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話題(野菜情報 2020年8月号)


国産ブロッコリーのコンビニエンスストア向けサラダへの導入について

横浜市場センター株式会社 外販事業本部 営業推進第2部 執行役員 豊島 広之

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はじめに

コンビニエンスストアのサラダなどに利用されるブロッコリーには、輸入品が使用されることが多かったが、当社では国内における作付面積が増加していることに着目し、輸入から国産への切り替え、食味と鮮度向上をターゲットにして令和元年から“業務用国産ブロッコリー”の産地形成を行ってきた。卸売会社のグループ企業である当社がどのように産地形成に取り組み、メニュー化までたどりついたのか、そのプロセスを紹介する。

サラダ原料への導入のきっかけ

当社は、神奈川県横浜市に拠点を置く卸売会社である横浜丸中青果株式会社のグループ企業で、青果物の販売、カット野菜、カットフルーツなどの製造販売を手掛けている。主な取引先は、スーパー、大手コンビニエンスストア(以下「CVS」という)、をはじめとする小売、量販店、さらに外食チェーン、中食・給食事業者、食品製造工場などである(図1)。

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原料の調達は産地の「顔の見える契約栽培」を基本としており、メニュー企画の段階からおおよその使用量を試算して、全国の産地に対して契約取引の打診を行う必要がある。業務加工部門の仕事の多くはこの契約栽培に対する産地への提案、その原料を基本としたCVSへのメニュー提案が主となっている。

CVS向けの野菜については、日々、3040種類を取り扱っており、安全・安心はもちろんだが、特に定時・定量・定品質・定価格を常に心掛けることが必要になる。

商談のために産地を訪問するなかで、ここ近年、契約産地の多くが新規品目としてブロッコリーの栽培に取り組んでいることがわかってきた(表1)。担当していたCVSにおいてもサラダ商品を中心に調理パン、総菜など、多くのカテゴリに生鮮ブロッコリーを使用していたが、その多くは輸入品であった。

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産地の状況やCVSにおける商品展開、消費者の行動様式などを見てきた経験から、「過去に比べ間違いなく国産産地のブロッコリー作付けは伸びている、このタイミングを利用すれば国産ブロッコリーの業務用化を実現するチャンスはあるかもしれない」と強く感じ、これが業務用国産ブロッコリーの産地形成につながった。

農協系統産地のネットワークを活用した 産地形成

産地形成の提案に際しては、全国基幹的物流センターに対して安定した納品を実現するため、産地選定構築が必要であった。当初は、大規模生産者を軸に展開を考えていたが、JA全農営業開発部との商談を経て、協業して国産ブロッコリーの業務用化を確立しようとの方向性が固まった。全国9カ所の基幹的物流センターへの納品を実現するための産地・物流形成においてJA全農営業開発部の力は非常に大きく、JA系統の有力産地の協力は数量と品質の安定的な確保に大きなプラスとなった(表2)。

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量販店向けとは逆の発想で大きく育てて コスト軽減

国産ブロッコリーの強みである鮮度・風味・食感を生かしつつ、コストを追求するために考慮したのが提案時期と収穫サイズであった。

作付面積が伸びてきたとはいえ、日本には四季があり気象変動の激しい栽培環境においては、秋冬~春~夏にかけてブロッコリーの「年間安定供給」が可能であるとはまだまだ言い難い。そこで、一年の中でも比較的安定的に栽培しやすく、旬の感覚も取り入れることが可能な秋冬~春(11月~翌2月上旬、一部地域のみ5月末まで)にかけてチャレンジする事にした。この期間設定に際しては、当然ながら価格についても考慮した(表3)。

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ブロッコリーは作付面積も伸びているが、消費もそれに比例して伸びており、産地側においては量販店向けの青果販売についてはある程度の高値で推移してきた経過があった。また、量販店向けの青果販売の規格としてはサイズ(12センチ前後)の規格が一つのターゲットになっており、その他のサイズに関してはサイズに次ぐ価格が形成される流れとなっている。

加工・業務用向けとして使用するためには、定時・定量・定品質・定価格を実現する必要性が有り、量販店のように日々の売価が異なることは受け入れられない。

そこで、量販店とは異なり、規格幅(大小の幅)の基準を拡げることで仕入価格の柔軟性を確保し、量販店向けとは逆の発想で比較的大玉になるように栽培を指導した。秋冬時期(11月~翌2月上旬)をターゲットにした場合、暖から寒に向かう環境を利用し、ブロッコリーの収穫時期を多少ずらすことで大玉傾向に栽培が可能である価格については、茎をカットしてしまうので、株(ホール)単位ではく、重量仕入価格を設定し、規格幅の拡大、大玉栽培とセットで産地側に提案を持ち込んだ(表4)。

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大玉で収穫し、重量で販売を考えるという提案は収穫作業の頻度・労力軽減化にもつながった。通常、量販店向けの青果規格の収穫の為には1反あたり最低でも5~6回収穫に入る必要がある。産地にもよるが、株数にして約4000株前後のサイズの大小を見極め、適正サイズを判断してそれだけを選別して収穫していく作業である。天候不順、災害などの環境の変化があった際にはそれ以上の回数になることもある。業務用としてサイズの規格幅を持たせたことにより、サイズを問わず一斉収穫も可能になり、価格面においても生産者、実需者、双方にとって有利に作用し多くの産地の共感を得ることが出来た(図2)。

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今期を振り返って、来期継続に向けて

今回の取り組みは一回目のチャレンジにすぎない。数量的には、まだそれ程多くないが、手応えのある数量であった。

これまでの市場流通の基本規格である「Lサイズ」に固執せず、規格幅を持たせた取り組みは今後の農業、ブロッコリーの生産において非常に意味ある問いかけだったと思う。

農業従事者の減少、高齢化、後継ぎ問題、消費の減少、輸入品および加工品の台頭と日本の農業を取り巻く環境は、近年、非常に厳しいものとなっている。日本の農業を変えていくためには労力の軽減、できることなら規格の簡素化、つまり、「取り組みやすい農業化」が必須ではないかと考えている。量販店用の青果規格のように、本当にサイズが常時揃っている必要性はあるのか、サイズは違ってもブロッコリーはブロッコリーではないか。現在では核家族化、共働き世帯の増加により家庭で一手間を省くこと、一次加工済品の需要が増えてきているなかで、量販店における「株(ホール)」で販売という形態も将来的には減少すると見込んでいる。一次加工済のフレッシュ商品としてブロッコリーがある程度の大きさにカットされ、袋もしくはトレーに詰められた状態での販売が主流になる日が来るかもしれない。いや、きっとそうなると確信している。生鮮のみならず、そのまま電子レンジで調理して食べる、そんな形態も増えてくると思っている。流通形態が変化し、ブロッコリーの「株」サイズが揃っている必要性が無くなった時、今回の問いかけ(業務用規格化・サイズ不問)は大きな意味を成してくるのではないだろうか。

実は、今回の取り組みは農業界全体に対しても大きな一石を投じる結果となった。
 一般社団法人日本施設園芸協会では講演の機会をいただき、多くの関係者と国産ブロッコリーの業務化につき意見交換の場を持つことができた。さらに、ヤンマーアグリ株式会社ではブロッコリー自動収穫機の開発に着手ることになった。労力軽減のためには機械化が必須であるが、サイズ不問の取り組みであれば機械化による、一斉収穫が実現できる。労力が軽減できればコスト改善につながり、更なる栽培面積の拡大が実現可能となるのだ。国産ブロッコリーの業務用化、サイズ不問は今後の「取り組みやすい農業化」に必ずつながる取り組みである。今回はブロッコリーについて触れたが、まだまだ他の多くの品目についてもこのようなチャンス、ヒントが埋もれていると思う。微力ながらも今後の日本の農業の発展に少しでもつながる販売を考えていきたい。

豊島 広之(とよしま ひろゆき)

【略歴】

大学卒業後、東京・大田市場の輸入商社に入社。

6年後に横浜丸中青果株式会社へ転職。

その後、横浜市場センター株式会社へ転籍。

現在に至る。


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