NPO法人 野菜と文化のフォーラム 理事 新田 美砂子
ケールは、日本では青汁の原料として「苦い、まずい」というイメージが先行している野菜であるが、最近は、苦みが少なく食べやすい料理に向くケール(以下「料理用ケール」という)が次々と登場して、若者や健康情報に敏感な人々を中心に注目されている。
米国では、10年程前から健康によい栄養成分を豊富に含む低カロリー食品という意味の「スーパーフード」としてブレイクし、モデルや女優達に人気の食材で、スーパーにはさまざまな種類のケールが販売されており、スムージーやサラダを始め、いろいろな用途で活用されている。
日本では、今から約30年程前に「まずい!」というキャッチコピーで青汁がブームとなり、ケールは日本各地で青汁の原料として栽培されるようになった。2015年ごろ、米国のケールブームの流れを汲む形で、日本でも料理用ケールが販売開始され、ケールの商品化が始まった。
料理用ケールは、外食のサラダなどや、コンビニエンスストアのサラダなど、スーパーでは、ケール入りサラダパックなどで売られている。またスーパーや直売所で、生鮮野菜としての料理用ケールを見かける機会が少しずつ増えてきた。
ケールは、主に契約栽培で生産されており、生産量は近年伸びてきているものの、現在国内生産量は2000トンに到達していないといわれ、そのほとんどは青汁用原料で使われており、料理用として使われている量は、まだ多くないのが現状である。
歴史の古い野菜
ケールは、およそ4500年前に地中海沿岸で生まれたといわれている。和名は「リョクオウカンラン」「ハゴロモカンラン」と呼ばれ、キャベツやブロッコリーの原種とされている(図1)。アブラナ科の一・二年草の植物であるケールは、アブラナ科の植物が持つ雑種強勢(注)の力により子孫を反映させて、何千年もの時代を生き延びてきた、今私達が食べている身近な野菜の「先祖」にあたる野菜である。
日本にケールが渡った時期については諸説あるが、最初は食用ではなく観賞用として栽培されていたようで、食用として栽培されるようになったのは、明治以降とされている。
注:同一種内の異系統の両親を組合わせることにより雑種第1代がその生産性,耐性などの特性が両親よりもすぐれる現象。
(1)生命力の強い野菜
古代ギリシャ時代には薬草として用いられていたケールは、原産地から北米、南米、アフリカ、アジアへ広がった。温暖な土地であれば周年栽培できる耐暑性・耐寒性の強いケールは、ヨーロッパの食糧難の時代に栽培されて飢餓を救済したり、保存性の高さから、ケルト人の航海時の栄養補給として積み込まれ、壊血病予防に役立ったりしたといわれている。
また、アフリカのケニアでは「スクマ・ウィキ」(スワヒリ語のケール)は、「一週間を乗り切る」という意味があり、栽培しやすい、安い、栄養価がある重要な野菜として用いられてきた。これらの事から、ケールは、生命力が強く、今も世界各地で食されている野菜であるといえる。
(2)多種多様なケール
ケールは、大きく分類すると6つのタイプ(コラード、ツリーケール、キッチンケール、ブッシュケール、マローケール、ポルトガルケール)があり、それぞれの中に多様な品種がある。タイプや品種によって姿はさまざまである。葉の形状は、縮れているタイプ、大きなうちわのような形状のものや、細長い葉の形状のものなど、日本でもいろいろな多様なものが栽培されている(写真1~3)。
(1)栄養価が高く機能性成分を含む野菜
ケールは、β-カロテン、ビタミンC、カリウムやカルシウムなどのミネラル、食物繊維などの栄養価が高く抗酸化力も強いことが特徴として挙げられる。米国などでは、「スーパーフード」、「葉野菜の女王」と呼ばれている。最近わが国では、機能性を訴求する動きが盛んで、2015年から機能性表示食品制度がスタートした。生鮮食品にとってはハードルが高く機能性表示される生鮮野菜は、まだ少ないのが現状であるが、GABA(r-アミノ酪酸、血圧上昇抑制に効果があるとされている)が多く含まれる葉物野菜として初めて「機能性表示食品」となったケールが2019年から登場している(写真4)。野菜から効率よく栄養や機能性を取りたいという願望を持つ消費者に、認知・訴求されることが期待されている。
(2)サステイナブルな野菜
今、世界規模で人や環境、社会にも優しい、持続可能性のある活動が求められている。食材にも単においしい、使いやすいだけでない価値が求められている。
ケールは生産者にとって、ほぼ周年栽培が可能で、病害虫に強く、収穫作業が比較的容易な野菜である。加工・業務側にとっては周年で入手しやすく、さまざまな料理に向くことから加工しやすい野菜である。小売では棚もちが良く扱いやすいなどの利点が挙げられる。
また、最近は、気候変動により災害が多発しているが、歴史的にみても生命力の強い植物であるケールは、悪条件下でもその生命力を発揮できることが期待される。
そうした理由から、ケールはサステイナブルな野菜といえるのではないかと思われる(図2)。
ケールはさまざまなタイプや種類があり、品種によって用途は異なるが、全般的に不可食部が少なく、一次加工や下処理が複雑ではないので、加工・業務用での需要が伸びていく可能性がある。
最近の消費者は、「手軽で栄養価が高くおいしい」「生食出来る」「短時間調理で食べられる野菜」を求めることが多く、下処理が面倒なもの、手間のかかる調理法(煮る、揚げるなど)は、敬遠される傾向がある。その点、さまざまな料理に使えて、時短・簡単料理にも向くケールは、冷蔵庫にあれば使い回しができる便利な野菜である。
ケールは生食、加熱調理どちらにも活用でき、和洋中問わずにさまざまな調理に使える(写真5~8)。具体的な活用方法としては、キャベツやこまつな、はくさいなどを通常使っているメニューと置き換えて使用したり、千切りキャベツの一部をケールにしたりするなど、他の葉物野菜に付加して一緒に活用することなども可能である。緑色を生かして、料理にアクセント的に活用することも出来る。前述したように、ケールは栄養成分を豊富に含み低カロリーなスーパーフードであるので、既存の料理にケールを使用することで、健康志向の消費者に対して商品価値を高めることが可能である。
今までケールの利点や特徴について述べてきたが、今後ケールが国内のスーパーなどで常時生鮮野菜として販売される一般的な野菜になるためには、品質の安定、産地の拡大、需要の拡大などさまざまな課題がある。ケールを「魅力的な食品」として印象付けて、活用する機会を増やし、認知度を高めていくことが必要になる。具体的には、以下のような点が求められる。
(1)新しいイメージを作り浸透させる
新しい野菜が浸透するには長い時間が必要である。また関係者の地道な努力と、さまざまなマーケティング活動が重要である。ケール自体は新しい野菜ではないが、青汁によって浸透しているケールのイメージを払拭して、料理用ケールの新しいイメージを浸透させなければならない。
(2)日本人に合ったケールの食べ方を広める
具体的に、イメージを変えて需要を増やすためには、「日本人に合ったケールの食べ方」を広めていくのが有効だと考えている。
現代の日本人は和洋中エスニックなど多様なジャンルの食事に慣れ親しんでいる。この食のスタイルや文化を生かして、外国の模倣だけではなく、日本人の食生活にあったケールの食べ方を追求していくことが、消費拡大につながるのではないか。
(3)キラーアイテムを作る
現在サラダ系野菜が人気であり、ケールも主にサラダ素材として活用されている。しかし、前述したようにケールは多様な調理法で用いることができるので、サラダ野菜というイメージだけではもったいない。サラダ以外の加熱調理で、しかも日本人に慣れ親しんでいる料理で、キラーアイテム(売れ筋商品)を作ってブレイクさせていく事で、これまでのケールのイメージを払拭して、料理用ケールを広げていけるのではないかと考える。
(4)サラダ用野菜としての工夫
現在、ケールは、主に生食のサラダ素材としてカットされたものが、中食・外食などで活用されている。ケールは、レタス類などと比較すると葉がやや硬めなので、柔らかい食感を好む日本人には、少し硬く感じたりするようである。柔らかい食感や食べやすさの工夫が今後の需要拡大へのポイントになるであろう。
(5)オープンな情報提供と体験の場
ケールは品種やタイプによって見た目、食味や食感も異なる。その違いを実需者や消費者にどう認知してもらうかも課題である。
ケールに関する情報はまだとても少なく、さまざまな品種を比較検討する機会もない。そこで、私が理事を務めているNPO法人「野菜と文化のフォーラム」の野菜のおいしさ研究会では、2019年1月、主に実需者を対象に、ケールの基本的な情報提供と調理性や加工性に関する勉強会を開催した。会場では各種苗会社のケールをそろえて展示し、品種に合わせたケール料理を試食提案した。
この催しは、生産から流通までの多方面にわたる方々からの参加があった。大変好評で、①ケールについての知識情報を得られた②取引のない種苗会社のケールについても知ることができた③ケールの使い方や用途性がよくわかった―などの感想があった。
ケールの活用シーンを増やしていくためには、今後もこうしたオープンな情報の提供や、体験の場を広く創っていく必要性を強く感じた。
野菜には「植物」「商品」「食品」の三つの価値があるという。この三つの価値をしっかり持った野菜が、私達の食生活に根付いてきた。大昔から人類と寄り添ってきた古い野菜であるケールが、現代の私達の食生活に、新しい形で浸透していくことを期待している。
新田 美砂子(にった みさこ)
【略歴】
1962年 東京都生まれ
農産物プロデューサー、フードデザイナー
農産物の商品・メニュー開発や、農産物のマーケティング支援事業に従事
2006年より有限会社コートヤード代表取締役
2011年より現職
法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科 卒業(経営管理修士MBA)
法政大学大学院イノベーションマネジメント総合研究所研究員 他