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話題(野菜情報 2014年4月号)


伝統野菜「札幌黄」たまねぎの復活を目指して

札幌黄ブランド化推進協議会 生産部会長 三部 英二

(札幌市経済局農政部長)

札幌黄の始まり

 北海道にたまねぎがもたらされたのは明治4年、開拓史がアメリカから取り寄せた種子を栽培したのが最初とされている。国は、北方農業育成の拠点を札幌に置き、欧米の技術を積極的に導入してきた。リンゴ、小麦、トウモロコシ、キャベツなど多数の品目の種子が導入され、有望なものが道内一円に広がっていった。その一つにたまねぎがあったが、残念ながら当時の栽培記録は残されておらず、品種名も判然としない。品種の記録としては、明治10年、クラーク博士の後任として赴任したウィリアム・ペン・ブルックス博士が、その翌年に故郷のマサチューセッツ州から導入した5品種が初めてであり、その中に「イエロー・グローブ・ダンバース」(記録には同種異名の「イエロー・ダンバース」と記載)が含まれていた。この品種を博士の指導の下で、熱心な農業者が選抜・採種を代々重ねる中から、現在の「札幌黄」が育成されたといわれている。

 中でも黒川系、坂野系、阿部系、高木系など、篤農家といわれる人たちの手による系統が、優秀なものとして名をはせたが、そこに至るには並々ならぬ工夫と努力があり、またその事が、彼らに揺るぎない自信と誇りを与えてきた。

札幌黄の推移

 明治以降、戦時を除いて順調に生産量は拡大を続け、昭和47年には市内の作付面積が1,380ヘクタール、収穫量7万1000トンとなり、それまで札幌市は道内最大のたまねぎ都市であった。しかし、昭和50年代に入ってからは、形のそろいが良く、貯蔵性や耐病性に富むF1品種が台頭し、都市化による農地の減少も加わって、産地首位の座を明け渡すと同時に、札幌黄の作付けも急速に下降。平成16年には生産農家が10数戸までに減り、まさに「幻のたまねぎ」といわれる存在となった。

 しかしながら、札幌黄は肉質が軟らかく、加熱すると甘さが引き立つなどの特性から、食味を重視する愛好者も存在した。また、平成19年に、スローフード協会の食の世界遺産ともいわれる「味の箱舟」に登録されたことも追い風となって再び注目を集めるようになり、最近では約20戸、約10ヘクタール、約500トン程度まで生産が持ち直している。

札幌黄ふぁんくらぶの誕生

 札幌黄に魅せられた人たちが集まり、力を合わせて魅力を発信することで、その存在を広く知らしめ、さらに多くのファンや応援者を増やしていこうと、平成24年8月に、「札幌黄ふぁんくらぶ」が発足した。事務局の顔ぶれは実に多彩で、札幌市農協のほか、研究者、飲食店経営者、加工事業者、野菜ソムリエ、フードライターなどに行政も加わった。

 平成25年度には事務局メンバーで「札幌黄ブランド化推進協議会」を設立し、農林水産省事業「食のモデル地域育成事業」の採択を受けた。生産部会、加工部会、PR部会に分かれて、それぞれ工夫を凝らした事業を展開し、ふぁんくらぶをけん引している。

 これまでに2回のフォーラムや、農業体験交流施設「サッポロさとらんど」での「たまねぎフェスタ」、札幌黄オーナー制度、わが家の札幌黄コンテスト、などのPRに取り組んだ結果、平成26年1月現在の会員数は1,100名に及ぶ勢いとなっている。農業サイドだけの取り組みではなしえなかった、「札幌市民に愛される札幌黄」のスローガンが現実のものとなりつつあり、農業者も翌年以降の生産に向けて確かな手応えを感じ始めている。

札幌黄のこれから

 ブランド化は一言で表せば「評価を高める」ことに尽きるのではないだろうか。以下、生産、加工、流通という面から、札幌黄の評価を高めるための展開を考えてみたい。

 生産面で、最も大きな課題はやはり相応の生産量を確保することであり、その生産を規定する要因の一つが「種子」である。固定種は一般的に民間種苗会社の取り扱いが少ないので、自ら採種体制を確立していく必要がある。供給不十分な状態が数年にわたって続くようだと、逆に消費サイドの失望感を招くことになりかねない。

 また、長期的な販売を考えるならば、いつまでもノスタルジーに訴えるような販売では限界があり、新たな魅力付けも必要となろう。

 平成26年度からは北海道の協力の下で、農業者、農協と連携し、メードイン札幌の採種体制づくりを急ぐとともに、乾物率や糖度(Brix値)などの内部品質を高めた「エクセレント札幌黄」の選抜も視野に入れ、消費者やユーザーの期待に応えていきたい。

 生産面でのもう一つの課題は排水対策である。近年は大型機械の普及、化学肥料の連用などから土が硬く締まり、透水性が低下しつつあり、近年の降雨異常なども加わって、生育に悪影響が出始めている。今後は、緑肥作物などを利用した輪作体系の導入など地道な土づくりの取り組みを進め、なお一層の品質向上に努めていく必要がある。

 次に加工の対応であるが、札幌黄は貯蔵性が低く、2月に入ると休眠が覚め、萌芽、発根が始まるため出荷適期間が短い。少しでも長く市民に愛されるたまねぎを目指すためには、ソテーやペーストなどの一次加工によって、飲食店等のユーザーが長期間使用できる環境を整えていくことが重要な課題である。

 加工部会では、水蒸気を加熱して高温にする加熱水蒸気といった最新技術も取り入れながら、札幌黄の名前のついた商品づくりを支援し、市民の日常の食卓に定着させていきたい。

 消費拡大という作業はPR部会が担っており、最終的には札幌黄をてこにして、たまねぎの街づくりを目指すこととしている。たとえば、オーブン料理や煮込み用には札幌黄、サラダなどの生食用には辛みの少ない「さらり」や「トヨヒラ」、ハンバーグなどには一般のF1種、といった具合に、用途に合わせて品種を使い分けるなどのこだわりを、札幌市民が持つようになることが、本当の意味でたまねぎの街になったといえるのではないか。幸い、札幌市は全国の都道府県別県庁所在都市の中で一人あたりのたまねぎ消費量が第1位であり、その条件は整っている。札幌黄ふぁんくらぶを中心に、生産者、ユーザー、市民消費者の間に大きなうねりを作り出していきたい。

プロフィール
三部 英二(さんぶ えいじ)


【略歴】

昭和54年 札幌市に入庁
平成9年 農産振興係長として農業行政を担当
平成20年 札幌市農業支援センター普及推進担当課長
平成22年~現職、札幌市農業委員会事務局長兼務




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