農林水産省 生産局園芸作物課
農産物の出荷規格は、産地が取引の円滑化や有利販売の実現のために定めたものであるが、産地間競争を背景とした差別化や、販売先からの多様なニーズへの対応などの積み重ねの結果、細分化されてきた。
しかし近年は、生産者の高齢化、後継者不足などにより労働力の確保が困難になる一方で、出荷規格が細分化されるにつれ、箱詰め前の等階級による選別作業にとどまらず、収穫、調製、袋詰め、在庫・出荷管理、販路・輸送確保など、出荷関連の広範囲な作業(以下「出荷関連作業」という)の手間が増え、これが労働力不足の一因となっている産地も見られる。また、共同選果施設による選別作業を行っている産地においても、施設における雇用者の確保や運営費・維持管理費の面で苦慮している状況も見られる。
一方では、加工・業務用需要の高まりに対応した当該需要向け生産に併せ、簡素な形態の出荷などに取り組んで、一連の出荷関連作業の効率を大きく向上させている事例が見られる。
そうした状況を踏まえ、将来にわたり持続的に青果物を生産・供給するために、出荷関連作業が大幅かつ抜本的に合理化・軽減できる表1のようなアプローチも幅広く視野に入れ、作業労力軽減に向けた産地の将来展望・方針を決定していくことが望まれる。
ここでは、産地での出荷規格および出荷関連作業の見直しの取り組みの参考になるよう、各取組事例、ノウハウなどについて紹介する。
(1)出荷規格の統合・簡素化
出荷規格の簡素化は、流通業者、実需者からも期待される場合があるが、実際には産地において、市場評価に対する懸念などから取り組みに二の足を踏んでいる場合がある。
しかし、今回紹介する事例のように全出荷量を簡素化するのではなく、需要のピークを除いた一定期間、あるいは一定割合を簡素化したり、パッケージセンターを活用した包装加工で付加価値をつけることにより、市場評価を大きく下げることなく、簡素化を実現できる事例もあり、これらを参考にしながら産地の出荷関連作業軽減に向けた取り組みを進めていただきたいと考えている。
ア いちごの出荷規格の簡素化
A県のいちご産地では、選別に要する作業時間が負担となっていたことから、需要が多い時期(11~12月)を除く通常期(1~5月)を対象に、簡素化した出荷規格を使用している。需要が多い時期は、6規格で、通常期は、3規格で出荷している。
選別作業時間の削減により、その分、生産者は栽培管理に労働力を充てることができたことから、1戸当たりの作付面積を拡大できるようになり、それに伴い1戸当たりの販売金額も増加したところである(図1、図2)。
イ さといもの出荷規格を10段階→5段階へ簡素化
B県のさといも産地では、規格を従来の10段階から、孫芋(2L、L、M、A)と子頭(丸L)の5段階に簡素化した(図3)。
出荷規格の変更については、市場と相談して決定した。個々の生産者がコンテナに選別したものを、JAのパッケージセンターで袋詰め(包装加工)して量販店で販売している(図4)。
これにより、産地での選別作業が軽減された上に、量販店では包装加工して販売することで、付加価値を付けたことから、以前よりも市場評価を得ている。
また、選別の手間が省力化されることにより、新規就農者にも生産品目として選ばれやすくなったとのことである。
(2)出荷形態の簡素化・省力化(主に加工・業務用野菜)
生活環境の変化に伴い食生活も大幅に変化し、中食や外食などへの「食の外部化」が急速に進んでおり、主要野菜の消費用途は、約6割が加工・業務用となっている状況である。加工・業務用向けにおける契約取引については、流通における基本的特性(生産・収穫・選別調製など)が市場出荷流通と大きく異なることから、それらを十分に理解することが重要である(表2)。
加工・業務用向けの契約取引においては、市場向けと比べて等階級への選別作業の軽減や、簡易な荷姿が選択できることで産地側の労力軽減が実現できる。
さらには、出荷容器についてもダンボールから通いコンテナや鉄コンテナに変更することで、コスト削減にもつながるため、実需者と協議しながら取り組んでいくことも有力な選択肢である。
ア きゅうりを混み規格で出荷
C県のきゅうり産地では、新しい出荷形態として、「A、B等級のM、S混み」のような、複数の規格を一緒にして出荷する「混み出荷」に取り組んでいる(図5)。
これにより、出荷規格の簡素化と同じように、選別作業などを省力化できるほか、一斉収穫が可能で、1日1回の収穫で済むことから、トータルの作業時間が縮減し、生産規模の拡大につながっている。
また、選別作業の省力化により直接人の手に触れる回数を少なくすることができることから、鮮度保持も可能となる。
「混み出荷」により、きゅうりの1キログラム当たりの単価が下がっても、生産者の手取りは、「単価×単収×面積-コスト」で決まるため、単収と面積の増加および人件費(労働時間)を含む出荷コスト削減(1キログラム当たり約15円→11円)により、目標とする手取り確保が期待できる(表3)。
イ 加工・業務用ねぎを簡素な出荷形態で出荷
ねぎは一般に、白ねぎ(長ねぎ)、青ねぎ、小ねぎの3つに分けられ、産地サイドでは、いずれも、調製作業の省力化が重要な課題となっている。
この中で、白ねぎについては、近年、加工・業務用として、葉と茎盤上部を切除(調製機により同時に切除)した「両端深切り」の形態で出荷する事例がみられる(図6)。
これにより、サイズ選別が不要となるほか、従来規格では市場出荷できないものも出荷可能となるメリットがある。
また、青ねぎについては、カット向けに、先端部を折り曲げて、コンテナにバラで収納し、横詰め・横置きの状態で輸送効率を高めて出荷する事例も見られる(図7)。
青ねぎの出荷形態については、根付き出荷だけでなく、刈り取り再生栽培による根切り出荷も可能であることから、年3~4回程度収穫するとともにバラ出荷に取り組むことにより、調製作業の省力化と生産・出荷規模の拡大が可能となる。
(3)出荷関連作業のアウトソーシング
ア いちごのパッケージセンターを導入
D県のいちご産地では、農家の高齢化や労働力不足などによる生産者数や作付け面積の減少から、労働時間の約7割を占める収穫・調製・出荷作業の省力化が課題となっていたほか、個別選果による等階級内の品質のバラツキが生じていたことから、JAがパッケージセンターを建設した。
選別・調製作業の農家労働力が軽減されたことで、いちご栽培に係る10アール当たり労働時間は約500時間(約2割)程度削減され、それにより、栽培管理への注力が可能となった。(図8)
また、等階級内の品質のバラツキが無くなり市場占有率が上がったことで、有利販売の実施や流通経費の削減につながっている。
イ 選別以降の作業を民間業者などに受託
産地では粗選別のみで出荷し、販売先である市場や中間事業者などが出荷・調製作業を受託することで、産地では選別に係る労力軽減だけでなく、栽培管理への注力が可能となり、収量の向上や、規模拡大が見込まれる。
また、収穫後出荷までの時間が短く、鮮度が高い状態で出荷が可能となる。
(4)出荷販売区分の集約
なすの出荷販売コードの集約
E県のなす産地では、品種や栽培方法によって分かれていた出荷区分を集約した(表4)。また、包装資材の簡素化(出荷箱や包装フィルムが4種類から1種類への変更)により、選果機にセットする包装資材を取り替える必要がなくなり、作業時間や資材コストの低減につながった。さらには、選別作業が1日当たり従来より2時間程度短縮したため、作業の合理化・効率化を実現している。
このことで、販売ロットを確保でき、大口取引の拡大に成功し、取扱数量が集約前と比べて11%、販売高では10億円増加した。
簡素な出荷形態による取引には、流通業者・実需者にも以下のようなメリットがある。
流通業者における主なメリット
・規格ごとに分けて保管するため、スペースが横に広がらず場所をとらない。
・契約取引なら相手が特定できるため、回収が必要なパレットやコンテナの導入が容易となり、荷下ろしが楽になる。
実需者における主なメリット
・全体的に小分けのものが売れ筋となっているため、リパック(再包装)することが増えてきており、バラで入荷したほうが手間を要さず売りたい形で包装・陳列できる。
・コンテナで荷を受け取ると、ダンボールを潰す手間がなくなる。
・産地で収穫されてからのリードタイムが少なく新鮮さがある。
出荷規格は、取引先の要望に沿って産地で作成されてきたものであるため、産地と流通業者・実需者が協力し、密に協議を行い、双方納得のいく形で取り組みを進めることが必要である。
規格の簡素化などを進める上で、市場価格の低下、他産地との足並みがそろわないなどの懸念があるが、このような問題点に対処するため、次のような対応方向をとることが必要である。
(1)現状の把握と分析をすること
現在の出荷規格の活用状況や、出荷関連作業の労働実態、出荷資材に係る経費などの状況を把握し、実需者ニーズと出荷規格の整合性、将来の労働力を見据えた作業体系のあり方や、出荷規格などを見直すことにより、どの程度のコスト削減が可能となるかなどの分析をする。
(2)産地間の連携を形成すること
単一の産地で出荷規格および出荷関連作業の見直しを行うよりも、多数の産地が連携して実施する方が、効果が大きくなる。
(3)まず試験的に行ってみること
生産者、卸・仲卸売業者、小売業者、消費者のそれぞれが、規格簡素化が進まない理由として自分以外の者に原因があると考えている傾向にある。そのため、関係者の話し合いの上、第一段階として、一部の産品についてでも試行的に取り組みを行って、効果を実証し、効果を共有することが有効である。
出荷規格および出荷関連作業の見直しについては、平成31年度より、「食品流通合理化促進事業」のうち、物流業務効率化モデル形成(園芸作物流通対策)の支援メニューの中に、出荷規格の統合・簡素化や簡素な荷姿での出荷による新たな流通体制の確立に向けた実証を支援する内容を拡充しているところである。
(本事業は、既存の流通技術・方式などを改良・高度化し、流通の効率化を加速させるため、近年開発・改良された新たな新流通技術・方式などの実証の取り組みを支援するために創設されたものである。)
出荷規格および出荷関連作業の見直しは、産地の将来に渡る生産の持続性を前提とし、産地と流通関係者などがしっかりと連携して取り組みを進めていただければ幸いである。
なお、今回掲載した事例以外の取組内容についても、当省ホームページ(http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/kikaku.html)に掲載されているので、参照願いたい。
<問い合わせ先>
農林水産省 生産局園芸作物課
03―3502―5958