農林水産省生産局農産部園芸作物課
園芸流通加工対策室長 岡田 正孝
わが国においては、人口減少や少子高齢化による消費の減退に加え、単身世帯の増加(表1)、女性の社会進出により、家で調理して食べる「内食」から、スーパーで総菜などを買って食べる「中食」や「外食」へのシフトや、カット野菜が普及し、定着するなど、食の外部化、簡便化が進展している(図1)。こうした中、野菜需要に占める加工・業務用需要の割合は増加傾向にある。平成2年には5割であったものが、22年には6割にまで上昇しているのが現状である(図2)。一方、国産野菜のシェアは、家計消費用ではほぼ全量を国産で賄っているものの、加工・業務用では7割程度であり、2年度から22年度の20年間で2割程度減少している。つまり、加工・業務用野菜のうち3割程度は輸入で賄っているということになるわけである(表2)。
しかしながら、加工・業務用野菜の実需者への意向調査では、国産野菜を利用したいとの回答が4割以上を占め、国産に対する根強いニーズがあることも事実である(図3)。
野菜の輸入量は、カット野菜などの加工用や中食、外食などの業務用野菜の需要の増加に伴い、平成17年には252万トンと過去最高となった(図4)。
その後、中国産野菜に対する安全性の懸念から、輸入野菜の過半を占める中国産野菜を中心に輸入が一時減少した。しかし、近年の異常気象などにより、22年、23年と国産野菜の価格が高騰したため、加工・業務用を中心に、再び輸入量が増加に転じ、25年の輸入量は227万トンと、過去最高を記録した17年の水準に迫っている。
さらに最近では、懸念されている輸入野菜の安全性についても、国内企業による輸入野菜へのトレーサビリティの取り組みなどにより、国産より食の安全と消費者の信頼の確保に向けた取り組みが進んでいるとの声や、輸入野菜は国産に比べ、一定のロットを確保でき、嗜好の変化に機動的に対応している、という声も聞かれる。
需要面における、食の外部化、簡便化指向に伴う加工・業務用需要の増加や、生産面における、異常気象の多発や生産者の高齢化などに対応しつつ、輸入野菜の増加に歯止めをかけ、自給率の向上を目指すためには、異常気象などに対応し、安定的に供給できる体制の構築や、加工・業務用野菜の生産・流通の振興を図ることが必要である。
生鮮野菜を出荷する生産者にとっては、安価な加工・業務用はすそもの対策という意識が根強く、積極的な対応をとることが少ないため、加工・業務用野菜の安定供給につながらない状況にある。
このため、生鮮用野菜のすそもの対策ではなく、これを販路拡大の好機と捉え、加工・業務用規格への対応や加工適性のある品種の導入などに対応していくほか、市場価格の変動にかかわらず、安定した取引を行うためにも、不作時においても一定の出荷量を確保し、実需者のニーズに応えていく必要がある(図5)。その際、生産者においては、加工・業務用は、生鮮用とは異なる特性などを求められていることを認識する必要がある。
さらに、通年的に、実需者への安定供給を図るためには、これまでの産地間競争から産地間連携へ移行し、リレー出荷による年間供給体制の整備を図る必要がある。
加工・業務用野菜の生産に取り組むにあたり重要な要素の一つに、安定供給があるが、近年の異常気象の多発や連作障害などで、安定的な生産、供給が困難な場合も生じている。このため、新しい技術の積極的な導入や耐暑性、耐干性、病害虫に強い優れた品種の導入、土壌・土層改良の実施、マルチ・べたがけなどの資材の使用、病害虫防除資材の導入など作柄安定技術を導入した生産基盤の強化を図ることが必要である(図6)。
このため、平成25年度補正予算、平成26年度当初予算により、加工・業務用野菜生産基盤強化事業において、作柄安定技術の導入に対して支援を実施しており、これまでに34産地1300ヘクタールで実施されているところである。
加工・業務用野菜は、生鮮用よりも安価な価格であるため、所得の確保に向けては、低コスト化、省力化が極めて重要であり、新技術を導入した機械化一貫体系の確立が必要である。
また、出荷規格の簡素化などによる選別・調製経費の削減やリースコンテナの導入などによる流通経費の削減が重要である。
例えば、加工・業務用のキャベツにおいては、求められる規格が生鮮用と異なり大玉が基本で、一定規格以上の大きさであればよいため、等級分けが不要である。
このため、規格簡素化による選別、調製作業の省力化により規模拡大が可能となり、大型コンテナによる流通経費の削減を図ることにより収益性の向上が見込まれる。さらに、収穫機の導入による一斉収穫など、一層の負担軽減、作業の効率化も期待されるところである(図7)。
このため、加工・業務用に適した品種の導入に必要な種苗や、機械化一貫体系に取り組むための自動収穫機の導入などに向けた取り組みを支援している。
また、加工・業務用野菜で所得を確保していくためには、まとまった量の出荷を行うことが必要となってくる。そのため、集出荷体制の集約化、トラック輸送から大ロット輸送に適した鉄道や船舶輸送への転換など合理的、効率的な流通方式の導入や、週末や祝日の市場閉鎖時などの、輸送量が少ないタイミングを狙った効率的な輸送を可能とする長期保存技術の導入などについての検討が重要である(図8)。
また、ただ単に輸送するだけではなく、収穫後の鮮度低下を防ぎ、高品質な状態で消費者に製品を提供するためには、切れ目のないコールドチェーンの構築や新たな加工、保存技術の導入も重要である。このため、加工・業務用野菜を含む青果物流通の合理化、効率化の取り組みを支援するため、平成27年度予算概算要求において所用の予算を要求しているところである(青果物流通システム高度化事業 5億円)。
生産者と実需者間での契約取引については、生産者からは、契約どおりに定時、定量、定質の出荷ができるのか、相手先が見つけられるのかなどの不安がある。一方、実需者からも、契約どおりに定時、定量、定質の出荷がなされるのか、あるいは通年供給されるのかなどの不安がある。
こうした生産者と実需者の間にある不安を払拭し、安定的な契約取引を行うためには、産地と実需者をつなぐ中間事業者が重要な役割を担っている。中間事業者は、季節、天候などの影響による供給量の変動に対し、複数の国内産地や実需者と契約することで、一定の緩衝機能を発揮し、産地の納入義務および原材料供給のリスクを軽減、分散し、また、原材料を選別、調製、加工、保管することで、実需者の多様なニーズに対応している(図9)。
このため、加工・業務用野菜の生産・流通の振興を図るためには、中間事業者を介した安定的な供給経路を構築することが必要である。
今後は、人口減少などを背景として慢性的な消費減少が見込まれる中で、消費者ニーズに的確に対応した生産、流通、加工、販売を行っていくことが重要である。このため、生産者、中間事業者、実需者などの関係者にあっては、各々の役割を踏まえつつ、関係者が連携して、多様かつ変遷の激しい消費者ニーズに、柔軟に対応する必要がある。
農林水産省としては、需要が拡大しているカット野菜などの加工・業務用野菜について、低コスト、省力化栽培の実現や流通の合理化、効率化による生産流通体制の強化、新たな需要の掘り起こしや消費者ニーズに的確に対応するための産地と実需者とのマッチングなど、さらなる需要の拡大と、それに対応できるサプライチェーンの構築を推進していく。