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話題(野菜情報 2020年4月号)


JAゆうき青森におけるながいもざんを原料とした発電所

豊橋技術科学大学 応用化学・生命工学系 特任准教授 熱田 洋一

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はじめに

農業残渣の廃棄に係る費用や労力は産地で課題となっており、これら有機廃棄物を原料として活用するバイオガス発電に注目が集まっている。また、持続可能な開発目標(SDGs)にも掲げられているように、気候変動が世界的な問題となるなか、クリーンエネルギーへのアクセスは喫緊の課題となっている。このような背景を踏まえ、青森県のながいも残渣からの発電を事例に、野菜産地におけるバイオマス資源の可能性について紹介する。

 国内におけるバイオガス発電の現状

どのような産業においても、大規模化や集約化などに伴い顕在化する課題として、廃棄物処理がある。出荷できない野菜残渣などが分散して存在している場合は、個々の農家で対応が出来る。しかし、農作物が集約されるような事業になると、その残渣がまとまった量になり、対応が困難な廃棄物となってしまう場合があり処理費用もかさむ。一方、これらの農業残渣の多くは、貴重なバイオマス資源(注1)であり、これを有効利用する技術が存在すると同時に、利用の観点からは、残渣が集約されている方が効率的に利用できる。従来廃棄物であった残渣を有効利用することができるようになり処理費の削減につながれば、さまざまな利益をもたらすことになる。

この野菜残渣を有効利用する方法の一つとして、「メタン発酵-バイオガス発電」(注2)が注目されている。このメタン発酵では、バイオマス資源である食品残渣、畜産糞尿などを微生物により分解し、燃料となるメタンガスを含むバイオガスを得ることができ、一般的に用いられる湿式のメタン発酵であれば、高含水率の残渣を原料として直接取り扱うことができる。

また、このメタン発酵により生成されたバイオガス燃料として、ガスエンジンなどを用いた発電を行うことができる。これにより得られた電力は、固定価格買取FIT:Feed-in Tariff制度(以下「FIT制度」という)(注3)によって、通常より高い金額で電力会社へ販売することができる。現在は、メタン発酵によるバイオガスにより発電した電力の買取価格は、39円/kWh(注で20年間はこの固定価格で売電ができる。太陽光発電などとは異なり、バイオガス発電設備の費用が高額で、普及が遅れているため、この売電価格は現在も減額されていない。

現在、FIT制度で認定を受けている施設は、全国で200以上計画が出されているだけで稼働していないものも含むあり、割程度以上が50kW以上の高圧連系(注の事業である。これは、低圧連系(注の50kW未満の設備では事業採算性が合わないことが要因と考えられる。つまり、この50kW未満の設備規模では、原料として取り扱うバイオマス資源量は、日量で数トン~十数トン程度原料の種類で異なるであり、この量で事業採算性があう設備導入が困難な状況である。そのため、規模が大きな限られた事業者でしか本設備が導入できなかった。

こうしたニーズに答えるためにゼネック株式会社(以下「ゼネック㈱」という)、株式会社イーパワー(以下「㈱イーパワー」という)や豊橋技術科学大学を中心とした産学コンソーシアムにより、中小規模の排出事業者でも事業性が確保できる「豊橋式バイオガス発電システム」が開発され、規模の小さな事業者でもメタン発酵バイオガス発電が実施できるようになってきた。ここでは、ゆうき青森農業協同組合(以下「JAゆうき青森」という)(図1)に導入されたながいも残渣を原料とした小規模なバイオガス発電システムを紹介する。本システムは、初めての寒冷地対応および野菜残渣処理対応型であり、平成30年10月から稼働し、同年11月から売電を開始している。

注1:バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」のこと。

注2:メタン発酵-バイオガス発電とは、生ごみ、紙ごみ、家畜のふん尿などを嫌気環境(酸素の無い状態)で微生物によって分解させ、その際に発生したメタンガスを発電に利用する方法。

注3:固定価格買取制度は、FIT(Feed-in Tariff)制度とも呼ばれ、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」に基づき、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定期間中は同じ価格で買い取る制度のこと。平成24年7月1日からスタートした。

注4:kW(キロワット)は、瞬間的に出すことができる力の大きさを示す単位(電力)のことであり、1kWh(キロワットアワー)は1kWの電力を1時間で消費または発電できる電力量のこと。

  1kW×1時間=1kWhと表すことができる。

注5: 系統連系は、電力会社の電力系統に発電設備を接続すること。そのうち、「高圧連系」は50kW以上2MW(2000kW)の設備を設置する場合、「低圧連系」は設備容量が50kW未満の場合で、一般家庭や商店などの需要家が設置するものである。普段の生活の中で使用している電気は、電力会社から一方通行で供給される電力で、こちら側から発電した電力を送ることはできない。そのため、系統連系工事で受電する電力と接続し、再生可能エネルギーで作った電力を売電できるようにする必要がある。

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 設備概要

JAゆうき青森の特産品であるながいもは、各農家により持ち込まれた後、冷蔵庫などで保管し、計画的に周年出荷できる体制がとられているが、出荷時に残渣が年間1400トン以上排出されており、多額の費用(2千万円以上をかけて処理を行っていた。そのため、ながいも残渣の有効利用が検討され、メタン発酵-バイオガス発電技術が採用された。

JAゆうき青森の発電設備は、約500平方メートルの敷地内に設置されおり、安全かつ安定的な運転が可能なシンプルな構造になっている(写真1)。日本国内におけるバイオガス発電事業の多くが海外製プラントを一式で使用している場合が多いが、このシステムは、開発・設計から施工、メンテナンスまでを一貫して、ゼネック㈱を中心とした国内チームで行っている。本体となるメタン発酵槽などは、耐久性に優れた現場打の鉄筋コンクリート造りである。各種機器の調達範囲も海外までに広げており、バイオガス発電において既に実績がある低価格な機器を輸入して使用している。

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図2にJAゆうき青森バイオガス発電事業の概要を示す。写真は各工程の様子だが、発電に使用する残渣は、出荷時にカットされた先端の細い部分や痛んで出荷できなかったながいもとなる。これを破砕機に入れ、とろろ状になったものをバイオガス発電設備までトラックで運搬している。原料槽は、3日分以上の量を貯めることが出来、これを有効水量180立方メートルのメタン発酵槽へ自動的にポンプで投入する。このメタン発酵槽は、完全混合型密閉容器内で原料がかくはんされる方式で、発電機排熱を使って38度に加温中温発酵されている。メタン発酵は、密閉容器内の処理であるため、においが外部に出ないことも特徴である。また、平均滞留時間が30日以上確保されており、有機物VS分解率は80%以上ある。これにより得られたバイオガスは、メタン濃度55%、二酸化炭素濃度45%で、若干量含まれる硫化水素は、脱硫剤で除去される。このガスを燃料としたガスエンジンにより、最大出力30kWの発電機を動かす。この発電機は、2台設置されており、約1カ月に1回のメンテナンスのタイミングで切り替え交互に運転する。そのため、メンテナンスやトラブル時でも発電を止める必要がない。残渣の発生量にバラツキがあるため、発電量に変動があるが、平均日量350kWh程度が得られる。消化液発酵液は、隣接して設置された水処理設備で処理を行われた後に放流される。

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設備の使用者であるJAゆうき青森では、原料搬入の管理、日々の設備の状態確認を行っているが、全体が自動運転にされているので担当者が設備に常駐する必要はない。また、ゼネック㈱の社内で設備の状態を遠隔で監視できるようにもなっている。なお、月に一回以上の定期管理により、エンジンオイルの交換、脱硫剤の状態確認・交換、発酵液消化液および放流水の水質分析などが実施されている。

稼働当初は、発酵槽内の異常発泡や原料投入ポンプのへいそくなどのトラブルもあったが、それらを解決し、予定通りの発電量が得られるようになってきている。

 事業スキーム

事業スキームも特徴的で、本事業が実現できた要因の一つとして考えられるので、ここで紹介する(図3)。小規模とはいえ、億円水処理設備も含む強程度の初期投資が必要となるが、このスキームにより初期投資に伴うリスクを軽減することができる。設備の設置および所有は、日立キャピタル株式会社、日本アジア投資株式会社、㈱イーパワーの社の出資を受けた合同会社が行っている。そして、JAゆうき青森は、この合同会社から施設を借り受け、ながいも残渣を自家処理している。また、売電は合同会社が行い、得られた代金の一部がJAゆうき青森に配分されている。さらに、バイオガス発電は、廃棄物を取り扱うことの多い事業である。本事業もそうであるが複雑な法規制をクリアする必要がある。そのため、廃棄物をリサイクルして肥料を生産している株式会社ますなど、中間処理を行っている企業の監修を受けて進めている。このように異業種の企業と連携のもとに本事業は成り立っている。

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 今後の展開

本ながいも発電所が稼働して年以上が経過した。配管への異物混入やながいもの消化性が高いことによ生じる酸敗(注6)への不安など、稼働前から想定されていたものもあるが、ながいもの粘性が原因と考えられる発酵槽内の発泡など、想定できなかったトラブルも見られた。また、市況などに対応してながいも残渣の発生量変化への対応なども必要になってくる。これらの課題にその都度対応して、ようやく安定的に発電ができるようになってきた。 設備メーカーなどは、それぞれで異なるユーザーの事情に合わせて、設備導入後の実際の運用までをしっかりとサポートすることも重要と改めて感じている。

今後は、本地域の先導的なバイオマス利活用事業となるように、新たな取り組みに挑戦していくことを考えている。バイオガス発電では、電力の他に熱発電機からの温水排熱が得られる。この排熱は、メタン発酵槽の加温に一部利用されるが、青森地域の冬季でも余剰がでる。そこで、JAゆうき青森では、本設備の隣接地に野菜栽培用の温室を設置し、この排熱をその加温に利用することを検討している。また、特産物であるにんにくの乾燥に利用するなど本JAの特色を生かした熱の有効利用方法も検討している。

現在、全量を水処理している消化液メタン発酵廃液には、ながいもに含まれる窒素成分などの肥料成分が残存しており、その肥料成分は微生物分解されているため、速効性の高い液肥としても期待できる。遠隔地まで運搬して見合うだけの肥料成分濃度がないことや、青森地域では利用実績がないことなどのさまざまな課題があるが、地域内の自立した資源循環が構築可能であり、この消化液利用を検討する意義は大きい。よって、今後実証試験などにより少しずつ課題を解決し、耕種農家などの信頼を獲得して、消化液を少しでも有効利用出来るように考えている。

このように小型で低価格を実現した豊橋式バイオガス発電システムは、ユーザーの事情に合わせたバイオマス資源の有効利用を実現している。よって、未利用のバイオマス資源(家畜糞尿、野菜や食品残渣などが多くあっても、従来型の設備では規模が大きくて取り組むことが困難であった畜産農家、JAなどの農業者においても導入可能である。さらに、複数のバイオガス発電事業者が連携して、原料の融通や消化液散布の協力、有機的な農業への貢献、地域分散型の電源および資源循環ネットワークの構築など新しい取り組みに発展させることもできる。

特に、農業が盛んな地域ほど大きな可能性を秘めており、地域内で困っている、余っている廃棄物などを資源として、地域活性化に貢献できるように、今後も本設備の普及に努めたい。

注6: 酸敗とは、酸素との化学反応により変質し、不快なにおいを生じたりすること。

熱田 洋一(あつた よういち)

【略歴】

豊橋技術科学大学応用化学・生命工学系特任准教授

大阪府生まれ。

2004年 山梨大学大学院退学

専門は、資源循環工学。

博士(工学)(山梨大学)

豊橋技術科学大学 特任助教等を経て、

2016年より現職 

ゼネック株式会社にも在籍。


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