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(野菜情報 2019年11月号)


人工光型植物工場の現状と展望
~市場拡大が野菜生産に与える影響は~

農業ジャーナリスト/新潟食料農業大学非常勤講師 青山 浩子

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■技術革新と需要増加で普及が広まる

スーパーの野菜売り場で、植物工場産レタスを目にする機会が増えた。商品が置かれているスペースの広さは、小売店によって異なるが、パッケージに「植物工場やさい」「工場内水耕栽培」などと書かれた商品も目につく。

国内で稼働中の植物工場の数は増えている。一般社団法人 日本施設園芸協会(以下「施設園芸協会」という)の調査によると、人工光型の植物工場の設置数は2018年時点で202カ所。施設園芸協会は植物工場を人工光型、太陽光型、人工光・太陽光の併用型に区分しており、全体では392カ所ある(表)(注)。ここ10年間に設置が増えた施設は、人工光型植物工場だ。施設園芸協会の土屋和技術部長によると「近年特に、大規模な人工光型植物工場が増える傾向にある」という。人工光型植物工場で生産される野菜の割はレタスで、レタス全体の生産量の約%を占めているといわれる。レタス全体からみればわずかな比率だが、小売店で目にすることが増えた背景は、生産量が多い大型工場が増えたことによるものだと思われる。

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人工光型植物工場は初期投資額が大きく、収益を上げるのが難しいイメージが一般的だろう。それにもかかわらず、設置数が増え、マーケットを伸ばしている理由がどこにあるのか。植物工場の中でも人工光型植物工場を対象とする一般社団法人日本植物工場産業協会(以下「植物工場産業協会」という)の稲田信二代表理事によると「生産技術の革新と、需要の伸びがうまくかみ合った」という。

人工光型植物工場の歴史はすでに40年に及ぶ。その間に、技術が蓄積され、近年は工場の歩留まり率(商品化率)を上げる企業が誕生した。また、光源として使われるLEDの価格がこの年で下がり、植物工場向けの品種開発が検討されるなど追い風が吹いている。2000年半ばには、キログラム当たり2000円していた工場出荷価格が、1000円程度まで下がり、株当たり300円程度していた小売価格が200円を下回るようになった。

消費者の手が届きやすい価格になったことに加え、植物工場産野菜を本格的に使い始めた外食・加工業者が台頭した。2016年秋、相次ぐ台風や秋雨の影響で野菜が不作となり、価格が高騰し、原料の調達に苦労した外食・加工業者が、テスト的に植物工場野菜を使い始めたことが転機となった。露地野菜と比べると、依然として仕入れ価格は倍程度高い。それでも、①周年供給が可能なため、バイヤーは契約産地を複数抱えて調整する必要がない②芯を取る、外葉を取るといった作業が、露地野菜に比べて軽減化され、オペレーションがしやすいなどの長所がある。これらのメリットを優先する業者が取り扱いを増やしているようだ。

だが、商品が普及し、小売価格が下がる傾向にあるなか、工場として利益を確保するには、計画通りの歩留まり率を確保し、安定した販路を確保しているなど条件が伴う。施設園芸協会によると、人工光型植物工場の54%が赤字経営であり、収益の確保に苦労している植物工場も少なくない。

注:「人工光型」は、太陽光を使わずに閉鎖された施設で人工光を利用し、高度に環境を制御して周年・計画生産を行う施設。「太陽光型」は、温室などの半閉鎖環境で太陽光の利用が基本で、環境を高度に制御して周年・計画生産を行い人工光による補光をしていない施設で2015年度以降は、栽培施設面積がおおむね1ヘクタール以上の施設が対象。「人工光・太陽光の併用型」は、温室などの半閉鎖環境で太陽光の利用が基本で、環境を高度に制御して周年・計画生産を行い特に人工光によって夜間など一定期間補光している施設。

■求められる差別化戦略

レタスは、加工・業務用の需要の拡大を反映し、生産量が増えている代表格の野菜だ。しかし、高齢化による離農が加速化していることと、規模拡大を図っている担い手にとっては労働力不足が深刻な課題となっている。稲田代表理事は「国内の環境を踏まえると、植物工場の野菜は、国内の需要および供給の一翼を担う位置付けになっていくだろう」と話す。

こうした展望を踏まえ、植物工場産業協会では、植物工場産業全体の発展を目的とした体制の整備に乗りだしている。2019年月、それまでメーカーによって異なっていたLEDの仕様や特性の表示項目・表示方法に対し、一定のガイドラインを策定し、公表した。また、植物工場における栽培環境管理規定を明記した日本農林規格(JAS)づくりにも関わった。

一方、人工光型の植物工場産野菜の躍進ぶりに、緊張感を持ち、新たな戦略を立てている経営者がいる。大分県くにさき市の農業法人 ウーマンメイク株式会社は2015年に創業し、3000平方メートルの施設で主にリーフレタスを生産している。社名の通り、平山亜美社長を始めスタッフは全員が女性だ。女性の目線を生かした商品開発を行い、女性スタッフが働きやすい職場環境づくりに力を注いでいる。

同社の商品は、太陽光型を活用した水耕栽培によるレタスだ。平山社長によると、「新規開拓のための営業に出向くと、人工光型の植物工場産のレタスとバッティングする場面がでてきた」という。価格も、同社が出したい価格と植物工場産のレタスの価格が近づいてきたという。まとまった出荷量を持つ企業が台頭し、価格競争力を持つようになったことを平山社長は実感している。

同社は、2021年までに現在の面積を倍近くに増やす事業計画を立てている。新たに建てる施設の一部では、レタス以外の品目を生産する計画だ。「レタス自体も注文に十分応じられていない状態なので増設して生産する予定です。新しい品目は、現在取引中の小売店や外食業者などに売り込むつもり」と意気込みを見せる。

平山社長は地域戦略も立てている。これまで消費者の多い大都市への販売をメインにしてきたが、大分県内の実需者からの引き合いが増えていることもあり、こまめに営業活動を行うことで、地元の取引先も増やしていくことを考えている。物流コストの削減にもつながる。

施設園芸協会の土屋技術部長も「従来型の施設園芸であっても、適切な作業管理を行い生産性を向上させるとか、地の利を生かして地場流通を進めるなど、やり方次第で収益を確保することは可能だろう」と見ている。

マーケットを徐々に拡大している人工光型植物工場産野菜は、レタス生産および流通に影響を与えつつある。既存の産地や生産者には、植物工場の最新動向を注視しつつ、独自の戦略策定と実践が求められる。

青山 浩子(あおやま ひろこ)

【略歴】

農業ジャーナリスト・新潟食料農業大学非常勤講師

愛知県生まれ。筑波大学生命環境科学研究科修了。

会社勤務を経て、1999年より農業ジャーナリストとして活動開始。

主に生産現場を取材し、農業関連の月刊誌、新聞各紙に連載。

2018年4月より新潟食料農業大学非常勤講師。


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