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話題(野菜情報 2016年7月号)


福岡市中央卸売市場の新しい青果市場
「ベジフルスタジアム」の開場と今後の方向性

福岡市農林水産局 中央卸売市場 ブランド推進課長 楢﨑 美徳


 福岡市中央卸売市場青果市場・ベジフルスタジアムの開場

平成28年月12日、福岡市中央卸売市場青果市場・ベジフルスタジアム(以下「新青果市場」という)が、旧青果部の青果、西部および東部の市場の統合と移転を決定してから、約年の歳月をかけて完成し、業務を開始した。

福岡市の旧青果部市場が抱える課題が、まさに全国における青果市場の縮図であったと考える。小規模市場であった東西市場は人モノが集まらず著しい機能低下、反面大規模市場であった旧青果市場には人とモノが集中し、狭さと新たな物流へ対応すべき機能不足に悩まされ「厳しい経済状況下ではあるが何とかしたい」との業界全体の切なる思いが、新青果市場の誕生となった(写真)。


卸売市場はそもそもモノ不足の状況下で最大の機能を発揮する仕組みであり近年のモノ余りや流通の多様化時代を迎え、おのずとその機能や形を変化せざるを得なくなった。

国がおおむね年ごとに策定する卸売市場整備基本方針に卸売市場の将来あるべき姿が示されているが、いかに地域の実情に合わせた新しい卸売市場作りにいち早く着手するかがキーポイントであった。

福岡市が特に重要な課題としたのは①広域流通となった現在、分散する市場機能・経営資源の一元化への対応、②大型量販店を中心とした大量物流への対応、③減少したとはいえまだまだ全国の中でも元気のある青果小売店を中心とした地域密着型取引への対応、④市場で途切れるコールドチェーンへの対応、の点である。また、消費の求める安全・安心にいかに応えるか、大都市圏とアジアへ近いという立地優位をいかに生かすか、などの課題および事業手法のPFI(注)化を中心に議論が進められ、約年間をかけて新青果市場の骨格が決まった。

注:Private Finance Initiativeの略。公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に、従来のように公共が直接施設を整備せずに民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供を委ねる手法。

 新青果市場の配置

(1)卸売場西棟

新青果市場では、まず効率的な物流を第一に施設と業者の配置を行った。卸売場西棟では大量取引を前提に、店舗面積の大きな仲卸業者を配置すると共に中央部には幅20メートル長さ220メートルの入荷用通路を設けたことにより、10トントラック20台が同時に荷降ろしを行うことができる。この通路は、セリ販売終了後は搬出用大型トラックの共用積込所として活用している。

入荷用通路に並行して卸売場を整備しており、片側約5000平方メートル両側で万平方メートルの卸売場は密封式の定温卸売場となっている。卸売場は22の部屋に分かれ、うち2部屋は度、20部屋は15度に温度設定を行い商品に合わせた温度管理、品質管理が可能となった。この定温卸売場の整備と冷蔵庫の機能強化により従来、卸売市場で途切れていたコールドチェーンがつながったことになる。

さらにこの定温卸売場に並行して仲卸売場と積込所を配置することによって、入荷から卸売場、仲卸売場、積込所が最短距離で結ばれ最も効率的かつ品質低下を招かない物流を実現している。

また、市場内物流の中心となる仲卸業者は、現在では営業形態が、従来の小売業者に店舗で販売する、大型量販店への納入専門、他市場への転送あるいは業務用の納入専門業者と多様化しており、新青果市場では卸売場の機能分けに合わせ、店舗面積が異なる仲卸業者の区分配置を行っている。

(2)卸売場東棟

卸売場東棟は小売業者に必要な機能である、セリを行う卸売場、積込所、小口冷蔵庫および店舗売りを中心とした仲卸業者を配置することで、同一施設内での買い出しが出来るよう配置し、小売業者の活性化が市場の活気を醸成できるものと期待している。

(3)青果市場会館棟

関連商品売場と市場関係者の事務所を集約した青果市場会館棟では、地中熱を利用した「クールチューブ」と風圧で自動換気するシステム「スインドウ」を併用することで環境への配慮とランニングコスト低減を図っている。また、市場開放などのイベント実施できるよう、建物内外に多目的に活用できる広場を設けている。

 新青果市場のブランド化

最後に新青果市場のブランド化について触れる。平成24年に市場内外の関係者により策定された「福岡市青果市場経営展望」に基づき、新青果市場では生産者、消費者から選ばれる市場を目指しブランド化を進めている。

一つ目は、安全・安心を確保するために市場内にある食品衛生検査所の機能を強化するもので、残留農薬検査において、市場に出荷される前のほ場段階での検査をより充実し、コールドチェーンによる品質管理と流通前の段階での残留農薬検査と併せて、一層の安全性を確保し「安全・安心」を新青果市場のブランドにつなげることを考えている。

二つ目は、輸出への取り組みである。中央卸売市場は、そもそも供給圏への安定供給を前提としているので、輸出は想定外・規定外であったが、本年月には、国からも市場の輸出に対する法的な裏付けをいただいたこともあり、昨年より進めてきた市場の立地を生かした青果物のアジア輸出に対し、新青果市場開場を契機に本格的に取り組んで行くこととしている。

輸出を安定的かつ数量を伸ばして行こうとすると、しっかりとした相手と、しかも富裕層に加え量的に増加が見込める中間層へ販路を広げていく必要がある。

長年、卸売業者において培ってきた対アジア向け戦略、空輸にそん色ない船舶CAコンテナによる鮮度保持技術開発、関係機関の協力によるアジアマーケットの開拓、法律による裏付け、コールドチェーンによる品質確保と残留農薬検査の充実による安全・安心の確保、アジアに最も近い立地特性、これらの市場が持つ機能と産地で培われた商品・産地ブランドを合わせ、移り変わる産地商品を安定的にアジアに売り込む、この点に当卸売市場が輸出に取り組む意義と優位性があると考えており、九州内各産地のブランド商品と提携して輸出量を伸ばせるよう、新青果市場も九州をイメージできるロゴを採用している(図)。

なお、新青果市場のキャッチフレーズは、「ベジフルスタジアムは全国に先駆けてリニューアルしました。福岡市青果市場のブランド化を進め、生産者と消費者から選ばれる市場づくりを目指します」である。



楢﨑 美徳(ならざき よしのり)

【略歴】
福岡市役所に在籍中30年間を中央卸売市場に勤務。鮮魚市場の再整備、食肉市場の移転整備担当を経て市場課長、新青果市場整備担当部長、本年3月末定年退職後、これまでの経験により青果市場ブランド化推進担当課長として再任




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