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話題(野菜情報 2015年6月号)


料理人の思いで伝える食育

一般社団法人 超人シェフ倶楽部 黒澤 法導

超人シェフ倶楽部の発足

 平成16年、新潟県中越を震源としたマグニチュード6.8の地震が発生しました。この時、甚大な被害を受けた新潟県山古志村(現長岡市山古志地域)で、有志の料理人が集い、炊き出しを行ったことがきっかけで、現在の「超人シェフ倶楽部」を発足することにつながっていきました。

 山古志村での炊き出しは、被災者や自衛隊を中心とした救助隊の笑顔と歓迎を受け、その体験が料理人に「社会に少しでも貢献できることをしたい!」という思いに火をつけたのです。おいしい料理を、日頃訪れてくれる客に提供するだけではなく、「料理」を通じて、世の中に幸せを増やし、これからの社会を支える子供たちに「楽しくおいしい食体験」をさせたいという大きな熱意が生まれ、当時としては、希少であった「料理人の集団」を作る力となりました。

三つの活動の柱

 山古志村での炊出しから11年、一般社団法人超人シェフ倶楽部は、「食育」意識の推進を大きなテーマに活動を続けています。活動の柱は三つあり、一つ目の柱は、「子供たち、家庭、学校」に向け発信しているプロジェクト「スーパー給食」です。全国の公立小中学校を対象に、各学校からの応募に応える形で実施、推進しています。私たちのメンバーである料理人が学校給食に参加し、考案したレシピを学校に提供、栄養価やコストの調整を繰り返しながら、栄養教諭や学校給食調理員と力を合わせて調理し、当日の給食を調理完成させるものです。

 昨今の学校給食では、偏食による残食や、アレルギー・アトピー児の増加による献立こんだて作りの難しさ、調理環境の整備、衛生対策など、クリアしなければならない課題がたくさんあります。私たちの活動が、その全てを解決する答えになるとは考えていません。ただ、料理人が考案したレシピをいかにおいしく再現し、子供たちに提供できるかを思案するプロセスが、それら多くの課題に、より積極的に挑み、考えるきっかけになればと考えます。加えて、食事をみんなで食べることの楽しさ、会話を楽しみながら食べることの大切さ、食材に目を向けその本当のおいしさを感じることの驚き、料理の基本は愛情であり、調理する人への感謝を忘れないといったことを子供たちに伝えることで、単に栄養価やバランスで語る食育ではなく、「食」が日常生活においていかに幸せな時間で大切であるかを、子供たちに知ってもらいたいと願っています。

 いままで実施してきたどこの学校でも、子供たちのこんな声が聞かれます。

「いつもは食べられないものが食べられた!」
「家でお母さんと一緒に作ってみる!」(当日は、各児童にレシピを配布しています)
「シェフと話ができて楽しかった!」

 私たちが考え広めたいと思っている食育の核心が、これらの言葉に集約されている気がしています。

 給食室での調理から始まり、子供たちとの会食を通じて料理人と子供たちが交流するのがスーパー給食です。スーパー給食では、当日の献立や「料理人の世界」「食への感謝」について料理人と子供たちが会話を交わします。子供たちの率直で素直な意見や感想と料理人が子供たちに伝えたい食への想いの交換が、お互いにとって貴重で素敵な刺激になっています(写真1、2)。

 食育や「食文化」を大仰に話題にするのではなく、直接面と向かって交わした言葉の中で、世代や立場を超えて食への思いが伝わるのでは、と毎回感じさせられます。
二つ目の柱は、全国の事業所が運営している社員食堂を舞台にした「おとなの食育」プロジェクトです。子供たちへの食育意識の推進が最重要であることは間違いありません。ただ、子供たちの今を支え、影響を与える存在である親や社会人の食も見直さなければならない時代と考えています。

 時間に追われ、ただ食べる行為だけで終わりがちな社会人に、少しでも本当の味を伝え、日々の食の大切さを再確認させたいという思いで実施しています。「食材」がもつ本来のおいしさを生かすレシピ提案を意識しており、当日は、料理提供に加えてレシピ冊子を配布しながら、家庭で再現し、食してもらえるよう働きかけています。また、関連して料理講習会も開催し、社会人の食育意識の広まりを手助けできればと考えています。

 三つ目の柱は、「地域振興、地域活性の応援」です。地方再生、地方の時代という言葉が、ここ数年声高に叫ばれています。ただ、その実態は、かえって打開策を持たずに迷路にはまり込んでしまった人々を増やしているのではないでしょうか。6次産業化推進の風潮も年々強まってはいるものの、そこにつながるプロセスを見いだせず暗中模索している地域、生産者も多数です。そこで私たちは、食に焦点を合わせて地域活性の応援に取り組んでいます。地域に根ざした振興イベントへの参加や、地域産品を使った商品開発に積極的に挑んでいます。今後は、全国各地に眠っている、いまだ全国規模では知名度が低いものの、おいしい名品、逸品の発掘にも力を注いでいく予定です。

 誰にとっても興味深いカテゴリーである食が、地域活性にとって大きな武器になるものと信じ、地域の声を聞きながら活性化への答えを作り上げていこうと思います。

料理の心と野菜
三つの柱の活動を支える大切な想いがあります。それは、「料理する心」は料理人だからこそ深く伝えることができるという確信です。食材を吟味し、旬を考え、食材本来の味をいかに引き出すか、食べ手が目でも味わえる盛り付け、幸せを感じるもてなし、それら全てにおいて、食に身を削って向き合っている料理人が常に携えている思い、まさにそれが「料理の心」だからです。

 そして、そういった伝承を担う存在の料理人が、最も大切にしているものの一つが食材を見る目です。料理の根幹に関わることであり、料理人としての思い入れも深く強くなる部分です。昨今の「食の安全と消費者の信頼確保」志向はもちろんのこと、料理人はできる限り日本国内で生産された食材で料理を完成させたいと強く願っています。野菜については、特にその意識が強く、国産野菜への信頼は大きいものがあります。料理人は、それぞれの情報網を使い、常日頃からより良い国産野菜に出会える機会を探しています。

 四季に恵まれた日本は、それぞれの季節で、各地に旬を迎える野菜がたくさん存在しています。料理人にとって、これほど素晴らしい環境はありません。日本の自然が生み出す逸品の野菜を愛情込めた料理に昇華させ、国内外のたくさんの人たちに、その素晴らしさを享受してもらいたいと料理人は願っています。

 私たちは、学術的な食育を行える組織ではありません。思いあふれる料理人とそれを支える日本の自然が育んだ食材、それらが融合して完成する「美しく、楽しく、おいしい」料理を提供し、料理人の思いとアイデアを加え、私たちが考える食育として発信していくだけです。今後も私たちは、日本の食材、食文化、そして食育を料理人目線から捉え、料理の心とともに全国の人々に届けていければと願っています。

 

プロフィール
黒澤 法導(くろさわ のりみち)


【略歴】
昭和38年北海道生まれ。
新聞社、映像制作会社、デジタルコンテンツメーカーに従事後、平成22年より超人シェフ倶楽部に参加。




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