青森県立五所川原農林高等学校 教諭 三上 浩樹
本校は明治35年に創立され、今年で117周年を迎える農業専門高校である。学科構成は、食品科学科、環境土木科、森林科学科、生物生産科の計4学科、生徒数は約400名であり、相撲部、柔道部、野球部をはじめとする部活動が盛んな学校である。
未来を担う「人財(注1)」を育成するためには世界のルールや流通を学んでおくことはとても重要であると考えており、本校では、農業生産工程管理の国際標準であるGLOBALG.A.P.認証(注2)、森林経営の国際的な認証であるFSC(注3)に着目し、これらの国際認証を取り入れた教育に取り組んでいる。
注1:未来を担う人の財として、「人財」と表現しています。
注2:GLOBALG.A.P.(Good Agricultural Practice):グローバルギャップ、グローバルGAP、GGAPと表記されることもあるがGLOBALG.A.P.が正式名称。
注3:FSC(Forest Stewardship Council):森林管理協議会のこと。森林の管理や伐採が環境や地域社会に配慮して行われているかどうかという視点から、木材の流通・加工プロセスを国際機関である森林管理協議会が評価しラベリングする。消費者はラベルのある商品を選ぶことで間接的に世界の森林保全を応援できるシステムとなっている。
本校では、国際的な視点を持った次世代の農業経営者を育てるため、平成27年からGLOBALG.A.P.認証取得に向けた教育活動を全校生徒を対象に行っているが、その中心となるのは有志の生徒で構成された「GLOBALG.A.P.チーム」である。初年度は15人の有志(1年生8人、2年生7人)が集まり、同年12月に高等学校として国内初の認証をりんごで取得した。
この有志によるチームは、全校を代表して認証取得に向けた取り組みに携わり、審査機関への申請や審査への立会いまで行う。その他の生徒も、「農業と環境」「果樹」「野菜」「作物」といった通常の科目のなかでGLOBALG.A.P.対象となる作物の栽培管理を実践的に学んでいる(図1)。
GLOBALG.A.P.関連の指導に当たっては独自の教材を用意して学習しており、さらに、全校生徒に対してGLOBALG.A.P.
チームの活動状況を報告し、実践成果を共有している。また、実習場所では、圃場のルールを遵守することで、科目横断的に学びを深めており、このような日々の学習に触れたことがきっかけとなって、GLOBAL
G.A.P.チームに加わる生徒も増えてきた。30年度のチームメンバーは41名(1年生24人、2年生10人、3年生7人)となり、りんご、米、メロンに加えてばれいしょでの認証を取得している(表1)。
(1)認証取得までの年間プロセス
5月のチーム結成後、9月の審査に向けてGLOBALG.A.P.チームは、放課後に週2回程度集まり、ルールやマニュアルづくり、圃場環境や帳簿類の整備を行う(表2)。認証取得が初めてとなる作物では約4ヵ月ほどかかる。GLOBALG.A.P.認証は毎年、更新する必要があるが2年目以降の品目については通年で改善を行っていくことになる。また、毎年、作目を追加するたびに、関連する施設・設備をチームメンバーが後輩(新メンバー)と一緒に見回り、リスクが発生する可能性のある場所に付箋を貼るなどし、改善点を繰り返し確認した(写真1)。このPDCAサイクルを繰り返すことによって、生徒は理解を深めていき、さらに後輩を指導していくことでノウハウが引き継がれている。
なお、指導者は、チームの組織づくり(下級生への指導体制)や進捗状況の確認、生徒への学習支援、審査機関との調整などを行うが、審査当日の質問応答は生徒が行っている。
(2)取得への取り組み過程の公開
認証への理解と普及を進めるため、高校・農業大学校を始めとする教育機関や行政機関などへ取得への取り組み過程を公開している。29年度からは、チームの立ち上げ(5月)、本審査を想定しての校内模擬審査(8月)、本審査(9月)の3回を公開し、生徒が取り組む活動の様子を公開した(写真3、4)。多くの方々の見学は、生徒にとって学びに対する外部からの評価として大きな自信となっている。
(3)企業からの評価が自信につながる
流通学習の成果は企業とのコラボレーションという形で実現している。29年度には国際認証を得た本校産の米が全日本空輸株式会社(ANA)の国際線ファーストクラス機内食で提供され、29年度および30年度には岩塚製菓株式会社のお菓子「味しらべ」の原料として採用された。このような体験を通して、生徒たちは持続可能な農業生産を各業界が評価していることを学んだ。
(4)海外マーケティング研修
GLOBALG.A.P.認証は輸出に関するパスポートでもあるため、流通に関する学習の一環として、青森県教育委員会の事業の補助を受け海外研修を実施している。りんごの選果や梱包、輸出手続き、外国語研修などの事前研修を行い、現地での本校産農産物に対する評価、海外の流通や販売の現状を自らの目で確認した。
28年度は、オランダのアムステルダム(GAP AWARD 2016受賞)(注4)と中国の成都市(りんご海外輸出販売研修)、29年度は、成都市および香港(北海道岩見沢農業高校と共同)、30年度はシンガポールで海外マーケティング研修を行った(写真5)。
注4:GAP AWARD(ギャップ アワード)とは、GLOBALG.A.P.基準に従い、GAP(適正農業規範)を導入して優れた実績を収められたGLOBALG.A.P.認証生産者を表彰するもの。
活動は校外へ広がっており、今年度はGLOBALG.A.P.チームの生徒4名が8月と11月の計2回、むつ市にある農業生産法人「エムケイヴィンヤード」に出かけ、GAP認証支援を行った(写真6)。8月にGLOBALG.A.P.に関する連携協定を結ぶと、その日から支援を開始した。地理的な関係上、何度も足を運ぶことができないため、NECソリューションイノベータ株式会社で開発したGAP認証支援サービスを活用し、定期的にweb上でチェック項目を確認しアドバイスを行った。
生徒たちは日々の授業を通じて国際認証への関心が高まり、世界の農林業の現状、規範意識や管理体制、持続可能な農林業の大切さなどについて理解を深めてきた。さらに、GLOBALG.A.P.チームは、上記に加えて、自らの目で農場の状況を見つめ、リスクを発見し、ルールづくりや改善を繰り返すことにより、自主性や協働性、課題発見・解決力、企画力、調整力が育まれ、自身の進路にも大きな影響を与えている。GLOBALG.A.P.チームの卒業生の進路は4年生大学、農業大学校などへの進学や農業関連産業への就職が多かった。
また、GLOBALG.A.P.教育を実践することにより、教育環境の改善(リスク軽減による安全性の向上、帳簿類や圃場ルールの整備など)が図られ、教職員の指導力の向上にもつながっている。
本校の国際認証教育は、取得することが目的ではなく、取得に向かう過程でどのように教育活動に位置付けていくかで効果は大きく異なると考えている。本校では、生徒が目標に向かって自分たちで考えて行動し、課題解決していく過程を最も大切にしている。今後、さまざまな雇用形態が増え、外国人労働者の増加が予想される中、これまで以上に大規模化、法人化が進む日本の農業にとってGLOBALG.A.P.認証にある「労働者の安全」という視点はますます重要になってくるのではないかと考えている。
一方で、課題としては、知識や技術、指導力といった教職員の資質向上と共に、将来の日本の農業の在り方を見据えた持続性のある教育体制づくりが必須であると感じている。
三上 浩樹(みかみ ひろき)
【略歴】
青森県弘前市出身。
平成23年に青森県五所川原農林高等学校に赴任。