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話題(野菜情報 2016年4月号)


日本の野菜を世界の食卓へ!

日本青果物輸出促進協議会 理事 久保 忠博
(東京青果株式会社 経営戦略室長)

<日本の青果物輸出の概況>

本年2月2日、農林水産省は2015年の農林水産物の輸出実績を取りまとめた。輸出額は、過去最高だった前年の6117億円から21.8%増加し、2016年の中間目標7000億円を上回る7452億円となり、政府が目標とする2020年の1兆円の前倒し達成が現実味を帯びてきた(表1)。農林水産物の種類別輸出額の増加率が44.0%(350億円)と最も高かった青果物について、主な品目別の輸出状況をまとめたものが表2である。



足元の輸出額の増加率では、果実が野菜を上回っており、2015年の青果物の輸出額における7割近くが果実となっている。また、現状の日本の青果物輸出は、品目や輸出先に偏りが大きい。輸出額では、果実の7割近くを台湾向け中心のりんごが占め、野菜の5割近くをながいもなどが占めている。また、輸出先別の金額をみると、1位の台湾だけで5割以上を、2位の香港を含めた2地域で8割以上を占めている。

台湾向けのりんごの輸出は、青森県の生産者による何十年にもわたる取り組みが、台湾、米国向けのながいもの輸出は、北海道十勝地方の生産者による十数年にわたる取り組みが、それぞれ結実したものである。両産地に共通して言えることは、それぞれの品目における国内シェアが高く、輸出による国内需給の改善が市場価格の安定につながりやすいため、産地一丸となっての輸出に対する取り組みができていることである。その意味では、大半の青果物、特に産地が全国に分散している野菜では、現状では輸出拡大の取り組みはあまり行われておらず、日本の青果物輸出に関しては、輸出品目および輸出先の拡大において、まだまだ課題が多いと言えよう。

<今後の青果物輸出拡大に向けたポイント>

①日本食ブームを追い風にした野菜の輸出拡大

一口に青果物の輸出拡大と言っても、野菜と果実では取り組み方が違ってくる。

わが国の果実生産では、ほとんどの品目で年間の販売時期が決まっており、有名ブランド産地同士の競争意識が高い。また、しこう品、デザートとして生で食されるため、生産・流通段階においては品質管理が重要視される。輸出では、中華圏における春節と中秋節が需要期のピークだが、主力の台湾、香港では、日本産果実同士の品目間競争や価格競争が始まっており、今後の果実の輸出拡大のためには、富裕層が増加している東南アジアや、日本産果実がまだそれほど輸出されていない欧米、豪州、中東アラブ諸国などに対して、「日本産」果実を積極的に売り込んでいく必要がある。

一方、野菜の生産では、年間を通じた品目ごとの産地リレーが行われており、家庭菜園や直販市場などを通じた近郊エリア内の流通も多いため、流通市場を通じた産地間の連携は比較的できている。輸出では、薬膳需要向けのながいも、手軽に食べられるかんしょ以外は輸出実績は少なく、野菜の特性から、卸売市場を拠点とした輸出推進の体制が必要と考える。

昨年農林水産省が、外務省の協力の下、海外の日本食レストラン数の調査を実施したところ、昨年7月時点で約8万9000店と前回調査(2013年1月時点)の約1.6倍に拡大、中でもアジアにおいては過半数の4万5000店に達していることが分かった。このような世界的な日本食の人気を、輸出拡大やわが国農林水産業の成長産業化につなげていくため、農林水産省は、「日本食・食文化の普及検討委員会」を設置し、海外日本食レストランの品質向上や、日本産農林水産物の輸出拡大に向けた海外日本食レストランとの連携強化・ネットワーク化に取り組むことにした。また、昨年開催されたミラノ万博では、日本館における日本食レストランの人気は群を抜いており、最後まで長蛇の列が途切れることがなかった。表2の下段に外食産業との関係が強いと思われる3品目を挙げたが、特に米(援助米を除く)は青果物以上の増加率となっており、日本食レストラン数の増加も一因と推察される。

野菜は副菜として主に加熱調理されて食されるため、輸出拡大のためには、海外の日本食レストランに対する食材としての売り込み提案や、スーパーの店頭で商品と一緒においしい食べ方や調理方法を提案するなどして、現地の日本人駐在員家庭だけでなく、現地の富裕層、中間層家庭で日常的に使用されることが必要である。大田市場のある仲卸は、かんしょと一緒に焼き芋機も輸出しているが、現地で日本産野菜を使ったレシピを普及させていくことが重要ではないだろうか。

また、野菜は果実に比べると総じて単価が安いため、航空貨物に比べて安く輸送できる船便の冷蔵コンテナ(香港や台湾で10分の1、シンガポールで15分の1程度といわれる)の利用が望ましい。そのためには1~2週間の輸送に耐えられる鮮度保持技術の確立、積載効率を高めるための販売ロットが必要となる。

②オールジャパンでの取り組み

りんごとながいもの先進事例に照らして、他の品目でも輸出拡大を図るためには、少なくとも日本全体を一つの産地と捉えた取り組み、すなわち産地間連携が必要である。また、青果物輸出に共通する課題としては、関税および非関税障壁(検疫、残留農薬検査、放射性物質検査など)のハードルを下げることに加えて、品質管理を伴う効率的な輸送手段や輸出に適した包装資材の開発などがある。

このような課題を踏まえ、オールジャパンでの青果物輸出拡大に取り組むため、昨年5月28日、青果物における全国組織の輸出団体として「日本青果物輸出促進協議会」(以下「協議会」という)が設立された。昨年7月から募集を始めた会員数は、本年1月18日現在で27社(団体)となっている。

協議会の具体的な活動としては、検討会、講習会、セミナーの開催や、農林水産省の輸出促進関係事業のとりまとめなどを行っており、会員は青果物輸出に関する最新情報を幅広く収集することができる。

品目が多岐にわたり、産地間の連携が取りにくいといわれる青果物において、協議会の活動がオールジャパンでの輸出促進の取り組みにつながり、また、海外での日本食ブームの追い風を確実に捉えることにより、野菜の輸出が飛躍的に拡大すれば、2020年に250億円を目標とするわが国の青果物輸出額は、1000億円レベルが視界に入ってきても不思議ではない。


プロフィール
久保 忠博(くぼ ただひろ)

【略歴】
三重県出身。
東京大学経済学部卒。
1984年4月野村證券㈱入社、2013年2月から東京青果㈱経営戦略室室長。
日本青果物輸出促進協議会理事。
東京都生鮮物輸出協議会調査員。



(参考)日本青果物輸出促進協議会 会員募集要領と当面の活動主眼

<会員募集要領>

 日本青果物輸出促進協議会は、国産青果物及びその加工品(以下「国産青果物等」という)の輸出促進に必要な事業、国産青果物等の輸出に係る情報の収集・提供等を通じて、国産青果物等の輸出を促進することを目的として2015年5月28日に設立された。

 協議会は、この目的を達成するため、次の事業を行う。

 (1)海外での国産青果物等のPR

 (2)展示会・セミナー等の実施

 (3)海外マーケティング調査

 (4)産地間連携及び輸出環境整備等に関する検討会の開催

 (5)国産青果物等の輸出事業者による輸出活動等の支援

 (6)その他協議会の目的を達成するために必要な事業

 オールジャパンでの取り組みを進めていくため、協議会の目的に賛同する団体等を募集する。募集要領は次のとおり。(募集は随時行っている。)

 1 協議会の目的に賛同する団体等であること

 2 別紙の入会申し込みを協議会事務局に郵送すること

 3 理事会での承認後、入会金1万円、年会費6万円を納入すること

<当面の活動主眼>

○オールジャパンの活動と品目・産地連携のあり方

 ・従来の地域事業体の活動のオールジャパン活動への進化

 ・協議会の活動(検討会、セミナー等)を通じた会員の拡大

 ・地域特産青果物の輸出促進のための協議会との連携

○輸出環境課題への対応(台湾等向け残留農薬対策)

 ・問題事例についての情報のフィードバック

  (協議会のHPを通じた情報提供、会員の参加する検討会での説明)

○長期輸送向けの品質保持技術の開発(実証試験の実施)

 ・包装資材やリーファーコンテナーを活用し、シンガポール等の東南アジア向けのりんご、なし、柑橘類等についての輸送試験



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