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話題(野菜情報 2020年7月号)


新たな食料・農業・農村基本計画について~我が国の食と活力ある農業・農村を次の世代につなぐために~

農林水産省生産局園芸作物課 課長補佐 太田 行則

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〇はじめに

令和2年3月31日、新たな食料・農業・農村基本計画(以下「基本計画」という)が閣議決定されました。基本計画は、食料・農業・農村基本法(平成11年7月制定)に基づき、おおむね5年ごとに見直す、中長期的な農政の指針で、今回で5回目の基本計画になります。

〇基本計画のポイント

新たな基本計画のポイントは、以下の5点となります。

①農業の成長産業化に向けた農政改革を引き続き推進

中小・家族経営など多様な経営体の生産基盤の強化を通じた農業経営の底上げ

農林水産物・食品の輸出を令和12年までに兆円とする目標を設定

関係府省等と連携し、農村振興施策を総動員した「地域政策の総合化」

食と農に関する新たな国民運動の展開を通じた国民的合意の形成

これらに向けた取組の効果が高まるように、関係府省や地方公共団体等と連携し、生産基盤の強化と多面的機能の発揮を図っていきます。

〇基本計画の内容

第1 食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針

農業の成長産業化を促進する「産業政策」と、農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を促進する「地域政策」を車の両輪として推進し、食料自給率の向上と食料安全保障の確立を図ります(図1)

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第2 食料自給率の目標

令和12年度における食料自給率の目標を、食料安全保障上の基礎的な指標となる供給熱量ベースで45%、生産額ベースでは75%と設定しました。また、飼料が国産か輸入かにかかわらず、畜産業の活動を適切に反映し、国内生産の状況を評価する指標として、食料国産率の目標を新たに設定しました(図2)

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我が国の食料の潜在生産能力を表す食料自給力指標については、農地面積に加え、農業労働力・農業技術も考慮した指標を提示し、令和12年度の見通しも提示しました(図3)

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なお、農地面積については、4397000ヘクタール(令和元年)から414万ヘクタール(令和12年)に、農業労働力(農業就業者数)については、208万人(平成27年)から140万人(令和12年)になると見通しています。

第3 食料、農業及び農村に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策

(食料の安定供給の確保)
 消費者や実需者ニーズの多様化・高度化への対応を進めつつ、関係者の連携・協働による新たな価値の創出を推進します。また、政府一体となった輸出促進や日本食・食文化の海外普及や食産業等の海外展開等の取組を推進し、農林水産物・食品の輸出額を令和12(2030)年までに5兆円とすることを目指します。

食品の安全確保と食品に対する消費者の信頼確保、食生活・食習慣の変化等を踏まえた食育や消費者と生産者の関係強化を進めます。また、食料供給に係るリスクを見据えた総合的な食料安全保障を確立します。

(農業の持続的な発展)
 経営感覚を持った人材が活躍できるよう、経営規模や家族・法人等経営形態の別にかかわらず、担い手の育成・確保を進めるとともに、担い手への農地の集積・集約化、農業生産基盤の整備の効果的な実施、需要構造等の変化に対応した生産供給体制の構築とそのための生産基盤の強化、スマート農業の普及・定着等による生産・流通現場の技術革新、気候変動への対応などの環境対策等を総合的に推進します。また、中小・家族経営など多様な経営体による地域の下支えを図るとともに、生産現場における人手不足等の問題に対応するため、ドローン等を使った作業代行やシェアリング等新たな農業支援サービスの定着を促進します。

需要が拡大する加工・業務用野菜について、輸入品から国産への置き換えを目指し、生産体制の強化を図るため、機械化一貫体系が確立していない品目向けの機械開発、ドローンによる肥料・農薬散布の普及、ロボット、AI、IoT、環境制御技術等を活用したデータ駆動型農業への転換を推進します。加えて、水田を活用した加工・業務用野菜の産地化、複数産地の連携等による周年供給体制の構築、農業協同組合や中間事業者等が核となり、地縁的なまとまりにとらわれず生産の安定化・供給量調整等を行う新たな生産事業体の創出等を推進します。また、消費者への安定供給に向け、豊作時の価格低落や不作時の価格高騰を防止・緩和するための具体策を検討します。

(農村の振興)
 農村を維持し、次の世代に継承していくため、 (1)生産基盤の強化による収益力の向上等を図り農業を活性化することや、農村の多様な地域資源と他分野との組合せによって新たな価値を創出し所得と雇用機会を確保すること、 (2)中山間地域をはじめとした農村に人が住み続けるための条件を整備すること、 (3)農村への国民の関心を高め、農村を広域的に支える新たな動きや活力を生み出していくこと、といった「三つの柱」に沿って、農林水産省が中心となって関係府省、都道府県・市町村、民間事業者と連携し、農村振興施策を総動員して、現場ニーズの把握や課題解決を地域に寄り添って総合的に推進します。

(東日本大震災からの復旧・復興と大規模自然災害への対応)
 東日本大震災については、地震・津波災害及び原子力災害からの復旧・復興を進めます。

大規模自然災害への備えとして、災害に備える農業経営の取組の全国展開、異常気象などのリスクを軽減する技術の確立・普及、農業・農村の強靱化に向けた防災・減災対策、初動対応をはじめとした災害対応体制の強化、不測時における食料安定供給のための備えの強化に取り組みます。また、被災地の早期の復旧を支援します。

(団体)
 農業協同組合系統組織、農業委員会系統組織、農業共済団体、土地改良区について、その機能や役割を効果的かつ効率的に発揮できるようにします。

(食と農に関する国民運動の展開等を通じた国民的合意の形成)
 食育や地産地消等について、消費者、食品関連事業者、農協等を含め官民が協働し、食と農とのつながりの深化に着目した新たな国民運動を展開します。

こうした取組を通じて、食と環境を支える農業・農村への国民の皆様の理解を醸成し、農は「国のもとい」との認識を国民全体で共有し、食料自給率の向上と食料安全保障の確立を図っていきます。

(新型コロナウイルス感染症をはじめとする新たな感染症への対応)
 内需・外需の喚起、農業労働力の確保、国産原料への切替えなどの中食・外食・加工業者対策等を機動的に講じます。

〇おわりに

今後、基本計画に基づく施策を着実に推進していくために、関係者の皆様のご理解、ご協力をお願いします。(基本計画の詳細については、農林水産省のホームページ(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/index.html)をご覧ください。)

太田 行則(おおた ゆきのり)

【略歴】

平成13年農林水産省入省。

生産局果樹花き課(生産班担当)、技術会議事務局技術政策課(企画班担当)、新潟県農林水産部地域農政推進課(担い手育成等の企画)を経て、平成30年から大臣官房政策課にて、農業新技術の現場実装や、食料・農業・農村基本計画の策定等を担当。

令和2年から現職。


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