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話題(野菜情報 2015年12月号)


新規就農と農業大学校

農林水産省 経営局 就農・女性課 経営専門官(農業教育グループ)
羽子田 知子

1 はじめに

 今、農業の分野では、民間企業や他産業の経験を有する方の農業参入が進み、6次産業化、経営の大規模化、IT化など新しい経営を展開するチャンスが広がっている。地域には、創意工夫を重ね、大きな所得を上げている若い農業経営者が数多くあり、また、豊かな地域資源を生かした独自の取り組みを行う農村も生まれつつある。

 世界に目を転じると、日本の農産物は質が高いという評価を得ており、日本食の文化も世界中に広がっている。

 このような明るい兆しを確実に捉え、農業の成長産業化を図るため、農林水産省では、チャレンジ精神のある農業者が自由な発想で活躍できる生産現場づくりや農地の担い手への集積、輸出の促進などの施策を実行しているところである。

 一方、わが国の基幹的農業従事者は、65歳以上が6割、 40代以下が1割(40歳未満は5%)と著しくアンバランスな状況になっている。持続可能な力強い農業を実現していくためには、農業の内外からの新規就農を促進し、世代間バランスの取れた農業構造にしていくことが重要である。農林水産省では、平成25年には推計で31万1000人とみられる40代以下の農業従事者数を、10年後に40万人に拡大することを目標に青年層の新規就農を促進するための支援策を総合的に講じている。

2 新規就農の状況

 新規就農者の動向を見ると、平成27年9月に公表された「平成26年新規就農者調査」の結果では、新規就農者数は、22年以降年間5万人台で推移しているが、26年の新規就農者のうち、30代以下は1万5300人、40代以下は2万1860人となっており、年齢別の詳細な調査を実施した19年以降で最も多くなっている。就農形態としては、農家出身者が自営の農業に入る新規自営就農が大半であるが、非農家出身者が自ら資金や農地を調達して、新たに農業経営を開始する新規参入者が増加傾向にある(図1)。

 景気や雇用環境が回復基調であり、他産業への就業機会が増加する中で、青年就農給付金や農の雇用事業などの新規就農支援策が呼び水となり、地方自治体独自の施策の充実が図られたことなどにより、新規就農者の増加が見られたと考えられる。

 また、新規参入者の経営類型は、野菜、果樹、花きなどの園芸作物が8割、土地利用型作物(稲作・畑作)は1割程度となっている。中でも野菜は67%と、新規参入者にとって最も取り組みやすく、重要な作目であることがわかる(図2)。

3 道府県農業大学校の動き

(1)農業大学校の設置状況

 農業大学校は、地域の中核的な農業教育機関として、現在、42道府県が設置・運営しており、各農業大学校には、

①養成課程:高校卒業者程度を対象に2年間(一部には1年間)の教育を実施

②研究課程:養成課程修了者程度を対象に、高度な技術力、経営力を養成(1~2年間、15校のみに設置)

③研修課程:農業者のスキルアップのための研修や、社会人などの就農希望者に対する実践研修を実施

が置かれている。また、各農業大学校で設置する課程およびカリキュラムは、それぞれの地域の農業事情などを考慮して各道府県で定めているが、前述の通り新規就農において野菜は欠かせない作目であることから、すべての農業大学校で野菜(園芸)を学べるようになっている。

 農業大学校の養成課程卒業者について見ると、ここ数年の就農率は5割程度で推移していたが、平成26年度には約6割(速報値)と伸びが見られる。非農家出身者が学生の過半であることから、雇用就農者の増加が顕著となっている。

(2)農業大学校における新たなコース設置などの動向

 これからの農業者は生産技術はもとより、優れた経営力を身につけることが必要である。また、雇用就農への対応や6次産業化の進展に対応できる人材育成が必要であることから、農業大学校においても、これらに対応したカリキュラムの導入が進んでいる。

 具体的な例をいくつかご紹介すると、経営力を備えた農業者の育成のため、長野県農業大学校では企業的農業経営者を育てる「実践経営者コース」を新設(平成26年度)、かながわ農業アカデミーでは研究課程に「独立就農チャレンジコース」を新設(平成27年度)している。また、山口県農業大学校では研修課程に「法人就業コース」を新設(平成27年度)するなど、雇用就農に対応したコースが設定されている。

 また、多くの大学校で、模擬経営の手法(それぞれの学生が一定の区画を管理し、生産から販売までの一連の過程を計画、実践する手法)を取り入れるようになっている。

 さらに、奈良県農業大学校は、平成28年度から、シェフを養成する「フードクリエイティブ学科」と、農業経営センスの優れた農業者を育成する「アグリマネジメント学科」を擁する「なら食と農の魅力創造国際大学校」となる。両科が連携することにより、高度な農業技術を持ち、かつ川下のニーズを見極める力などを身につけ、6次産業化にも取り組める農業経営者が実践的に育成されるものと期待される。

 農林水産省では、農業大学校が新たな教育カリキュラムを導入する場合に対する支援を行うとともに、就農希望者が農業大学校で学ぶ際に、年間150万円を2年間給付する青年就農給付金(準備型)による支援を行っている。

4 最後に

 新規就農者の就農ルートは多様である。全国の農業大学校で学ぶ方のほか、先進農家や農業法人での研修を受けて就農する者も多くいる。農業大学校は教育施設や人材を生かし、例えば、先進農家などと連携した効果的・効率的な研修体制を組んだり、就農者希望者を支えるネットワークを作るなど、地域の農業教育の拠点として、その機能を益々充実・発揮していくことが求められている。今後も農業大学校にご注目いただければと思う。


プロフィール
羽子田 知子(はねだ ともこ)

【略歴】
農林水産省 経営局 農業教育グループ担当経営専門官
平成5年 農林水産省入省
食品の品質・表示制度、農村振興、普及事業等に関する業務に従事後、
農林水産政策研究所を経て、平成25年から現職




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