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話題(野菜情報 2018年10月号)


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「健康な食事・食環境」の認証制度「スマートミール」

静岡県立大学 食品栄養科学部
フードマネジメント研究室 教授 市川 陽子

はじめに

現在、日本人の食料消費(最終飲食費)の約割は加工品と外食が占める。国民健康・栄養調査結果(2015年度)では、外食および持ち帰り弁当・惣菜を定期的に利用する者は、主食・主菜・副菜を組合せた食事の頻度が少ないことが報告されている。このことは、消費者が、外食や中食でも健康に配慮した食事を選択できる場や商品を増やす必要性を示している。例えば、食育や保健指導を受けた人が健康的な食生活を送ろうと意識しても、実際にそれを叶える食事(モノ)が身近になければ「絵に描いた餅」になってしまう。また、2015年月には機能性表示食品制度が始まり、保健機能食品、サプリメントなどの開発に拍車がかかったが、量や質の悪い食事にどれだけ保健機能性をプラスしても、個人に合った食事量や栄養バランスの悪さはそのままなのである。つまり、食事レベルでの「食環境の整備」こそ、国民の健康寿命延伸のカギといえる。

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健康な食事・食環境(スマートミール) 制度化の背景

これまでにも、世の中には「ヘルシーメニュー」に類似した名称の食事が提供される場面が多々あるが、そこに明確な根拠やルールはなかった。少々野菜がのっていればヘルシー、油が少なければヘルシー、ご飯が少なければヘルシー、量が少なければヘルシー・・・かなりいい加減である。特に栄養士や管理栄養士が関わっていないケースでは、消費者はイメージに対価を支払っている状況といわざるを得なかった。

厚生労働省健康局は、2015年月に「健康な食事のあり方検討会」の報告の中で、「生活習慣病予防その他の健康増進を目的として提供する食事の普及に係る実施の手引」を示した。この推進事業として、日本栄養改善学会と日本給食経営管理学会が中心となり、この度、10学協会によるコンソーシアムが認証する「健康な食事・食環境(スマートミール)」が制度化された。この制度は、外食・中食・事業所給食において、①栄養バランスのとれた、②適量の食事を、③継続的に、④健康的な空間(受動喫煙の防止)で提供する、店舗や事業所を認証するものである。

「スマートミール Smart Meal」という通称と、エネルギー量による段階の食事の通称は、一般からの542件の応募の中からコンソーシアムで決定したものである。

核となる「スマートミール Smart Meal」の基準は、先述した厚生労働省健康局の「生活習慣病予防その他の健康増進を目的として提供する食事の普及に係る実施の手引」の食事の目安を参考に、(1エネルギー量は、食あたり450~650キロカロリー未満(通称「ちゃんと」)と、650~850キロカロリー(通称「しっかり」)の段階で設定した。実際に栄養士・管理栄養士が監修して事業所給食で提供されているヘルシーメニュー(4つの給食会社から20食ずつ、計80食)の献立を分析した結果を踏まえ、(2料理の組み合わせの目安は、①「主食+主菜+副菜」パターン、②「主食+副食(主菜、副菜、(汁))」パターンのパターンを基本とし、各皿における食品の使用量を示した(図)。

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いずれのパターンにおいても、野菜量は野菜、きのこ、いも、海藻をトータルで140 グラム以上としている。野菜は主食、主菜では不足するビタミン、カリウムなどのミネラル、食物繊維を補う重要な役割を果たすものとして、厚生労働省の食事の目安では120200グラムと範囲で示していたが、「食事バランスガイド」における副菜1つ(SV)=小鉢1皿分の野菜量が70グラムであることを踏まえ、その2つ分である140グラム以上とした。

これは、分析したヘルシーメニューからも妥当な量であることを確認している。のパターンでは副菜を2皿としているが、「副菜1」を主菜の付合せなどとし、「副菜2」を独立した小鉢とする方法、あるいは「副菜1」と「副菜2」を合わせて1つの大きな副菜とする方法など、メニューにより自由に工夫ができる。のパターンは主菜と副菜等が一緒に入った副食(おかず)という扱いである。いも類は炭水化物も多く含むため、治療食のガイドラインによっては野菜に含めない場合もあるが、カリウム、食物繊維の給源として優れていること、栄養士、管理栄養士が監修すれば野菜量をいも類だけに頼るはずはないこと、分析したヘルシーメニューにおけるいも類の出現頻度と量がそれほど多くなかったことから副菜に含めた。

トータルで140グラム以上の野菜量は、「スマートミール」の基準の中で要ともいえる。

また、エネルギー量に幅のある中で栄養バランスを整えるために、PFCバランス(総エネルギー量に占める、エネルギー産生栄養素;たんぱく質、脂質、炭水化物の各エネルギー量の割合)が、食事摂取基準2015年版における18歳以上のエネルギー産生栄養素バランス(PFC%Eたんぱく質13~20%E、脂質20~30%E、炭水化物50~65%E)の範囲に入ることを確認することとしている。さらに、日本人では未だに摂取量が多い食塩量については、 食塩相当量」の目安として、「ちゃんと」3.0 グラム未満、「しっかり」3.5グラム未満と定めている。その他、牛乳・乳製品果物」については、基準を設定しないが、適宜取り入れることが望ましく、「特定の保健の用途に資することを目的とした食品や素材を使用しないこと(注:減塩醤油などは使用できる。)としている。今回の基準は、いずれも施設や店舗が取り組みやすいこと、健康増進に根拠があり、かつ実現可能な内容であることを重視して議論してきた(図)。

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また、当然のことであるが、「スマートミールだけで、健康になったり、生活習慣病を予防できるわけではありません。健康づくりには、スマートミールのような、栄養バランスのとれた食事を継続的に食べ、積極的に身体を動かし、禁煙、節酒を心がけるなど、適正な生活習慣が重要です。」と注意書きを添えている。さらに、あくまで生活習慣病の予防を目的としたもので、治療食ではないことに注意していただくため、「現在治療を受けておられる方は、主治医にご相談の上、スマートミールをご利用ください。」と加えることにしている。

スマートミール認証の必須項目(3つの要素オプション項目

「認証基準」は、つの要素から成る「必須項目」、すなわち、(1「スマートミール」の基準に合致した食事の提供と情報の提供、(2) 「スマートミール」のプロモーション(選択時にプロモーションされていることがわかる、選択に必要な栄養情報等の提供)、(3「健康な食事・食環境」の運営体制(従業員が「スマートミール」を説明できる、管理栄養士・栄養士が作成・確認に関与、店内禁煙)の項目(外食・給食項目、食は項目)と、「オプション項目」(16~17項目)を設定している。

野菜料理を積極的に提供するよう、オプション項目19では「野菜70 グラム以上のメニューを提供している(サラダバーを含む)」としている。これは、「スマートミール」以外での提供を指しており、「スマートミール」を選択しなかった利用者にも野菜を摂るチャンス、環境を設けることを意味する。サラダバーに限らず、別添えのサラダ類、野菜小鉢(おひたし、和え物、酢の物、常備菜など)を一品プラスしてもらえるような仕組みができる。また、オプション項目21として「果物を提供している(シロップ漬けを除く)」も設定している。必須項目をすべて満たせば「星つ」、オプション項目のうち項目以上に取り組んでいれば「星つ」、さらに10項目以上で「星つ」が、健康な食事および空間を提供している店舗、事業所に対して認証されるのである(図)。

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このように達成度に段階を設けた点、継続的な取組みが維持できるようセルフチェック可能な項目とした点、そして、食事だけでなく店内全面禁煙という「健康な食環境」も認証の対象とした点が特徴である。

加えて、本制度はコンソーシアムを構成する学術団体だけでなく、国の健康・栄養政策(厚生労働省の「スマート・ライフ・プロジェクト」など)や、さまざまな団体・企業との連携・協力により運営、推進される。もちろん、学術団体として科学的な事業評価も求められている(図)。

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回目の認証実績は70件

さて、第1回の認証では、2018年月~月の応募期間に80件の応募があり、月中の形式審査、7月のワーキンググループでの詳細な審査、8月初旬のコンソーシアムによる本審査を経て最終的に70件(内訳:外食25件、中食11件、給食34件)の認証が決定し、プレス発表を行った。認証された事業所は、東北から九州まで全国に広がっている。会社だけでなく、地方自治体の栄養士が地域の健康づくりとして位置づけ、地元の店舗に協力している例も数件みられ、今後さらに増えることを期待している。日には、新潟市朱鷺メッセで開催された第65回日本栄養改善学会学術総会において、「健康な食事・食環境」第回認証式がとり行われ、認証式に続き、コンソーシアムを代表して日本糖尿病学会および、日本肥満学会、日本高血圧学会、日本公衆衛生学会の各理事長、委員長による特別リレー講演も行われた。当日は1000人以上入るメインホールの椅子が足りなくなるほどの大盛況で、本事業に対する関心の高さがうかがえた。

おわりに

回認証式の翌日、2018年日から、第回の認証に向けた応募が開始されている。本制度は始まったばかりで現在のところ反響は大きいが、重要なのはこれからである。コンソーシアム、事業者、何より利用者の者の目的が叶い、Win-Win-Winの関係になることが、単なるブームやキャンペーンで終わらない、持続可能性(Sustainability)のカギと考えている。評価と課題の解決を繰り返しながら、さらなる普及と定着を目指し、健康寿命の延伸に貢献していきたい。

「スマートミール」の詳細、認証事業所、応募方法や様式、ロゴなどは、全てホームページより閲覧、ダウンロードできるので、ぜひ一度ご覧下さい。(http://smartmeal.jp/)

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市川 陽子(いちかわ ようこ)

【略歴】

博士(栄養学)、管理栄養士、健康運動指導士

専門分野:実践栄養学、給食経営管理      フードマネジメント

1988年3月 東京家政大学家政学部 栄養学科  管理栄養士専攻 卒業

1990年3月 日本女子大学大学院 家政学研究科 修士課程 修了

2005年3月 徳島大学大学院 栄養学研究科 博士後期課程 満期退学

川村短期大学助手、日本大学短期大学部専任講師(~2001年3月)

2005年4月より静岡県立大学食品栄養科学部准教授、

2018年4月より教授。


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