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話題(野菜情報 2014年8月号)


青果物の新たな販売促進を目指して
~パート従業員の資質向上が鍵を握る~

NPO法人 青果物健康推進協会
事務局長 近藤 卓志

 さまざまな啓発活動や販売促進活動が行われているが、野菜の消費がなかなか伸びないのは、その手法に問題があるのかもしれない。そこで、青果物健康推進協会では、新たな販売促進の開発に乗り出した。なぜかというと、協会の会員は全国の生産者団体、全国の青果卸売会社、全国チェーンのスーパーマーケット(以下、「スーパー」という。)や量販店が全体の半数以上を占めており、有効な販売促進の開発は、会員にとって大きな利益につながるからだ。しかも、これまでのマネキン販売促進の費用は主に産地側の負担だったが、新たな販売促進はかなりのコストダウンとなり、産地側のメリットが大きい。現在の販売促進の現状と、新たに開発を進めている販売促進手法について紹介する。

販売促進の現状

  青果物健康推進協会の会員には、全国の生産者団体が多い。そこで、通常の販売促進の方法についてアンケートした。まずは、「通常、どのような販売促進をしていますか」については、全て同じ答えだった。それは「マネキンによる試食宣伝」だ。つまり、生産者団体の多くは「販売促進=マネキン」と考えているようだ。次に、「そのマネキン手法で課題はあるか」を聞いた。すると、「マネキンを入れた日には確かに売り上げはあがるが、入れない日は上がらない」との不満の声が多く聞かれた。そのマネキンに係るコストは1日2万円くらいだ。販売している商品は200円前後で、そのうちコストを負担している産地側の利益は17~20%程度と言われている。200円の野菜を1つ販売すると産地側は40円程度の利益になる。つまり、500個販売してやっとマネキンのコストが賄える(40円×500個=2万円)ことになる。つまり、1000個程度販売してやっと2万円の利益となるが、1日にスーパーの売場で同じ商品を1000個売るのは至難の業と言わざるを得ない。

  さらに、産地側に質問したのは、「では、どのような販売促進、売り場が望ましいのか」と聞いたところ、「マネキンを派遣しても、派遣しなくても売り上げが見込める売り場になるような販売促進」との意見が多かった。

理想の売り場を目指して

  会員である生産者団体などが考える理想の売り場を整理すると、「マネキンを派遣しなくても売り上げが確保できる」「コストがあまりかからない」ことが求められているようだ。この「理想の売り場」を完成させるためのポイントが、「パート従業員の販売員化」である。これを事業としてスタートした4年ほど前は、各スーパーの皆さんの意識は、「パート従業員の仕事はバックヤードの商品を売場に並べること」と思われていた。確かに、売り場の棚をいつもチェックし、品薄になったら補充をするのは重要な仕事だろう。しかし、パート従業員には社員には出来ない特別な能力があるのだ。それは、①社員と違い異動が無く、地域密着 ②地域の情報に詳しい ③買い物客と同じ主婦(顧客)目線を持っている ④パート従業員の中には元ビジネスウーマンで販売促進やマーケティングの知識がある方もいる、ということが、研修を実施して見えてきた。

  「社員と違い異動が無く、地域密着」というのは大きなインセンティブである。地域の状況や情報に詳しいとマーチャンダイジング(MD)的にも有利だろう。常に同じ人が店にいて、他店の情報や顧客の評価が手に取るようにわかることは心強い。例えば、「1週間後に隣の小学校で運動会がある」などの情報が分かれば、運動会用のMDも可能だろう。また、「買い物客と同じ主婦(顧客)目線を持っている」ことも重要だ。売り場作りでは顧客目線が重要だが、売り手側にいると適切なビジュアル・マーチャンダイジング(VMD)が設計しにくいが、買い手側の目線があるのは心強い。

  また、研修を始めてから気付いたのだが、パート従業員の中には、販売促進やマーケティングを理解している方々もいるということだ。スーパーのパート従業員というと「主婦のアルバイト」とのイメージが強いが、実は以前はビジネスウーマンとして一線で活躍していたが、子育てが落ち着いて再就職した先が、スーパーだったという方がいるのだろうと推察する。研修を実施し、宿題などを確認すると、そのように推察せざるを得ない場面が頻繁にあるのだ。

研修のポイント

  まず、研修の講師だが、青果物健康推進協会の厳しい訓練を受けて選ばれた専任講師(ベジフルティーチャー=VFT)が担当する。そして、研修のカリキュラムだが、まず、総合カリキュラムというものを策定した。現在、熊本、愛知、福岡、鹿児島などの産地と共に、スーパーなど4社以上でパート研修を実施しているが、各社ごとに目指す方向や事情が違うため、総合カリキュラムを各社ごとにカスタマイズして対応している。総合カリキュラムでは、理想の売り場を創造するためには、①商品知識 ②接客技術 ③売場作り・提案力 ④マネージメント(コミュニケーション)の4つのカテゴリーが必要と考えている。そのカテゴリーごとに、フェーズ1~4までのランクを定め、研修を通じてステップアップを目指している。簡単に言うと、フェーズ1は「基本を覚える段階」。フェーズ2は「パート自ら考えることが出来る段階」。フェーズ3は「パート自ら考え、行動できる段階」。そして、フェーズ4になると「パート自らを評価し、ステップアップできる段階」を目指す。これを見て分るように、研修は単なる知識研修では無い。知識研修だけでは、有効な販売促進には結びつかないと考えているからだ。それに、1回の研修だけでは人間の行動を変容させることは難しい。そのため、現在実施している3社では、ほぼ毎月パート研修を実施している。なお、研修の中身は座学だけでは無く、グループワークや試食なども行っている。しかも、研修後にはさまざまな宿題もあり、そのほとんどは実地訓練となっている。パート従業員は、実地後に結果を「チャレンジシート」と言う形で提出が義務付けられている。その宿題を講師たちが審査し、評価するシステムとなっており、優秀者は表彰され、「なぜ表彰されたのか」を、研修の中で講師が説明するわけだ。このような研修を繰り返すことで、参加しているパート従業員たちの意識、態度、行動が徐々に変化していくのだ。

  3年前から研修を実施しているスーパーA社の幹部によると、「この研修だけの効果ではないが、青果部門の伸び率は7%程度と大きく、売場がにぎやかになった。また、確実にパート社員が戦力になって販売力の強化につながっているのは間違いない」と話している。

プロフィール
近藤 卓志(こんどう たかし)


【略歴】

東京都練馬区出身。日本大学経済学部卒。
食料品流通業界新聞の記者として20年間勤務。
現在は業界誌の月間「農林リサーチ」編集委員。
平成12年から4年間、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の代表幹事。
14年に青果物健康推進委員会を立ち上げ、理事・事務局長に就任。
19年に法人化し、NPO法人青果物健康推進協会に。
食生活ジャーナリストの会会員、食のジャーナリストとしては、主に農産物流通を専門としている。




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