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話題(野菜情報 2016年9月号)


地域に根ざした実践に取り組む農業高校

東京都立園芸高等学校 統括校長 德田 安伸
(全国農業高等学校長協会 理事長)


 農業高校の現状

現在、全国には367校の農業関係高校があり、万3000人の生徒が広く農業を学んでいる。昭和40年代には700校、20万人近くの生徒が学んでいたが、少子化や学科転換などもあり、現在ではピーク時の半数以下に減少した。しかしながら、全国の農業関係高校は、地元に根を張り地場の伝統野菜の復活に取り組むなど、どこも元気で地域の活力の源となっている。最近では、総合学科などに改編したものを再度農業科に戻すといった動きも出てきており、地方創成の時代にあって、農業高校が再認識されてきている。

農業高校には、農業科、園芸科、畜産科、食品製造科、林業科、農業土木科、造園科、生活科などの学科があり、学年の進行とともに、それぞれの学科に沿った専門性の高い学習へと進んでいく。しかし、どの学科の生徒も入学当初の年次には「農業と環境」という科目で、基本的な作物や家畜について学ぶ。教科書には稲、とうもろこし、だいず、すいか、トマト、はくさい、だいこん、ばれいしょ、にわとりなどが示されているが、実際には各学科の教育目標に応じて作目を選択して栽培や飼育をしている。

また、農業教育の特徴ともいえるプロジェクト学習(注1)にも、年次から取り組んでいる。

注1:自分の目標を明確にして課題を能動的に解決していく学習方法。計画(Plan)→試行(Do)→確認(Check)→実践(Action)の4段階を踏み、試行を繰り返してらせん状に向上し、課題の解決に向かう。

 都立園芸高校での実践

私の勤務する都立園芸高校は、明治41年の創立で108年の歴史を持ち、園芸科、食品科、動物科と定時制園芸科のつの学科を有する都市部の農業高校である。東京の世田谷区深沢という閑静な住宅街の中に万平方メートル(東京ドーム2.3個分)の広い校地とうっそうとした森があり、周辺の公示価格は平方メートルで75万円以上となっている。そのような土地柄のため、学校の周辺には有名人のお屋敷が多く、学校外周に設置した遊歩道では愛犬を散歩させる芸能人や国会議員と出会い、あいさつすることも珍しくない。

現在、家が生産農家の生徒はいないが、田舎の祖父母が農家だという生徒の話は多く聞く。また、保護者が造園業や生花店、食品業や流通業、和菓子店、レストランなどの仕事をしているという生徒は多い。農業は総合産業であることから、都市部においてはこのような関連産業を通して農業を支えているということができるであろう。

学校の野菜ほ場では、夏はトマト、なす、きゅうりなどの果菜類やスイートコーン、秋から冬にかけてははくさい、さといも、だいこんなどを栽培している(写真)。園芸科の年生は、きゅうり、はくさいなどの栽培を通して、野菜の種類による種の違い、は種の仕方などを学ぶ。農業は未経験の生徒が多いので、くわやスコップの使い方から学習は始まる。

年生になると、大量生産や販売を意識した栽培を目指し、購買意欲を高める栽培手法を学ぶ。例えば、ガラス温室で栽培したトマトを加工会社でトマトキムチに加工し、東京日本橋の大手デパートとコラボして御中元カタログに載せ「夏キムチ」として全国に販売した(写真2~4)。年生では、選択授業として伝統野菜を学ぶ。世田谷区には「大蔵だいこん」という伝統野菜がわずかながら栽培されており、地元の農業高校としてこれを継承していくことは重要な使命と捉えている(写真5)。秋になると東京世田谷の大手デパートと連携し、大蔵だいこんを総菜に加工して販売している。販売実習の一環として、生徒がイベントに参加して販売も行う。自分たちが育てた野菜が多くの人たちの目に触れ、励ましや評価を受けるという体験が、生徒にとって大きな自信とやりがいにつながっている。











さらに、農業専門の部活動として「野菜部」がある。野菜部には園芸科以外の生徒も加入しており、きゅうり、かぶ、ほうれんそうのほかに、白いなすや紫色のトマトなど珍しい野菜も栽培している。部員同士で栽培する品目を決め、試行錯誤しながら栽培に取り組む。育てた野菜は校内販売所を中心に販売しているが、野菜の特徴や調理方法についてチラシを作成するなど、販売面での工夫も凝らす。また「江戸東京野菜プロジェクト」という生徒を中心とした有志団体も活動している。衰退しつつあった東京の伝統野菜を再び活性化させる活動である。年や年で結果が出るようなものではないが、目標に向けて、日々栽培方法を工夫している。

以上、都立園芸高校での実践を紹介したが、東京の農業高校は他道府県に比べると栽培用地が狭く、生徒人当たりの実習面積も広くとれないのが現状である。しかし、そのような条件下でも、生徒は巨大都市に学校があることをメリットと捉え、企業との連携などに工夫を凝らしながら学習意欲を向上させている。

全国の農業高校は、少数ながらも地域の中のユニークな存在として注目されている。平成27年度には、アグリマイスター顕彰制度(注もスタートした。農業高校生の活躍に、ぜひエールを送っていただきたい。

注2:全国の農業系高校生の学ぶ意欲を応援する制度。日ごろの農業学習や資格取得の成果をポイント化して評価し、大学進学や就職での指標となるよう目指している。プラチナ、ゴールド、シルバーの3段階に分かれ、平成27年度は全国の農高生の1%に当たる673名が顕彰された。


德田 安伸(とくだ やすのぶ)


【略歴】
昭和32年生、熊本県出身(59歳)。熊本高、筑波大学(農林学類)卒、専門は応用微生物学(発酵)。三宅高を皮切りに、園芸高、農産高勤務(教諭)、農芸高、竹台高で副校長、農産高で校長(3年)、稔ヶ丘高(4年)、園芸高(4年)で統括校長(校長~統括校長歴11年目)。
平成25 ~ 26年 日本学校農業クラブ連盟(FFJ)代表。
平成27年~ 全国農業高等学校長協会理事長。
現在に至る。




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