デザイナーフーズ株式会社 取締役 管理栄養士 市野 真理子
日本は急激な勢いで人口の高齢化が進んでおり、平成26年10月現在、65歳以上の高齢者人口は3300万人、高齢化率は26%に達しています。平均寿命も平成25年現在、男性は80.21年、女性は86.61年となり、内閣府のデータによれば、72年(2060年)には、女性の平均寿命は90年を超えると試算しています。そこで問題となるのが、健康で長生きをしているのか否か、すなわち健康寿命の延伸が伴っている事が重要となります。健康寿命の延伸は毎日の生活習慣、特に食生活に大きく左右されます。メタボリックシンドロームをはじめとした生活習慣病、若い女性の痩せ、アレルギー性疾患、精神性疾患など、さまざまな問題が食と大きく関係しています。
一方市場では、特定保健用食品、栄養機能食品に加え、昨年4月より機能性食品表示の制度がスタートしました。一年が経過した3月31日現在、275件のサプリメントと食品が受理されました。今回は加工食品をはじめ、生鮮食品にも表示の幅が広がり、さまざまな業界からも注目が集まるところとなりました。しかし受理された275件のうち、生鮮食品は3件にとどまっています。
生鮮食品の届け出そのものが少ない理由はいくつか考えられます。まず1点目として農産物である以上、品種、栽培方法、産地、収穫時期など、さまざまな要因により、バラつきが想定されます。農産物は、工業製品のようにいつも同じ規格で作られる事はありません。機能成分が必ずしも一定量が含まれているかどうかの判断が難しいのも事実です。2点目として人の治験が必要であることも要因として挙げられます。過去の経験の中で人が食してきた農産物に対して、健康な人を対象とした治験データをそろえることが難しい現状もあります。そして3点目の問題として一成分だけで野菜の本当の機能性を表すことができないのではないか考えております。弊社で一成分が高い野菜を分析したところ、糖度やビタミンC、活性酸素消去活性などは、慣行品よりも値が低いという結果もでてきております。また栽培方法による成分分析も必ずしも有機栽培や無農薬で栽培された野菜の方が高い値がでるとも限りません。
そこで、野菜の栄養と機能性は総合力で判断をすべきではないかと考え、野菜のチカラ(注)を数値化して見える化することを目指し、過去18年間にわたり、野菜の分析を行いデータベースを構築してきました(図1)。これらのデータベースをもとに、量販店で販売されている野菜を分析しながら店頭表示における実証試験にも取り組んでおります。店頭において、実際にアンケート調査を行った結果、農産物の「野菜のチカラ」のPOP(店頭広告)があれば、そちらを購入したいと答えた消費者は8割にもおよび、農産物と健康の関連性について消費者の中での認知はあると思われます。価格について1~2割まで高くとも、野菜のチカラがある方を購入すると答えております。野菜のチカラを表示したら1割ほど高く購入するという仮説が成り立ちます。しかし1年近く実証試験を繰り返してきた中で感じた事は、表示をしているだけでは、販売量が増えるということは難しいことです。
野菜のチカラのある商品を通常品よりも1割高値をつけて販売をした場合、試食を行いながら、「おいしい」を実感していただくと、売れ行きが大きく変わってきます。そこには「味」が伴うこと、つまりおいしいというキーワードが必要となります。弊社が毎日分析を繰り返していると、野菜のチカラの高い商品は、官能テストでもおいしいと答える人が多く、正の比例関係になっている事も分かってきています。つまりおいしくて健康に良いという事が認識されれば、市場としてのニーズは必ずあると信じております。
また、流通される農産物には規格があります。流通におけるチェーンストアー理論から申せば、いつでもどこでも同じ商品が購入できるために、商品の標準化、単純化が要求されます。当然規格外の農産物は市場には流通されにくく、従って通常の価格の5分の1に近い値で取引されてしまいます。しかし野菜のチカラで判断をすると、規格外であってもチカラの高い野菜がたくさんあります。そこで、野菜のチカラを表現することで、規格をそろえず販売テストを行いました。SMLサイズの規格品も、曲がりなどの形がいびつになったものも、全て同じ野菜と捉え、お客様に選んで購入していただくと同時に、試食も一緒に提供をしました。すると、消費者は「おいしくて体に良い」ということから、特に同じサイズや見た目がきれいなものばかり選ぶということはなく購入をしていきます。つまり外観よりも中身重視で購入をしていきました。
さらに、店頭の売り場を作るに当たり、我々が取り組んでいる農産物の中身評価と併せて、野菜の色を食べるという、目で見て健康を感じて購入動機につなげる事も重要であると思います。カップ野菜、加熱野菜など、切り方と色の見せ方で、今までと同じ食材でも健康感が大きく異なってきます。そして忘れてはならないのは、旬の時期に食べるということ、旬の時には野菜のチカラも高くなるというのが弊社のデータより分かっています(図2)。
野菜は、薬ではなく食品である以上、栄養を摂るだけではなく、食べる楽しみ、食卓を囲む楽しみも重要な要素です。食べ物を「モノ」として取り扱うのではなく「命の源」として、改めて考えていきたいものです。
注:野菜の中身を評価する指標として抗酸化力(活性酸素消去活性)、ビタミンC、糖度、硝酸イオンの4項目を数値化したもの。
【略歴】
椙山女学園大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒 デザイナーフーズ株式会社 取締役 管理栄養士 現在、デザイナーフーズ㈱にて食品メーカー、外食、 コンビニエンス、スーパーなどに対してセミナー、 講演、商品企画開発、情報提供、栄養カウンセリン グ、衛生管理などのアドバイスを行う。