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(野菜情報 2019年6月号)


農業の魅力を一人でも多くの人に届けたい

農業女子PJサポータ-ズ/演歌歌手 黒木 美佳

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1 中学生で民謡日本一に

生まれは宮崎県西さい市で、サラリーマン家庭で育った。しかし、近所に住む祖父が、牛の肥育と水稲をやっていたことや西都市はピーマンの栽培などが盛んで周りに田園が多いことから、農業は子供のころから、身近な存在だった。

民謡を習い始めたのは小学年生の時。きっかけは、年子の妹と一緒に家で歌を歌っていたら、あまりの騒がしさに母親が閉口し、それなら外に習いに行けばとなったことだ。偶然、母親の知り合いの洋服の仕立て屋さんが近所で民謡教室をやっていたことから、そこに妹と一緒に通うことになった。民謡教室は歌い放題で、私ははまってしまって、熱があって学校を休んでも、民謡教室には点滴を打ちながらも通うほどだった。民謡の先生の家は農家で、生徒みんなで田植えや稲刈りを手伝った。手伝うといっても、今は田植え機で植えるので端っこを植えたり、刈り取りを生徒全員で手伝うというものだったが私は民謡と同じくらい農作業が楽しかった記憶がある。

中学校2年(14歳)の時に、民謡の全国大会少年少女部で優勝して日本一になった。優勝した歌は「正調刈干切唄」。この曲は宮崎県を代表する歌で、稲刈りを表現する農家の仕事歌である。この優勝がきっかけで農業と一生関わることになったといっても過言ではないかもしれない。

高校を卒業後、民謡の先生の内弟子などを経て2010年に妹と一緒にメジャーデビュー、その後妹が女優になったことから、2017年には、ソロの演歌歌手になった。

2 みやざき大使をきっかけに農業女子サポーターズに

歌手活動の傍ら、地元の生産者の依頼を受けて、西都市大使として農産物のPR活動を行うこととなった。2015年からは「みやざき大使」としてしい村のしいたけや宮崎牛の販売を手伝っている。

同時期に農業女子プロジェクト(注)(以下「農業女子PJ」という)のサポーターズとしての活動も始まった。農業女子PJサポーターズは、農業界にとどまらず幅広く情報発信やPR活動を行い、農業女子PJの認知度向上などに協力する活動のことだ。それまで農業女子という言葉すら知らなかったが、話を聞いてぜひ農業女子PJを応援したいと思い、サポーターズをお引き受けすることとした。また、当時、宮崎県は農業県でありながら農業女子PJのメンバーの人数が少なかったので、女性農業者である従姉妹をはじめ養鶏会社で働く女性など10人ぐらいを勧誘するなど、農業女子サポーターズとしてますます深く農業と関わるようになった。

2013年に農林水産省主導でスタートした農業女子PJだが、現場ではまだまだ認知度がそれほど高くないのが現状である。「姑がいるので外出にくい」「農家の嫁はおしゃれをして外出するものではない」といった女性への偏見や堅苦しさがいまだに存在している。

演歌歌手という、まったく異なる世界に身を置いてはいるが、農業の現場で女性が置かれている現状を少しでも変えたいという思いが原動力になっている。女性は、男性の後についていくものでもないし、女性が入ったことで、売り上げがこんなに増えたというのをもっと増やしたい。こんな加工品を作ったことで売り上げが伸びたということになれば、家族の中で女性の力が認められ、ひいては女性(嫁)の地位が上がる。

幸いなことに地方公演などで、演歌を聴きにいらっしゃる方には農家の方が多く、またJAの催しものでも演歌(歌謡ショー)が多い。そうした地方公演の機会やテレビ、ラジオへの出演の際に、農業女子PJの話をしているのだが、ありがたいことに、アナウンサーや視聴者からの関心が非常に高く、興味を持って聞いてくれる。特に、農業女子PJという名前に興味を持たれることが多く、「農業女子PJ」という言葉が耳に残ることでサポーターズの所期の役割は果たせているのかなと思っている。

注:女性農業者が日々の生活や仕事、自然との関わりの中で培った知恵をさまざまな企業の技術・ノウハウ・アイデアなどと結びつけ新たな商品やサービス、情報を創造し、社会に広く発信することにより、農業で活躍する女性の姿を多くの人に知ってもらうためのプロジェクト。2013年から農林水産省が推進している。

3 今年月 舞台「私、農業を始めます!」の上演

自分自身で企画立案からキャスティングまで手がけた初めての舞台作品となった「私、農業を始めます!」を今年の2月26日~3月3日に元AKB48の平田さん主演で東京・渋谷のホールで上演した。昨年の10月に企画を農林水産省に持ちかけ、非常に短期間での作品作りとなったが、多くのスポンサー・協賛の皆様に支えられ実現した。今回はトマト農家に農業体験に来た女子大生を主役にしたもので、畑の畝の作り方や台風が来たらどうするかなどといった暴風雨の中、農家の助け合う姿を見て女子大生が農業に目覚めるといったストーリーだった(写真1)。

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こだわったのはキャスティングで、特に主演女優には、農業とは縁のなさそうな人をあえて選んだ。

この子ができるなら、私にもできると思わせることが狙いだった。そのため、主役は決める前に事前に会いに行って、自分のイメージ通りであることを確認した上で配役した。舞台は若者が多く集まる渋谷で行ったので、1階の看板を見て、農業に興味がないような若者が突然見たいといって見に来てくれたりした。

4 念願の農業女子デビュー

今年から、群馬県の高崎市で畑を借りて、ばれいしょやねぎの栽培に取り組んでいる(写真2)。農場の名前は、MUSE FARM(ミューズ ファーム)、広さは15アールで、次はかんしょを作る予定としている。

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畑を借りてから、週末は群馬県で過ごすことが多くなった。車で時間かかるが、育った環境と似ているせいか、心身ともに落ち着く、大切な時間となっている。

周囲からの勧めもあり、この夏は収穫祭を企画している。所属事務所の若い歌手だけでなく先輩歌手の皆様からも、私の活動を通して農業に関心を持っていただいており、今から野菜作りに力が入っている。

5 農業女子の声を反映したネットショップの立ち上げ

MUSE FARMという名前でネットショップを立ち上げ、自分の畑でできたものや農業女子が生産したものを販売しようと思っている。これは、農業女子から販売する場所がないので、販売する場所を設けてほしいという声に応えたものである。現在、試験的に農業女子の生産したえごまなどを販売している。個人的に贈答品を送る際には、農業女子の作った加工品や、最近お米の消費が減っているのでお米を食べてもらいたいと思って北海道のお米を入れている(写真3)。また、農業女子は、野菜を作っている人が多いので、これからは、もっと野菜の加工品を販売していきたいと思っている。

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6 今後の活動予定

来年3月には、舞台の第2弾を行う予定である。第1弾は、農業に慣れない若者を対象としたので、次回は、農業を実際にやっている方でやや年齢が高い層をターゲットにしたいと考えている。農業はもうからない、子供に農業を継がせたくないなどの考えがややこり固まった層も狙って、農業のおもしろさ、魅力を伝えられればと考えている。

夢は、今借りている畑の前にあるうどん屋さんのような店を出すこと。この店は、地域では有名なはる十文字うどんを提供しているのだが、小麦粉は別として、ごぼう、ねぎ、豚肉を自家栽培で生産したものを提供している(写真4)。こうした自分の畑で生産したものや知り合いの農業女子の作った農産物などをお店で食べることができれば、生産者の顔が見え安心にもつながるので、そんな店を出すことも理想である。

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(黒木 美佳氏へのインタビューを基に調査情報部企画情報グループが構成)


黒木 美佳(くろき みか)
【略歴】
1983年 宮崎県西都市生まれ
1997年 中学2年 民謡(正調刈干切唄)で日本一に 高校卒業後上京 
2010年 歌手でメジャ-デビュー
2015年~ みやざき大使 農業女子サポーターズに就任
2019年2~3月 舞台「私、農業始めます!」を企画・立案(総合プロデューサー)で上演


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