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話題(野菜情報 2020年12月号)


食習慣と健康維持について~多目的コホート研究から導く野菜・果物摂取と体重や病気の関係について~

国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター コホート研究部 室長 澤田 典絵 センター長 津金 昌一郎

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1 はじめに

国立がん研究センターでは、がんをはじめとする生活習慣病のリスク・予防要因を明らかにするための疫学研究として、「多目的コホート研究」を行っている。多目的コホート研究は、1990年に開始され、全国11地域で約10万人を30年間追跡する研究である。

疾病の発生には、栄養・食生活などの生活習慣が深く関わっていることが多くの研究から報告されているが、今回、多目的コホート研究において、野菜・果物摂取と体重や病気との関係について得られた結果を紹介する。

2 野菜・果物摂取量の変化と体重の変化

野菜・果物には、食物繊維、ポリフェノール、水分などが多く含まれており、それらの働きにより、野菜・果物を多く摂取することで、空腹感の減少、エネルギー摂取量の減少、脂質やエネルギー代謝の調整などにつながり、体重減少につながることが期待されている。しかし、実際に、野菜や果物の摂取量を増やし、その後の体重変化をみた短期間の介入研究の報告では、結果が一致していなかった。また、野菜・果物摂取量と体重変化との関連を報告した過去の疫学研究は、体格が異なる欧米人の研究が主であったため、日本人での関連を明らかにすることが求められていた。

多目的コホート研究では、複数回のアンケート調査を行っているが、野菜・果物については、29種類の野菜、17種類の果物についての回答をもとに、摂取量計算た(表)。今回の研究では、研究開始から年後と10年後に行った食事調査アンケートに回答した、がん、循環器疾患、糖尿病、高血圧、高脂血症の既往歴のある人を除く約万4000人について、年後および10年後調査による、年間の野菜・果物摂取量の変化と、年間の体重変化との直線的な関係を調べた。

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その結果、年間の野菜摂取量が日当たり100グラム増加するごとに、体重が25グラム減少し、特に、にんじん、かぼちゃ、トマト、トマトジュースといった黄・赤色野菜や、たまねぎ、ニラといったネギ類野菜では、日当たり100グラム増加するごとに、体重がそれぞれ74グラム、129グラム減少するという関係がみられた(図1)。

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果物では、野菜でみられたような直線的な関係を見出すことはできなかった。しかし、摂取量が増加したグループと減少したグループに分けて分析した場合、前者では摂取量が1日当たり100グラム増加するごとに、体重が70グラム増加するという関係がみられた一方、後者では統計学的有意な関連はみられなかった(図2)。

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これらの結果については、野菜は食事と一緒に摂取するため、野菜の摂取量が多いと、ご飯やおかずの摂取量が減り全体のエネルギー摂取量が減るなど、全体のエネルギー摂取量の増減と関係しやすいため、体重の増減と関係したと考察された。一方、果物は間食として(追加で)食べる傾向にあるため、全体のエネルギー摂取量の増加に関与し、体重の増加に関係したのではないかと考察された。

3 野菜・果物摂取量とがん・循環器疾患

多目的コホート研究においては、野菜・果物摂取量とさまざまな疾患との関連について報告している。しかし、何らかのがんに罹患する、全がん罹患との関連は明らかではなかった。一方、果物摂取量が多い群で、循環器疾患罹患のリスクが19%低下したことを報告している(図3)。

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野菜・果物摂取量と、部位によらずまとめた全がん罹患との関連は明らかではなかったが、多目的コホート研究では、野菜・果物摂取とさまざまながんとの関連を報告しており、その影響はがんの部位により異なっている(表2-1、2-2)。

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胃がん、食道がん、肝がん、肝外胆管がんは、野菜・果物を多く摂取する群(胃がんについては「ほとんど食べない」群を基準にすると、「週1日以上食べる」群)で、統計学的有意にリスクの低下が認められたことを報告しており、膵がんについては、果物摂取量が多い群でリスクが低いと報告する一方、野菜摂取量が多い群でリスクが高くという結果も認められている。

近年、野菜の中でも、DNA損傷の原因となる発がん物質の排出を高める作用が報告されているイソチオシアネートがアブラナ科野菜の中に多く含まれることから、アブラナ科野菜とがんとの関連が注目されている。

多目的コホート研究では、アブラナ科野菜の摂取量が多い群で、男性の全がん死亡、非喫煙者肺がんのリスクが下がることを報告した。さらに、アブラナ科野菜は男女とも全死亡リスクが低下し、女性の心疾患、脳血管疾患による死亡リスクも減少したことを報告した。一方、肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がんには野菜・果物摂取との関連はみられなかった。

4 まとめ

日本の疫学研究をまとめて、科学的根拠に基づくがんリスク評価を総合的に評価し提唱している、「日本人のためのがん予防法」(表3)においても(2020年10月現在)、野菜・果物不足にならないことが予防法のひとつとして挙げられ、がんを予防する食生活として、「食事は偏らずバランスよくとる」が推奨されている。

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上述のように、多目的コホート研究の結果でも、野菜摂取量が多い群で、複数の部位のがんのリスク低下、特に、アブラナ科野菜摂取量が多い群で、がん、循環器疾患を含む死亡リスクの低下、果物摂取量が多い群で、循環器疾患罹患のリスクが低下したことが報告されたこと、野菜摂取量の増加は体重減少と関係していることから、総じて、偏らずバランスのよい食事をこころがけ、野菜・果物は日常の食事に取り入れ不足しないようにすることが、がんの予防だけでなくすべての疾病の予防につながる可能性があるといえよう。

澤田 典絵(さわだ のりえ)

【略歴】

1999年札幌医科大学医学部卒業、2005年北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻博士課程修了。同年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)入所。疫学研究部室長を経て、2020年4月より現職。

津金 昌一郎(つがね しょういちろう)

【略歴】

1981年慶應義塾大学医学部卒業、1985年同大学院医学研究科公衆衛生学専攻修了。同大学医学部助手を経て、1986年国立がんセンター(現・国立がん研究センター)入所。同研究所室長、同臨床疫学研究部長、がん予防・検診研究センター予防研究部長、同センター長を経て、2016年より現職。


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