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〔特集〕さらなる加工・業務用野菜の安定生産を目指して(野菜情報 2019年12月号)


加工・業務用野菜の現状と今後の施策

農林水産省 生産局園芸作物課 園芸流通加工対策室 課長補佐 高井 直人

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1 はじめに

令和2年度予算概算要求において、強い農業・担い手づくり総合支援交付金の中で「新たな生産事業モデル確立支援」を新たに要求している。

これは、拠点となる事業者(以下「拠点事業者」という)が、連携する複数の産地・生産者の作業支援、供給調整および実需者ニーズ対応といった機能を発揮しつつ、安定的な生産・供給を実現する新たな生産事業モデルの育成を支援するものである。

この事業を要求することになったは、加工・業務用野菜において「いかにして、定時、定量、定品質、定価格で安定供給するか」という問題意識からであった。この事業の新規要求に至った考え方などについて、まずは加工・業務用野菜をとりまく現状から紹介する。

2 現状

野菜の需要は、家計消費用から、加工調理品などに用いられる加工・業務用にシフトし、近年では需要全体の約6割を占めている(図1)。

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この要因は、消費者の求める利便性・簡便性などに対応していること、単身・高齢者世帯の増加、生鮮野菜の小売店の減少に代わるコンビニエンスストアの台頭などが挙げられるが、流通・消費構造が変化するなかで野菜の需要も変化しており、こうした傾向は今後も続くものと見込まれる。

加工・業務用野菜の生産において最も重要であり、かつ最大の課題となっているのは、冒頭に述べた「いかにして、定時・定量・定品質・定価格の野菜を実需者に安定供給できるか」である。今までは、このいわゆる「4定」の実現のため、生産者、中間事業者、実需者の三者が連携を図ってきたところである。

また、加工・業務用野菜に関するこれまでの施策は、中間事業者を介した流通の推進、作柄安定の促進、新たな産地の育成を講じ一定の成果を得られたところであるが、現時点でさまざまな課題が発生している。

(1) 生産地での現状

基幹的農業従事者の減少・高齢化から、現在では7割近くが65歳以上となっている。今後、高齢農業従事者の離農加速化が予測されることから、このままでは加工・業務用野菜の安定供給力が維持できないことが懸念される。また、機械化による省力化が期待されるところだが、野菜では品目が多いことや外観・品質などで求められる要求度が高いことなどから機械化が遅れており、特に収穫以降の作業に労力を要している。

近年は豪雨や台風などの被害発生頻度が極めて高くなっており、野菜の作柄安定に大きな影響を及ぼしている。この結果、「4定」の実現が困難となり、中間事業者や実需者は輸入野菜での対応をせざるを得ない事態が生じている。

(2) 流通の現状

野菜の卸売価格の中で流通経費が3割程度を占めているが、流通の大半はトラック輸送が担っている。ドライバー不足などから輸送費は上昇傾向にあることに加え、輸送を断られることもあるなど深刻な事態が生じている。

また、中間事業者を介した流通方式は、生産者に対する安定供給の義務に関する負担の分散、実需者に対する安定供給のリスク分散を可能としたが、異常気象の常態化などから、中間事業者の持つ安定供給のリスク負担能力を超えた事態となってきている(図2)。

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(3) 実需者の現状

異常気象の常態化による作柄不安定への対応が喫緊の課題であり、冷蔵・貯蔵施設などの整備により一定のバッファー機能を有することで供給安定を担保することが必要となっている。ただし、この機能を生産者・中間事業者・実需者のどこに有すべきか、リスクや経費の負担などを勘案して、適正なサプライチェーンを構築することが重要となっている。

実需者の意向調査では、原材料として国産利用の割合を増やしたいという回答が過半を占めており、国産の引き合いは強い。しかしながら、大ロットで「4定」の供給に対応できている輸入野菜が定着していることから、国産加工・業務用野菜による「4定」の実現が求められるところである。

また、省力化などの観点から、例えば皮むきのたまねぎや外葉を外したキャベツなど、すぐに利用できる形態のものを求める中間事業者や実需者も多い。ただし、新たに生まれる調製作業などの負担はどこに付加されるのかを十分に検討しなければならない。

3 課題解決につながる事項

労働力不足、安定供給への対応、流通コスト上昇への対応などから、各地で新たな動きが出てきている。

(1) 新たな産地の育成

最近は、数十、数百ヘクタール規模といった大規模な野菜経営を実践する農業法人が各地に登場しており、全国各地にじょうを有する農業法人も登場している。これらの法人は、周辺の生産者の作業受託を行うほか、自ら加工工場を整備し、付加価値向上とともに供給時期の平準化を図りつつ、地域農業のみならず食品産業の核となっている事例が見られる。

また、主食用水稲の需要減少、および水田農業の高収益化を目指す観点から、水田を活用した園芸産地づくりの取も見られる。

このほか、基幹的農業従事者の減少・高齢化の中で、最近では中間事業者や実需者が収穫作業などを行う事例もある。これにより、生産者は収穫の労働力を用意する必要がなくなり、作付面積を維持、拡大することが可能となっている。

 加工・業務用野菜におけるスマート農業の展開

加工・業務用野菜の生産を通じて農家所得の向上を図るためには、低コスト・省力化により規模拡大を可能にすることが必要である。このため、これまで人手による収穫が中心だったほうれんそうやキャベツでも、機械化一貫体系の導入に向けた収穫機などが開発されている。

最近では、生育予測システム、Aやロボット、oTなどを活用した新たな農業技術が開発されつつあり、野菜生産にあっても、これらの技術を導入した生産技術の社会実装が期待されている(写真)。今後はこれらの新技術を導入した加工・業務用野菜の生産・流通システムのイノベーションを創出していくことが重要である。

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(3) 新しい流通方式の導入

天候災害などによる安定供給に係るリスクヘッジのため、中間事業者や実需者にあっては消費地近郊における冷蔵貯蔵施設の設置がなされている。また、複数県での利用を前提とした広域集積施設の設置の検討がなされているほか、複数の産地で構成する協議会を設立し、リレー出荷に取り組むなどの動きがある。

増大する流通経費の削減は容易ではないことから、生産者側では冷凍調製工場を整備し、加工品や調製品の製造などにより付加価値を向上することで販売単価の引き上げを狙い、流通経費の増大を新たな付加価値の創出でカバーする動きも出てきている。

また、増大する流通経費への対応として、複数の産地で生産物を集積しトラック輸送の効率化を図る事例が見られるほか、首都圏から離れた産地ではトラック輸送から、トラックの荷台を輸送するRORO船(注)を活用したモーダルシフトに注目しており、実証などを行っているところである。

注:ロールオン・ロールオフ船の略で、貨物を積んだトラックが、そのまま船内外へ自走できる貨物専用フェリー。港から港へトラックの貨車ごと荷物を運べるため、コンテナ船より荷役時間が短く、航空機より大量の貨物を、コンテナ船より速く運べる。

4 講じようとする施策の方向

課題解決につながる事項で示した、各地で先行的に実施される事例などから、山積する課題に対する各方策が浮かび上がってくる。今後は、これらの各方策を整理・活用して新たな加工・業務用野菜の施策として講じていくことが重要である。

冒頭で紹介した「新たな生産事業モデル確立支援」は、核となる拠点事業者と、地縁的なまとまりを超えた複数の産地、広域な産地からなる「新たな生産事業体」をモデル的に育成するものである(図3)。この「新たな生産事業体」の特徴である、拠点事業者を通じた産地間連携により、一年を通じた、また異常気象時などにおいても安定供給の実現が期待される。

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拠点事業者となりうる事業者は、連携する産地へ指導・支援を行いつつ、供給調整などを行う施設を運営する者であり、広域に展開する農業法人や流通関係者などが想定される。

拠点事業者が備えるべき機能として、①連携生産者・産地の生産支援を行う「生産安定・効率化機能」②気象的要因などによる集荷量の変動を加工・貯蔵などで調整する「供給調整機能」③消費者の求める品質や荷姿などに応える「実需者ニーズ対応機能」の3つが挙げられる。

これら機能を併せ持つ拠点事業者および新たな生産事業モデルの育成を支援することで、国産加工・業務用野菜の安定供給を可能とする新たな生産事業体の展開の推進を図る。

このほか、安定供給のために取り組むべき施策として、生育予測システムの開発やスマート農業の展開によるイノベーションの創出を促進することが挙げられる。このイノベーションは、農作業の省力化にとどまらず、例えば生育予測システムによる見込み出荷量の事前把握など、加工・業務用野菜における新たな流通・消費構造を生み出すことを可能とするものである。これにより、生産者・中間事業者・実需者の3者が、従来の連携をさらに進め、適切なリスク分散・メリット享受を実現する「一体となったプラットフォーム」を構築することが期待される。

最新の貯蔵技術を導入したストックポイントなどによるバッファー機能が発揮され、生育予測システムに基づき3者が行動を調整していく環境が整うことで、国産加工・業務用野菜の「4定」が可能となる。こうした3者の関係を構築していくためには、新たな生産事業体の育成やイノベーションの創出のほか、関係者の意識改革も併せて重要となる。

「新たな生産事業体」の展開に加え、これらの施策が講じられるよう適切な対応を図っていくことが必要であると考えている。


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