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奥深いキノコ類の世界
~食用性野生キノコの紹介と国内キノコ類栽培の現状と展望~

鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センター 准教授 早乙女 梢 教授 霜村 典宏

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はじめに

スーパーの野菜売り場にはシイタケ、エノキ、マイタケ、ナメコ、マッシュルーム、エリンギなどバラエティに富んだキノコ類が並んでいるが、他の野菜類と異なりキノコ類は植物ではなく菌類に分類される。

鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センターでは、 資源としてのキノコの可能性・有用性を広げることを目的に、分類学などの基礎的研究や栽培学やキノコの機能性などの応用学的研究に取り組んでいる。本稿では、食用性のキノコに着目し、その同定に関する基本的な情報と、我が国における食用キノコの栽培事情を記す。

1 キノコとはなにか? 

ここ数年の間に、「菌活」という言葉が世間に定着したように感じる。「菌活」とは、キノコを含む体に良い働きのある微生物を積極的に摂取しようという活動であるが、われわれが普段、「キノコ」と呼んでいるものは一体何であるのだろうか?

図1にキノコの生活環(ライフサイクル)を示した。キノコとは、生活環の中で、胞子散布体(以下「子実体」という)が肉眼で見える程の大きさになるものの総称である。キノコの全体形はさまざまで、シイタケやマツタケのようなタイプもあれば、トリュフやショウロのような円形のタイプやキクラゲのようなゼラチン状のタイプなども存在する。また、キノコは生活環の大半を菌糸体であるカビの姿で過ごしており、温度、湿度、光などの条件が揃うと、菌糸体が集まって子実体を形成する。野生キノコでは、菌種によって発生する季節、あるいは発生環境(森林タイプや気候帯)が異なっているが、これは子実体の発生条件が、菌種によって異なっているためである。

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2 食用の野生キノコの同定

キノコの菌種を特定することを「同定」と言う。しかし、キノコは形態的に類似した菌種が多く、かつ菌種によっては形態的なバリエーションに富むものもあるため、図鑑との絵合わせによる同定は難しい。キノコは微生物であるため、正確な同定には、発生環境を十分に把握しつつ、肉眼的な形態と顕微鏡的な形態を確認しなければならない。図2には、キノコの基本的な形態的特徴を示した。例えば、ヒラタケ属は、「ヒラタケ型~カヤタケ型、時に柄を欠くが、通常側生、偏心生、または中心生の柄を持つ。肉は比較的遅くまで軟らかい肉質で、ヒダは垂生。胞子紋は白、クリーム、ピンク・・・等々」と特徴づけられている。キノコの属や種は特徴づけられており、この特徴を根拠にキノコを同定することができる。キノコ類は、生態的な特性から、木材やリター(注1)を分解する腐生菌、主に植物と共生する共生菌、植物や昆虫などに寄生する寄生菌に大別される。表1に、流通している食用の野生キノコ種の一部を表に記した。腐生性のキノコ種には、栽培化に成功しているものがある一方で、共生菌(菌根性)の菌種は、栽培化がより困難である。

注1:リター(litter)とは、地面に落ちて堆積した葉や枝のこと。

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3 キノコ栽培の現状

市販されている食用キノコ類の栽培方法は、原木栽培と菌床栽培とに大別される。原木栽培は、キノコ種菌をコナラやクヌギなどの原木に植え付けキノコ種菌を活着・蔓延させキノコを収穫する自然に近い栽培方法である。わが国には、針葉樹林、落葉広葉樹、照葉樹林、亜熱帯林などの多様な森林相が広がり、また、森林面積率は約7割を占める森林国である。このような森林に恵まれた風土を背景に、原木シイタケの人工栽培技術を世界に先駆けて確立してきた。しかしながら、原木シイタケ栽培は、菌床栽培技術の拡大に伴い、現在では少なくなっている。

一方、菌床栽培には、おがくずと栄養剤(米糠など)を混合した基質に水分を加えて滅菌し、無菌状態にした培地にキノコ種菌を増殖させた培地を用いる。本栽培方法では、培養やキノコ形成に空調設備などを必要とすることが多いが、キノコを収穫するまでの期間が短く、迅速に生産できる特長がある。

4 人工栽培されているキノコの種類

野生キノコは、直売所などで、期間限定で販売されているが、人工栽培され広く消費されているキノコ種は、シイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、エリンギ、マイタケ、ナメコ、ツクリタケ(マッシュルーム)に限られる。これらのキノコ種は、枯れ木などから栄養吸収する腐生性のキノコ種であり、かつ、人工栽培が比較的容易であることから、優先的に人工栽培されるようになった。一方、わが国には食用キノコは約200種あると推定されているが、これらのキノコ種の人工栽培技術の開発はほとんど進められていないのが現状である。従って、研究対象キノコ種を拡大し、人工栽培技術を開発することができれば、新たなキノコ食材を消費者の皆様に安定供給できる可能性が広がる。

5 キノコの品種開発

わが国における、キノコの品種開発は、公的機関のみならず民間企業においても積極的に行われてきた。シイタケにおいては多数の優良品種が開発されているが、この背景には品種開発の材料となる野生シイタケ遺伝資源の多様性が関連している。野生シイタケにおいては、キノコの大きさ、形状、色および発生時期などの形質において多様性が認められており、その多様性を基盤として、多数の品種が開発されてきている。一方、シイタケ以外の食用キノコ種においては、遺伝資源の多様性に関する研究が十分に進められていないため、開発された品種数が少ないのが現状である。今後は、多様な形質を具備した野生キノコ遺伝資源が発掘・評価され、それらを活用することができれば、これまでに体験したことのない新しいキノコ品種が開発できるようになると思われる。

6 キノコを食す際の注意点

野生キノコを食する際には、誤食による食中毒があり得ることを忘れてはならない。食用キノコには、類似の有毒種が存在することも少なくなく(表1)、よっぽどの自信がない限りは、自身で採集した野生キノコは食すべきではない。流通している食用キノコを含め、キノコを食す際に気を付けたいこととしては、まず、第一に、生食せず、しっかりと熱を通すということである。栽培したものでも、加熱が不十分だと中毒を起こす。必ずしも新鮮な状態で収穫できる保証のない野生キノコ類は、特に注意したい。次に、キノコは多量に食すべきでない。キノコは食物繊維を豊富に含むため、時に消化系の中毒を起こすことがあり、さらに野生キノコの場合、食用でも微量の毒性分を含む菌種もある。スギヒラタケは長年、食用とされてきたが、2004年に中毒事故が相次いで発生して以降は有毒種として扱われている。このように食用の菌種が毒キノコとなる例もある。

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キノコは生息場所の微量金属などを蓄積するが、野生キノコでは、その集積量が多い。キノコ原木や菌床用培地中の放射性セシウム量は農林水産省が指標値を設けている。野生キノコについても、17都県で検査が実施され、林野庁HPあるいは各自治体の関連HPで出荷制限状況を確認することが出来る。出荷制限指示を受けていない地域であっても、放射性セシウム濃度が1キログラム当たり100ベクレル(Bq)の基準値を超過するものは、食品衛生法により販売や譲渡が禁止されている。逆に言えば、しかるべき流通ルートを経て、市販されている食用キノコ類は安全性が保障されていると言えよう。

7 キノコ食の特徴

キノコ類の一般成分は野菜類に似ているが、食物繊維、ビタミンB類ビタミンD2、ミネラルなどの栄養素を豊富に含んだ低カロリー食品といえる。キノコの食物繊維の含有率は比較的高く、キノコ類を食べることで便通が良くなることが確認されている。また、カリウムが多いため、塩分の過剰摂取を抑制することが期待できる。シイタケはビタミンD2の宝庫として知られているが、食用キノコ類の多くはビタミンD2の元になるエルゴステロールを含む。

一方、キノコは健康を維持・増進する各種の働きを有することも知られている。例えば、シイタケには、コレステロールや血圧の降下作用を有するエリタデニンという成分が含まれている。また、抗腫瘍性成分としてレンチナンという物質が知られているが、本物質は食用キノコから抽出された唯一の抗がん剤である。抗腫瘍性作用が報告されている食用キノコはシイタケ以外でも、エノキタケ、マイタケ、ブナシメジなどのキノコでも報告されている。

キノコには他の野菜には無い、さまざまな機能性物質を含んでいることから、われわれの健康の維持・増進を図るうえで着目されている食材であるといえる。近年では食文化の多様化に伴い、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の問題が指摘されている。このような生活習慣病を予防するためにも、是非キノコ食を勧めたい。

早乙女 梢(そうとめ こづえ)

【略歴】

博士(農学)、鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センター 准教授

2010年 筑波大学大学院生命環境科学研究科博士後期課程 修了

神奈川県立生命の星・地球博物館 外来研究員、鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センター 助教を経て、 2014年より現職。


霜村 典宏(しもむら のりひろ)

【略歴】

博士(農学)、鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センター 教授

1992年 鳥取大学大学院連合農学研究科博士後期課程 修了

(財)日本きのこセンター菌蕈研究所、鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センター准教授を経て、 2013年より現職。


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