残り10年となった2030年までの達成を目指す持続可能な開発目標(SDGs)実現のためには、生産から消費に関連する全ての活動を対象とする、包括的な農業食料システムを早急かつ抜本的に改革することが不可欠です。生産から消費まで
強靭かつ持続可能な農業食料システム全体において、「誰一人取り残さないように」するためには、(1)より良い生産(2)より良い栄養(3)より良い環境(4)より良い生活が欠かせません(図3)。
第一に、しっかりと生産ができなければなりません。生物多様性を維持し、良質な種子を普及させること、技術革新/デジタル化の導入も必要ですし、政府機関だけでなく、民間企業などさまざまなステークホルダーの参画が重要となります。また、これまであまり重視されておりませんでしたが、世界の食料生産の約80%も占める家族農業への見直し、そしてその家族農業を中心とした世界農業遺産という、伝統的な農業技術・知見の、単なる現状維持ではなく、環境など諸状況に適応していくダイナミックな保全という維持も考えなければなりません。生産と消費という川上から川下までの連携、協力も必須です。
第二に、食料の量だけでなく、栄養のバランスの整った食料生産、アクセスの確保も向上させることにより、すべての人にとって、あらゆる形態の栄養改善を推進しなければなりません。
第三に、生産のためには、その周りの環境、陸上と海洋の生態系が保護・整備されなければなりません。そして、持続的な環境の利用を促進し、気候変動にも対処する必要があります。加えて、環境というのは人に対してだけでなく、動植物にとっての環境保護の視点が大事になってきます。
最後に、農業生産には自然資源が不可欠なので、その資源の環境維持が必須ですが、その他の人為的な環境、特にさまざまな格差は、せっかく生産された農産物・食料へのアクセスを限定します。そのような構造的格差の撲滅も考慮しなければなりません。また、前述したとおり、生産物の食料ロス・廃棄も気候変動の要因となる二酸化炭素排出、環境の問題となります。
このような持続可能な食料システム確立に向けて、「人」の視点だけでは不可能です。われわれ人類は動物の生態系と相互依存しており、人も動物も周りの環境あっての存在です。従って、人、動物、そして環境も含めたONE HEALTHという考え方をわれわれは推進しております(図4)。