子供もパクパク食べると子育て世代からも大人気です。健康に気遣う方々からも人気が高く、リピーターも多い商品です。
 

ケロッ葉豆腐

 埼玉県入間郡にある豆腐店「越生こだわりとうふ藤屋」とのコラボレーション商品です。何度も試作を繰り返し、国産大豆の甘みとケロッ葉の緑が相まった、目にも舌にもおいしい豆腐になりました!今後はケロッ葉甘酒、ケロッ葉パン、ケロッ葉うどんなど、美しい緑色と機能性を活かしてさまざまな食品と組み合わせた商品づくりを目指しています。

4.加工用品種にもWKWK(ワクワク)♪を ~BtoC品種への可能性も加味して~ お助けQちゃん(コンサピーノ) 住化農業資材株式会社

 もともとは加工・業務用向けとして開発された品種です。通常のきゅうりの約2.5倍の大きさ、イボなし、種が小さく種のまわりのジュレも少ないため、日持ちがよくて劣化が少ないことから、加工用に流通していました。しかし、実はこの加工用向けの特性が、現在の一般消費者ニーズにも合っているのでは?という切り口から『お助けQちゃん』というネーミングで今年からスーパーで販売が始まりました。

お助けQちゃん

●一般消費者ニーズに向いているポイント
・ボリュームがあるため1本買いのニーズに合っている。
・日持ちすることは消費者にも販売側にもメリットがある。
・食感が良く臭みも少ないためきゅうり嫌いの人も食べやすい。
・サラダだけではなく料理レシピの汎用性があがある(炒め物、ベジヌードルなど)。
 
 新たな価値をアウトプットしたことで、来年からは加工業者、流通、販売の業界にとらわれず、多様性をもって販路を拡大する予定です。加工業者への営業でも“お助けQちゃん”というネーミングが興味をひき、品種特性を説明する機会が増えたとのことで、こうしたネーミングや情報発信をすることで新たな価値が生まれる可能性も増えるのではと考えます。

お助けQちゃんのポップ

5.ステイホーム時代だからこそ

新顔野菜『ちこりな』 株式会社ぐんたね
 
キク科の野菜でレタスやタンポポの仲間です。盛夏期には可憐な青い花を次々と咲かせ、愛でる野菜としてもニーズが期待されています。根株(ちこりスティックTM)をプランターや鉢に植えると新葉が次々と出るため、食材として新鮮サラダや炒め物に重宝します。遮光して軟白栽培すれば、淡い黄色の、ほろ苦なミニちこりなTMが楽しめます。また、窓際で水を入れた花瓶などに根株を挿しておけば、根の力だけで何度も萌芽する元気な観葉植物として一年中楽しめます。まさにさまざまな価値を持つ七変化野菜です。

観葉植物として楽しめるちこりな
 

・花として愛でる価値
・野菜として食べる価値(機能性は肝機能を促進、脾臓や胆のう、腎臓などの臓器を浄化)
・水に挿すだけで新芽が何度も収穫できる・・・SDGsな価値
・根もチコリコーヒーとして使用できる・・・SDGsな価値
・観葉植物として愛でる価値

ちこりな

おわりに

 新型コロナウイルス感染症が深刻化する中で、国民の健康に対する意識が高まっています。
 ステイホーム、免疫力アップなどが提唱される中、家で料理したり食の見直しをする人が増え、野菜への注目も上がっています。
 今こそ、野菜レボリューション到来です!
 今までの売り方に留まらず、新たに潜在ニーズの掘り起こしを検討してみませんか?その際、野菜業界の垣根を越えて、異業種とのセッションもおすすめします。
 野菜には多様性があります。潜在“農”力を発揮して、野菜でWKWK(ワクワク)♪する世界を一緒につくりましょう!
 野菜の消費が増え、ひとりでも多くの人が健康で幸せになることを願っています。

小堀 夏佳(こぼりなつか)
【略歴】

1997年4月 大学卒業後住友銀行入行。
2001年4月 オイシックス株式会社入社。オイシックス創業メンバーとして愛の野菜伝道師(野菜バイヤー)として全国の農家をめぐり、まだあまり知られていない野菜を世に発信し数々のヒット商品を生み出す。
2018年10月 株式会社バルーン入社。さまざまな野菜の開発~啓蒙活動まで幅広く活動
2020年1月 愛の野菜伝道師としてフリーで活動(現在に至る)