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 【特 集】加工・業務用野菜生産拡大の取り組み 野菜情報 2021年3月号

加工・業務用野菜への支援事業について

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農林水産省 生産局園芸作物課 園芸流通加工対策室
園芸流通加工第1班 流通企画係長 会田 智明
執筆者 顔写真

1 消費構造の変化から見た加工・業務用野菜

 野菜は、私たちの生活において欠かすことのできない食品であり、農業生産額の約3割を占め、貯蔵可能期間が短い品目が多いことや品質面で輸入品と差別化されやすいことなどから、国内自給率が高い農産物です。
 家庭で消費される野菜のほぼ全てが国産で占められている一方で、加工・業務用野菜(食品製造業者や外・中食業者などが利用する野菜)の国産割合は7割程度であり、残りの3割程度は輸入野菜が利用されています。
 家計消費用野菜は、市場を通して流通するケースが多いため、主に外観の良さやサイズの揃いで決まる「出荷規格」が重要視されます。しかし、加工・業務用では、定時・定量・定品質・定価格のいわゆる「4定」での供給体制や、加工歩留まり、加工適性の高さが重要視され、家計消費用とは求められる特性が異なることが、この割合の違いを生んでいる主な要因であると考えられます(表1)。
 社会構造の変化に伴う食の外部化や簡便化の傾向は今後も継続し、それに伴い加工・業務用への需要のシフトは一層進むと見込まれます。また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、一時的に野菜の輸入量が大きく減少したことも踏まえ、加工・業務用野菜の安定的な生産・供給体制の強化は、ますます重要性が高まっていくものと考えられます。
表1

2 産地における水田での加工・業務用野菜生産拡大

 今後も国内の米の消費は減少傾向が続くと見込まれる中、野菜や果樹などの高収益作物の生産に取り組む産地が増えてきています。
 主食用米に比べ、高収益作物は面積当たりの収益性が高いものの、その分労働力も多く必要になる傾向にあります。そのため、水田から転換する産地においては、面的なまとまりをもつ水田のスケールメリットを生かし、機械化一貫体系の導入による労働力の低減が有効と考えられています。特に加工・業務用野菜は、このような産地のニーズと親和性が高く、消費構造の変化に合う、水田転換の有力な品目として注目されています。
 野菜は天候の影響を受けやすく需給バランスの変化による価格の変動が大きい作物ですが、加工・業務用野菜は、産地と食品製造業者などとの直接取契約(または流通業者などを通した3者契約)による取引も多く行われており、生産が安定すれば一定の収益が確保しやすいというメリットもあります。
 水田での安定生産技術の普及や販売先の確保などの課題はありますが、国による支援や安定生産技術の開発なども行われており、水田における加工・業務用野菜生産の更なる取組拡大への期待は大きいものとなっています。

3 加工・業務用野菜の生産拡大への支援

 農林水産省において、加工・業務用野菜の生産拡大を支援する事業の一部を紹介します。なお、以下は令和2年度補正予算案および令和3年度当初予算案に基づいたものであるため、成立後の予算の内容により、事業内容などの変更があり得えます。

(1)時代を拓く園芸産地づくり支援
 実需者ニーズに対応した園芸作物の安定的な生産および供給を実現するため、水田地帯において、水稲などの土地利用型作物から園芸作物への作付転換や、加工・業務用野菜への転換や輸入品が増加する国内産の端境期における出荷に必要な生産技術の導入などを推進することにより、新たな園芸産地づくりを支援するものです。
ア 水田農業高収益作物導入推進事業
 水田農業における高収益な園芸作物の導入・産地化を実現するため、新たに園芸作物を導入する産地における合意形成や、園芸作物の本格的な生産を始める産地における機械・施設のリース導入の取組などを支援します。園芸作物導入の第1歩となる取組を支援する「園芸作物導入促進事業」と園芸作物の本格的な生産の取組を支援する「園芸作物転換強化事業」の二つのメニューがあるため、産地の取組状況などに応じて活用するメニューを選ぶことができます(図1)。
 なお、本事業の事業実施主体は都道府県ですので、事業を活用される場合は、都道府県を通して申請していただく必要があります。
イ 端境期等対策産地育成事業
 実需者からの国産野菜の安定調達ニーズに対応するため、需要に応え切れていない品目や作型(端境期)の出荷に必要な作柄安定技術、新たな作型の導入などを支援します(図2)。
図
図
 令和3年度からは、令和2年度まで対象としていた14品目に加え、新たに「にんにく」「しょうが」「アスパラガス」「さといも」「えんどう」の5品目を追加しました。
ウ 計画策定・連携者への優遇措置
 時代を拓く園芸産地づくり支援においては、以下の計画を策定または連携している場合、事業採択の審査の際にポイントが加算されます。
1) 水田高収益化推進計画
2) 輸出事業計画(GFPグローバル産地計画)
3) 革新計画(次世代につなぐ営農体系確立支援事業に基づき策定した計画)
4) 協働事業計画(端境期等対策産地育成事業に限る)

(2)その他の関連する支援
ア 新市場開拓に向けた水田農業リノベーション事業

 水田農業を新たな需要拡大が期待される作物を生産する農業へと刷新(リノベーション)するべく、野菜などについて、産地と実需者が連携して作成する「水田リノベーション産地・実需協働プラン」に基づいた、実需者ニーズに応えるための低コスト生産などの取組、需要の創出・拡大のための製造機械・施設などの導入を支援します。
イ 農地耕作条件改善事業のうち未来型産地形成推進条件整備型
 野菜、果樹、花きおよび茶を対象品目とし、水田からの転換などを面的に導入し、労働生産性を抜本的に高めたモデル産地を形成する取組を支援します。

4 協働事業計画に参加する主体への支援

 食品製造業者や加工業者などの需要者とのつながりの中心となる事業者と農業者・産地が連携し安定供給や生産の安定化・効率化などに取り組む生産事業の形成を促進するため、先駆的な生産事業に係る計画(以下「協働事業計画」という)を国が承認し、多様な取組を支援するものです。
 単独の産地や事業者では、加工・業務用野菜に求められる「4定」を満たすことが難しいケースも多く見られるため、協働事業計画に基づいて複数の産地や事業者が連携・協働することで、例えば産地リレーや農機の共同利用による生産力強化や、集出荷貯蔵施設を利用した一斉配送システムの導入などによる安定した生産・供給体制の構築などに取り組むことができます。
 承認された協働事業計画に位置付けられた事業者などは、以下の事業を活用することができますが、事業ごとに、別途、計画の策定・審査などが必要です。
ア 強い農業・担い手づくり総合支援交付金(生産事業モデル支援タイプ)
 核となる事業者が、生産安定・効率化機能、供給調整機能、実需者ニーズ対応機能の三つの機能の具備・強化することで、連携する生産者の作業支援などさまざまな機能を発揮しつつ、安定的な生産・供給を実現しようとする生産事業モデルの育成を図るため、集出荷貯蔵施設などの整備や農業機械等の導入などを支援します。
イ 産地生産基盤パワーアップ事業(新市場対応に向けた拠点事業者の育成および連携産地の体制強化)
 海外市場や加工・業務用などの新市場ニーズに合ったロット・品質で安定的に供給できる拠点事業者の育成に向けた貯蔵・加工・物流拠点施設などの整備、拠点事業者と連携する産地(連携者)が行う生産・出荷体制の整備などを支援します(図3)。
図
ウ 端境期等対策産地育成事業
 3(1)のイの事業において、協働事業計画に参加している取組主体は、審査の際に優先採択ポイントが加算されます。

5 さいごに

 加工・業務用野菜の取組には、家庭消費用以上に安定した出荷体制を確保するための生産技術の習得、栽培面積・労働力・流通体制の確保、食品製造業者などのニーズへの対応などの課題をクリアする必要がありますが、需要の拡大や契約出荷による安定した収益性の確保など、農業経営において多くのメリットが期待できます。
 農林水産省としても、皆様の取組をしかりと後押しできるよう、必要な施策を講じていきたいと考えています。