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話題(野菜情報 2018年6月号)


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6次産業化の進展と今後の方向性~求められる地域ブランド化との一体的な推進~

桃山学院大学 経営学部 教授 室屋 有宏

1 はじめに

2010年末に公布された「六次産業化・地産地消法」(以下「六次産業化法」という)を契機に、農業者が生産以外の加工や直売等に取り組み所得向上を図る6次産業化(以下「6次化」)を支援する政策が本格始動して今年で8年目を迎える。この間の次化の進展状況や課題を検討しつつ今後のあり方について、以下で考えてみたい。

2 6次産業化の進展状況~拡大を牽引する直売所ブーム

多くの読者は農業者による加工や直売などの取り組みは以前から多数あり、また6次化という言葉も1990年代には使用されていたことをご存じであろう。従って次産業化法の登場は、こうした従来からの取り組みを農業政策のつの柱として位置けたことに意義があるといえるだろう。

6次化の定義や概念については必ずしも明確な形で確立している訳ではないが、ここでは農林水産省が毎年発表し、政策目標の指標に位置付けられている「6次産業化総合調査」をベースに話を進めたい。

直近2015年度のデータでは、6次化(「農業生産関連事業」)の事業規模は合計で兆9680億円である。事業別(加工、農産物直売所、観光農園、農家民宿、農家レストラン)では、直売所の9974億円と加工8923億円で全体を二分する規模である。一方、観光農園、農家民宿、農家レストランは合計で784億円、シェアで4.0%と規模は小さい(図1)

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実は、こうした数字には「農協等(連合会含む)」の事業が含まれている。農業者の協同組織として今日の6次化に相当する事業を歴史的に担ってきたのは農協であり、現在においても約兆円の6次化の市場規模のうち約兆4000億円、シェアで割強を占めている。特に、農協等が運営する直売所販売金額は8446億円(直売所全体の8割強を占める)と大きい。裏返せば、農家や法人などの農業経営体の6次化規模はまだ小さく、総じて初期的な段階にあるともいえる。

3 農業経営体は6次化に意欲的、一方で地域差も大きい

政府は、「2020年度までに6次化規模を10兆円」とする目標を設定しているが、現状は目標に対しては大きな隔たりがある。ただし2010年度の6次化市場規模と比較すると、2015年度は全体で18.0%増加(注1)しており、一定の進展が認められる。特に直売所の販売額はこの間に22.0%増えており、6次化を牽引する形になっている。

農業経営体に絞ってみて見ると、6次化の市場規模では首都圏を抱え市場機会に恵まれた「関東・東山(注2)」の規模が突出しており、次いで加工販売額が大きい九州が続き、この2地域とその他地域との差は大きい(図)。ただし、この統計値では東京都が農業経営体の加工で全国第位の446億円と記録されており、これは第位の北海道の226億円の倍近い規模になっている。おそらく東京都の数値は、複数拠点を持つ大型法人などの販売額が一括計上されているとみられ、統計は次化の実態を正確に反映されていない面があることは留意を要する。

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農業経営体の2010年度2015年度の変化率では、この間に直売所が43.6%、加工が22.4%増加しており、いずれも農協の増加率を上回っている。地域別では、近畿、四国、九州、沖縄などが直売所の高い伸びもあって総じて高く、全体として「西高東低」の傾向がみられる(図3)。これついては、東日本大震災の影響もあるとみられる。

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農業経営体、農協を問わず、ここ年間の6次化の拡大要因では直売所の高い伸びの寄与が大きかった。これに対しては、直売所の販売額増加がはたして6次化の進展といえるのか、また直売施設の増加に伴う乱立状態の指摘もあり、懸念も残るところである。

注1:2010年度と比較するため、「農家レストラン(農協等)」を除いている。

注2:茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、長野を含む

4 総合化事業計画の現状 

以上、6次化の全体像についてみてきた。もちろん6次化は農業者等が自らの経営判断で実行し特別な許可等は必要ない。一方で、六次産業化法に基づき農業者(農漁協なども可)が「総合化事業計画」を政府(各農政局)に申請し審査・認定を受け、認定された事業には「6次産業化プランナー」による経営指導、制度融資、ハード整備補助金、出資(6次化ファンド)の対象となるメリットがある。総合化事業については、六次産業化法で「農林漁業者などが、農林水産物及び副産物(バイオマス等)の生産及びその加工又は販売を一体的行う事業活動」と規定されている。

2011年から2018年日までに事業計画は、2350件認定されており、高い関心がうかがえる。地域別では、九州、関東、近畿が多くなっている(表1)。また、都道府県別の件数では、第位が北海道142件、次いで兵庫県(110件)、宮崎県(98件)、長野県(95件)、熊本県(84件)の順である。

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総合化事業計画の事業内容では、「加工」と「加工・直売」で割近くのシェアを占める。農家レストラン、農家民宿、観光農園などのサービス業態の取り組みはごく少なく、「総合化事業≒加工」になっている。

事業認定の対象作物では、野菜と果樹の占める割合が大きく、反対に畜産物、米、水産物などの割合が小さい(図)。野菜や果樹は種類や加工形態も多様であり、また規格外品が多く発生することもあり、加工に利活用するのに適した作物といえる。近年では法人化が進む中で経営安定や周年雇用の観点から、野菜・果樹の加工に進出する事例も多い。

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 次化のこれからのあり方

 ~地域ブランド化との一体的取り組みの必要性~

(1)地域性を反映した独自性が必要

統計資料などの制約から外形的な評価にならざるを得ないものの、以上見たように近年の6次化の進展は全国的な直売所ブームと産業化法などの後押しもあって加工品づくりの拡大に多く依存している。しかも、そうした取り組みは一体化した6次産業の展開というよりは、小規模生産者の直売所利用と法人などによる加工など、主体ごとに別々の事業が並進する6次化の姿が浮かび上がってくる。

これまでは政策支援や直売機会の増加によって、間口が広がり6次化にエントリーする農業者を増やす段階であったということもできる。しかし、今後はこうした取り組みが持続的な事業として農業者の経営力や所得の向上、さらに地域活性化に結び付けていくには、従来とは異なる支援・推進の体制が必要な段階を迎えると筆者には思われる。この中で、地域資源の捉え方の見直しや再検討を行い、地域ブランド化と一体的な推進を図っていくことが不可欠であろう

農産加工では、特に野菜を使用した取り組みが多く、最終加工品では漬物、ドレッシング、ジュース、缶詰など従来から似通ったものが各地で多く供給されており、また外部の専門業者も多数存在する。カット、乾燥、ピューレなどの野菜の1次加工品なども競合品が多い。そのため加工品を作ること出来ても、商品としの独自性が乏しいため販路が十分でなく、撤退する事例が過去にも多くあった。

農産物やそれを原料とする加工品は本来的に差別化するのが難しく、また飽和性が高い商品である。人口減少社会の中で、商品の販路を長期的に確保していくには、その地域独自の「地域性」を深く打ち出し、地域ブランド化していくことが重要な戦略であろう。

6次化を規定する六次産業化法は「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」であるが、不思議なことに地域資源は何かという定義は特にされていない。法律本文においても総合化事業が規定するように「農林水産物及び副産物バイオマス等)」の利活用表記されているだけである。

多くの事業が自らの農水産物を利用した単発の加工品づくりにとどまっており、「地域らしさ」に担保された独自性のある商品・サービスは少ないようにみえる。この背景には、法律や農業者の意識を含め、地域資源に対する理解や認識が一面的で十分でないことが大きな要因となっていると考えられる。

(2)地域ブランド化と一体的推進が必要

次産業化法の前文では、6次化は「一次産業としての農林漁業、二次産業としての製造業、三次産業としての小売業等との総合的かつ一体的な推進を図る」ことと定義している。しかし、法律本文では総合化事業による農業者個別の6次化展開がメインとなっている。このように6次化という言葉には地域性を基盤とする「農村の6次化」と個別経営の視点による「農業の6次化」の2つの方向性があり、このつを相互に融合、交響させるような6次化を構築していくことが、今後の6次化のあり方の主たるテーマになってくると考える。こうした関係は、一般企業でいえば企業ブランドと製品ブランドの関係に似ているともいえる。

6次化の方向性としては、まず個別商品として原材料の本来的強みや加工技術の独自性を高めることが第一ステップといえる。これと併せて第二ステップとして、地域そのものが持つ自然、歴史、文化などに根差した「地域らし」を発揮する地域ブランド商品としての確立を目指すことが大切である。こうした地域ブランドの構築には、に農産物やその加工品だけでなく、「場」を共有する商業、観光、ものづくりなど地域産業のブランド化と一体的な連携を図っていくことが有効であろう。

直売所についても小規模農業者の農産物販売拠点としてだけではなく、地域全体のブランド化を創造、発信する拠点として、地域のさまざまな取り組みと広く連携していくべきである。こうした地域ブランド化への一体的推進のプロセスとともに、これまで個別経営による直売や加工など分節化した6次化ではなく、地域ブランドを有する「地域の6次化」へと進化していく可能性が生まれる。

もちろんこうした地域ブランド化は、長い時間と多様な協力関係が不可欠である。6次化の成功事例では、20~30年といった息の長い取り組みが多い。地域の諸産業や行政、商工会、農協など協同組合、住民組織などとの「仲間づくり」をしっかり行うことで、経営資源を持ち寄り、時間をかけたストーリー性のある本格的な6次化を目指す発想が重要であろう。

日本では、モノ消費が飽和しコト消費へのシフトがさまざまな面でみられる。また日本へのインバウンド観光は東京オリンピックもあって、今後も増加基調が予想されている。同時に、ますます多くの外国人が「日本らしさ」や「日本探し」を求めて農村地域を訪問するようになってる。こうした動きを歴史的好機と捉え、地域の人びと自らが「地域らしさ」を見極め、引き出し、伝えていくというプロセスそのものが、人を引き付ける地域ブランドの源泉となる。6次化もこうした動きと一体化したものと捉えていくべきであろう。

室屋 有宏(むろや ありひろ)

【略歴】

1960年富山県生まれ。

1989年東北大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。

同年、農林中央金庫入庫。農林中金総合研究所を経て、

2016年桃山学院大学経営学部准教授、

2017年より現職。

参考文献

(1)室屋有宏(2013)「6次化の現状と課題─地域全体の活性化につながる「地域の6次化」の必要性─」『農林金融』2013年5月号 2~21頁 

(2)室屋有宏(2014)『地域からの六次産業化─つながりが創る食と農の地域保障』創森社 1~223頁


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