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話題(野菜情報 2016年2月号)


地理的表示保護制度の認定第一弾!

東京理科大学 専門職大学院
教授 生越 由美

<第一弾の認定>

  平成27年12月22日、農林水産省は「夕張メロン」「江戸崎かぼちゃ」など7つの特産品を「地理的表示保護制度」で保護すると発表した(表1)。

 この地理的表示保護制度は「地域ブランド」を保護する制度の一つであり、フランスなどの欧州連合(EU)では100年近くの歴史があるが、日本では27年6月に創設されたばかりの新制度である。

 この新制度の審査結果の第一弾が発表されたが、現在、「市田柿」「砂丘らっきょう」「出雲の菜種油」などが審査されている。

<日本の地理的表示保護制度とは>

 生産地や品質などの基準を有する農林水産物・加工品を、地理的表示(地名など)の地域ブランドとして日本政府が保護する制度である。日本では、25年以上の生産の歴史があり、地域との密接な関連性(特定農林水産物等の特性)などがあることが要件とされている。

 審査を経た後、9万円の登録料を支払えば半永久的に「日本の地理的表示のマーク(GIマーク)」(図1)の使用が認められる。使用を認められた生産者団体は品質保証の責務を課される。しかし日本政府によって保護されるメリットは極めて大きい。

 代表的なメリットは二つある。一つ目は、偽装品などが出た場合には農林水産省に通報すれば取り締まってもらえることである。「地域団体商標(注1)」などの商標権であれば、生産者団体が弁護士を雇って裁判を起こす必要があるが、通報だけで済むので大変楽である。

 二つ目は消費者がこのマークを見ると、付加価値の高い農林水産物・加工品と認識できるため、高い価格で市場取引される可能性があることだ。これは、国内市場でも海外市場でも期待できる。日本よりも早く制度を導入しているEUの事例をみると、「EUの地理的表示のマーク(GIマーク)」(図2)が付与されている「ブレス鶏」は他の鶏肉の3倍の価格で取引されている。イタリアのパルマハム(プロシュットディパルマ)は日本で100グラム2000円以上の高価格で販売されている。

 日本も、日本のGIマークを国内外で周知することが必要である。

注1:地域ブランドの育成のため、地域名と商品名からなる商標を登録する制度。平成18年に施行され、地域ブランド化の取り組みとして高い関心を集め、27年11月現在、登録数は586件となっている。

<世界の地理的表示保護制度>

 地理的表示保護制度は世界の潮流である。世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)で「地理的表示」の保護が規定されている。WTO加盟国は150カ国以上にのぼる。

 地理的表示保護制度の歴史はフランスの「アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ(ADC)」にさかのぼる。ワイン、チーズ、バターなどの農産品の地理的表示を保護するための国内制度であったが、EUが平成4年に原産地名称保護制度を制定して域内での地理的表示の保護を図った。地名ブランドの保護だけでなく、品質保証を目指す制度である。

 その後、EUだけでなくタイ、インド、韓国、中国でも地理的表示保護制度が導入され、米国では「証明商標制度」(注2)が導入された。日本では平成18年から地域団体商標制度が導入されたが、品質保証が課題とされていた。

注2:証明商標の所有者が定めた一定基準(例えば素材、製造方法や品質)に適合する商品又はサービスを識別するために使用される商標。この基準に適合する商品またはサービスには誰でもこの商標を使用することができる。

<これからは輸出も視野に>

 平成27年10月に大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)では加盟国同士が地理的表示を互いに守る規定が設けられている。農林水産省は、今年の通常国会に地理的表示法の改正案を提出して外国と互いに保護し合う仕組みを構築する。例えば、日本は夕張メロン、米国は証明商標制度で保護されている「アイダホポテト」を互いに保護したいと考えているという。EUとは地理的表示保護のリストを交換して保護していく方向という。

 これからは日本の野菜も輸出を視野に入れてビジネスモデルを構築する必要がある。九州の面積しかないオランダは米国を抜いて世界で一番、農林水産物の純輸出額(輸出額-輸入額)が多い国である。日本の野菜が輸出産業となる可能性が高いことにぜひとも注目して欲しい。


プロフィール
生越 由美(おごせ ゆみ)

【略歴】
大阪府出身。東京理科大学薬学部卒。平成4年経済産業省特許庁入庁。政策研究大学院大学を経て、平成17年から東京理科大学専門職大学院教授。著書に「社会と知的財産」、「デジタル時代の知的資産マネジメント」など。




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