国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
食品総合研究所 食品機能研究領域長
山本(前田)万里
食品の機能性を表示できる食品表示制度には、特別用途食品という分野があり、その中には、①特定保健用食品(保健の機能表示可能(消費者庁の審査許可が必要))、②栄養機能食品(栄養成分の機能表示可能(消費者庁の審査は不要))、③平成27年4月1日から施行された機能性表示食品(健康維持増進の機能表示可能(消費者庁の審査は不要で届出制)がある。
25年1月に発足した規制改革会議の中で、機能性を有する食品について、特定保健用食品は、食品ごとに安全性や有効性に係るヒト試験が必要であるとともに、許可手続に時間と費用が掛かるため、中小企業にとってハードルが高いこと、栄養機能食品は、対象成分が限定されていることなど、現行制度についての課題が指摘された。そこで、規制改革実施計画(平成25年6月14日閣議決定)で、「食の有する健康増進機能の活用」として、機能性を表示できる新たな方策として議論されたのが、新しい機能性表示制度である。
この新しい機能性表示制度には、以下のような特徴がある。
① 国ではなく、その食品を販売しようとする事業者自らが、その科学的根拠を評価した上でその機能を表示できる。
② 農林水産物、加工食品、サプリメントが対象である。
③ 健常人や未病者の健康維持増進に係る食品による、ヒトの構造や機能への影響に関する表示が可能である。
④ 機能性表示のための科学的根拠は、その食品でヒト介入試験を実施するか、機能性関与成分を文献調査して、その機能性を系統的に調べるシステマティックレビュー(注)のどちらかで得る。
今まで機能性成分の含有量しか表示できなかったものが、構造、機能表示、しかもヒトの部位(目、鼻、骨など)に踏み込んで機能性表示ができるというのは、消費者に正しい情報を伝えられるということで、農産物や加工食品の付加価値を向上させるためのメリットになり得ると考えられる。
しかし、届出制ということで、①安全性や機能性(ヒト試験による効果の実証、作用メカニズムの考察)の評価を届け出側が厳しく行わなくてはならないこと、②機能性関与成分について、1日で摂取できる分量の中に機能性が見込める量を入れるとともに、バラツキを抑えるように、栽培条件などをしっかりと管理しなければいけないこと、③健康被害情報を集める体制を組まなければいけないこと、などハードルが高く、分析コストも上乗せされることを認識しておく必要がある。
機能性関与成分を多く含む農産物については、農業系研究機関や民間種苗会社などで、食物繊維、ポリフェノール、カロテノイド、リグナン、ビタミンなどの含有量を従来の品種より高めた品種が育成され、これらを活用した製品開発も行われてきた。機能性を訴求するためには、農産物であってもエビデンスの獲得が必要であり、機能性関与成分の用量や作用機作なども含めて、科学的根拠が明らかにされていることが求められる。表1には、「温州みかん」「べにふうき緑茶」の機能性関与成分に係る、科学的根拠と製品開発事例を挙げる。
機能性野菜として現在注目されているのは、たまねぎ(ケルセチン)、トマト(リコピン)、ほうれんそう(ルテイン)などである。先に示したシステマティックレビューに関しては、農林水産省の26年度緊急対策事業で米(GABA)、温州みかん(β-クリプトキサンチン)、緑茶(メチル化カテキン)に関するシステマティックレビューが行われて公開されたので、それを利用することができる。
また、農業系研究機関の一つである国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構による「機能性食品開発プロジェクト」の機能性農産物に関する研究成果(ヒト介入試験、システマティックレビューなどのデータベース)も、今年度末に利用することが可能となる。当該データベースには、機能性表示制度のガイドラインに沿った、農産物(ほうれんそう(ルテイン)、大麦(β-グルカン)、大豆(β-コンクリシニン)、りんご(プロシアニジン)、こんにゃく(グルコマンナン)、魚(DHA/EPA)、緑茶(エピガロカテキンガレート))に関するシステマティックレビューも、掲載される予定である。今後、市場に出てくると想定される生鮮食品や加工食品での機能性表示や実際の表示例を表2に示す。
機能性表示食品とは、企業や農協の責任で、エビデンスを基に商品パッケージに. 機能性を表示するとして、消費者庁に届け出られた食品である。企業などから発売される製品は、機能性関与成分のバラツキは少ないと思われるが、生鮮食品である野菜や果物は、品種、産地、栽培時期、栽培方法などで成分が違い、小売店での販売期間中にも減少するため、機能性関与成分のバラツキをどう制御するのかという問題が出てくる。
そのため、届け出者は、消費者に対し、機能性関与成分値を保証した機能性表示生鮮食品を販売する必要がある。また、調理、加工などでも成分値は変動するので、これらについての情報も消費者に伝えていく必要がある。ハードルは高いが、消費者が正しい選択をするための新しい基準として認知されていくことを期待している。
注:あるテーマに関する論文を系統的に収集し、個々の報告の質を吟味し、可能な場合には統計的に知見を統合して一定の結論を導く手法。
【略歴】
昭和61年4月 農林水産省入省 10月 中国農業試験場 流通利用研究室研究員
平成4年4月 野菜・茶業試験場 製品開発研究室研究員
平成14年4月 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 野菜茶業研究所
茶機能解析研究室室長
平成24年10月 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 食品機能研究領域長(大課題推進責任者補佐)現在に至る