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〔特集〕野菜農業における担い手の育成・確保に向けた取り組み(野菜情報 2016年12月号)


最近の農業における担い手育成の特徴

中央大学経済学部 准教授 江川 章


 農業の衰退化のなかで増加する大規模経営体と若手農業労働力

農林業センサスによれば、総農家の減少率は11.2減(2005-2010年)から14.7減(2010-2015年)へ、同年変化で経営耕地面積の減少率は7.1減から8.7減へと高まっている(表1)。こうした担い手ならびに農地資源の減少幅の拡大は農業の衰退的側面を示すものである。



他方、農業の衰退化が進む中でも、構造再編につながるような動きが現れている。点目は大規模経営体の形成である。都府県では10ヘクタール以上の農業経営体は2010-2015年では割増となっており、その農地集積率も20.2(2010年)から27.0(2015年)へと上昇している(表2)点目は青年層の農業労働力が増加していることである。



コーホート変化で見ると、農業就業人口青年層はこれまでの減少傾向から、2010-2015年には増加へ転じている(表3)。また、雇用労働力(農業経営体ベース)も拡大しており、2015年では20万人を超え、2010年比で割増となった。この雇用労働力の主たる受け皿となるのは大規模経営体である。前述した大規模経営体の増加は、雇用労働力の拡大に影響を及ぼしているといえるだろう。



存在感が増す新規就農における外部人材

こうした構造再編に関わる動きのうち、次代を担う青年層の農業労働力の増加は注目すべき点である。新しく農業に就業する新規就農者の動向をみると、新規就農者全体は増加傾向にあり、農家子弟の新規自営農業就農者は2015年で万1020人、2010年比では13.9%増となっている(表)。



一方、農外からの就農者が多い新規雇用就農者は万430人(2010年比では29.7%増)、農外から新しく農業経営を開始する新規参入者は3570人(同106.4増)であり、いずれも新規自営農業就農者より数は少ないものの、その増加率は高い。

このようなすうせいを反映して、近年では新規雇用就農者や新規参入者といった外部人材の存在感が高まっている。特に青年層(39歳以下)の新規就農者では外部人材が増加しており、その割合は2015年には51.0と過半を占めるようになった。

新規就農者における外部人材の比重が高まる中で、その確保・育成は重要な政策課題となっており、外部人材の就農を後押しする農の雇用事業や青年就農給付金などの施策が行われている。しかし、外部から新規就農する場合は経営・生活資源を新規かつ短期間に調達しなければならず、農家子弟と比較して依然として参入障壁が高い状況にある。

 外部人材による新規参入の形態

そこで、外部人材の就農に向けたさまざまな取り組みが必要となる。外部人材が新しく営農を開始する場合、都府県では土地制約があることから、労働集約的な園芸作を選択するケースが多い(注。そのため、就農希望者は労働を多投して単収を高めるような技術を習得し、その上で農地や資本装備に必要な資金を確保しなければならない。他方、受け入れ側には、技術習得を図る研修制度を柱とした総合的な支援体制を構築することが求められる。

このような取り組みの例として、第一に挙げられるのは市町村や農協(JA出資法人を含む)などの就農支援を受けて営農を開始するものである。このタイプは産地を維持するために取り組まれるものであり、新規参入者は就農前には農業研修や農地・資金確保などの支援を受け、就農後では農協共販を活用する場合が多い。いわば、地域農業の担い手を再生産するための取り組みである。

第二に、農業法人などでの雇用就農者を経て、独立就農(新規参入)する取り組みがある。実際のところ、いったん農業法人などの雇用就農者となって、その後に経験値を高めてから独立を考えている者は多く(注、雇用就農者は、雇用期間中に農業法人などの組織力を生かした営農技術や経営管理などを身につけることが可能である。また、独立時には農業法人などの信用力をもとにした経営・生活資源のサポートを受ける場合もある。

この取り組みで近年注目を集めているのは、フランチャイズ型(FC型)による独立就農である(注FC型では農業法人などの経営者と独立した新規参入者との間に何らかの取り決めが存在する。たとえば雇用就農先の農業法人などが加工・業務用の野菜を出荷する際、ロットを確保するために独立就農者が参加すると、生産面での栽培基準の統一化や販売面での共同化などが取り決められる。こうした関係性のもとで経営の方向づけを行い、雇用就農先の販売ルートを活用することは、独立後の経営を安定させるうえで利点があるといえるだろう。

 人材育成の連鎖を生み出す農業法人などの独立就農支援

以上のような就農形態があるものの、いずれにおいても就農希望者は技術習得をはじめとするさまざまな支援を受けることが可能である。このうち雇用就農者を経て独立就農を図る場合は、雇用関係のもとで雇用先の経営者と接することができ、現場の経営感覚に即した営農技術を学ぶことできる。

さらに、重要な点は雇用就農時に農業についての考え方や経営者の経営理念を学べることであろう。その有益性については、雇用就農の経験がある新規参入者が認めている(注。農業についての考え方や経営理念は経営者によって異なるが、外部人材の能力を高めて独立を支援するという経営姿勢は共通している。今後、こうした経営姿勢を受け継ぎ、次の人材育成を担う独立就農者が増える可能性がある。新規雇用就農者を経て独立就農を行う形態は、人材育成に取り組む経営者を輩出するという点で評価すべきだと考える。人材育成の連鎖を生み出すという観点から、農業法人などの独立就農支援を注目していきたい。

注1:全国農業会議所・全国新規就農相談センター「新規就農者の就農実態に関する調査結果」2014年によれば、都府県における新規参入者の主な経営作目では、園芸作(露地野菜・施設野菜・果樹)が7割を占める。

注2:注1の調査結果によれば、新規参入者のうち農業法人などでの就業経験がある者は2割であり、そのうち8割を超える者が独立のためのノウハウ獲得を考えていたと回答している。

注3:FC型農業の展開については、門間敏幸編著『日本の新しい農業経営の展望―ネットワーク型農業経営組織の評価』農林統計出版(2009年)を参照。また、FC型の就農支援の取り組みについては澤田守「フランチャイズ型農業における新規参入の特徴と課題」日本農業経済学会『2011年度日本農業経済学会論文集』を参照。

注4:注1の調査結果によれば、農業法人での就業経験がある新規参入者のうち、有益な経験として「農業についての考え方・理念」を挙げた者は「栽培・飼養・加工技術の習得」に次いで多い。


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