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話題(野菜情報 2014年6月号)


学校給食における地場産物を使った食育の推進

女子栄養大学短期大学部 教授 金田 雅代

「地域力」を生かす食育の推進

 平成20年3月に、小・中学校における学習指導要領が改訂され、その総則に「学校における食育の推進」が明記されたことが契機となって、学校では、さまざまな農業体験活動が行われています。具体的には、生活科、社会科や総合的な活動の時間等に、学校近隣の田畑を使った栽培活動や収穫体験、収穫物で調理体験、地場産物生産者の畑や加工場を回り収穫や製造体験など、枚挙にいとまがありません。
 食育の推進が進むにつれて、教科等の中での学習内容、学習活動(体験活動)や教材などが、食と関わりがある時、学校給食につなげられるようになりました。栄養教諭は食や栄養についての専門家ですが、学校給食に地場産物を使用している場合、地元とのパイプ役も担っています。地場産物を納品している生産者をゲストティーチャーとして、授業や農業体験活動の指導をお願いしたり、招待給食を計画したりと、学校との橋渡し役も果たしています。
 全国の学校には、「食育の年間指導計画」が作成されており、その中には、学年別に関連教科と食が関連した学習内容、学習時期や献立計画、郷土食行事食等日本の食文化の継承を目的とする献立計画など、地場産物の使用計画等が盛り込まれています。学校は全て年間指導計画のもとに行われており、時期や内容により、生産者の積極的な協力が必要です。食育推進には農業生産者などの協力、すなわち「地域力」が欠かせないのです。

学校給食は「食育」の教科書

 学校で取り組む食育は、学校給食を生きた教材として活用することに特長があります。活用例を挙げると、家庭科の「一食分の献立計画」では、給食献立を参考にして献立表を作成したり、「みそ汁とごはん」では地元のお米、地場野菜を使ったみそ汁を考え調理したりします。子どもの考えたみそ汁が学校給食に登場することもあります。
 給食で使用する地場産物、例えば生活科の時間には、旬の食材であるグリンピースやそらまめのさやの皮むきをしています。教科等で学習している食に関する内容と関連した献立は、教科学習の復習と発展に役立てることができ、学習で得た知識や体験活動などを生かして給食を食べれば、理解につなげられることから、望ましい食習慣の形成、生活に生かすことにも役立ちます。まさに学校給食は食育の教科書なのです。

地場産物の「不思議な力」

  内閣府に設置された食育推進会議において、平成23年3月に策定された「第2次食育推進基本計画」(平成23年度から27年度の5カ年計画)には、さまざまな数値目標が示されています。学校に関係するものは、朝食欠食率をゼロにすること、地場産物の活用割合を30%以上にすることの2つです。地場産物の定義は、調理場がある都道府県の域内で取れたものとされており、24年度の全国平均は25.1%でした。昨年12月、文部科学省と農林水産省から、国内産の食材を活用していくことも地場産物の活用につながるとの通知が出され、学校給食で国産の食材を使用する割合(食材ベース)を、平成27年度までに80%以上とする新たな目標が追加されました。
 地場産物には、郷土愛(この町、この村、この土地に生まれてよかった)、尊敬の念(農家の人たちへの尊敬)、自然への畏敬への念(農業体験などから自然の営みの不思議さを知る)、生活の知識(食料の生産、配分および消費についての理解)、地域への貢献(自分自身ができることを探る)など、教育効果があります。何よりも、子どもたちは生産者の顔が見える地場産物を信頼して食べるようになります。日頃、野菜嫌いな子どもたちが、「薄味でも残さず食べてしまう」と聞きます。子どもの味覚形成の大切なときに、農薬の使用を抑えた朝取りの地元野菜には、「不思議な力」があるのです。

組織作りとコーディネーター

 安定的、継続的に地場産物を使用するためには、最初にしっかりとした組織づくりと、生産者と学校、給食センター(以下、調理場という。)をつなぐコーディネーター役を決定することです。留意することは、地場産物は天候等の影響を受けやすいことから、不測の場合に地元青果物納入業者の協力を得られるような体制づくりをしておくことも大切です。多くの場合JA、直売所、流通業者、行政などがコーディネーター役を担っています。

生産者の学校給食調理の理解

 学校給食は当日納入、当日調理が原則となっており、衛生管理に注意しながら短時間に調理しなければなりません。また、限られた納品時間のなかで、納入量や鮮度、泥や虫など異物混入の検収をしています。地元生産者だからといって特別扱いはできませんので、生産者には調理場のシステムについて、写真などで説明をしたり、実際の調理の様子を視察してもらうと一層の理解につながります。

年間使用量、規格、価格の決定

  年間予定使用量は、納品実績のある野菜などで作成されています。生産者から地場産物の種類、生産時期、生産量、規格等を、調理場から使用野菜の種類、使用時期、使用量、希望規格などを提示し合い調整します。最初から大量に扱うことは無理ですから、1種類、少量からでも始めてみることです。年間を通して安定的に納入されるようになるまでには、時間はかかりますが、生産者の組織化を図り、供給量の拡大、種類、作付け時期を分散して出荷時期を増やしたりしていくことも、納入量を増やすのに有効です。先進地の事例を参考にしてください。

地場産物、国内産使用拡大のための支援事業

 一般的に旬の食材は安いといいますが、国内産地場産物を使用した給食は、1食当たり平均6円37銭上昇するという報告もあります。給食は保護者が負担する、食材料費で賄われています。限られた給食費の中で地場産物、国内産を使用することは、金額的に厳しいのが現状です。以前、米、小麦粉、牛乳等に補助金制度がありました。子ども一人分にすれば小さな補助金でしたが、年間にすると大きな金額となり、食事内容の充実につなげられました。国を挙げて地場産物、国内産の使用を推進するのですから、支援する事業も始まっているようですが、もっともっと拡充していただきたいものです。子どもたちは、家庭の食事に結びついていますし、将来の消費者です。

プロフィール
金田 雅代 (かねだ まさよ)


【略歴】

岐阜県出身 女子栄養大学短期大学部教授
30年間、岐阜県多治見市の管理栄養士として学校給食、保育園給食に携わる。
1995年4月~2005年3月 文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課 学校給食調査官
2005年4月~ 女子栄養大学短期大学部教授、女子栄養大学常勤講師、国立大学法人奈良女子大学非常勤講師
2007年~ 食育学会評議員
2011年4月~ 公益財団法人東京都給食会評議員
主な著書・雑誌記事等
栄養教諭論(建帛社)、栄養教諭論Ⅱ(建帛社)、栄養がわかる絵辞典(PHP)、小学校で大人気の給食レシピ(PHP)、公衆栄養学実習(講談社サイエンティフィク)他多数




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