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話題(野菜情報 2014年3月号)


農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略について

農林水産省食料産業局輸出促進グループ長
小川 良介

はじめに

 昨年1月以降、林農林水産大臣のリーダーシップにより、攻めの農林水産業への取り組みが強化され、需要のフロンティアの拡大として、8月に農林水産物および食品の国別品目別輸出戦略を作成・公表した。これまでも、2020年までに輸出を1兆円規模とするとの目標は定められていたが、この輸出戦略は、これまでのものと何がどう異なっているのであろうか。

輸出戦略の意義その1

 ―グローバルな食市場の拡大に着目

 まず、これまでは、輸出の拡大のみを目標としていたが、輸出戦略においては、食文化・食産業のグローバル展開を目標としていることである。

 皆さんご存知のとおり、わが国では、少子高齢化等により農林水産物および食品市場が縮小傾向にある。一方で、世界に目を向けると、ある民間企業は、日本を除く、世界の食市場規模が2009年の340兆円から、2020年には680兆円へと倍増、特に中国、インドを含むアジア全体を考えると、市場規模は82兆円から229兆円へと、約3倍に拡大すると推計している。輸出戦略では、この拡大する世界の食市場に対し、日本食の普及を担う人材育成や、メディアを効果的に活用することなどにより、日本食文化の普及を行っていく。これには、まず、外食の海外展開を支援するなどにより、日本の「食文化・食産業」の海外展開(made BY Japan)を図りつつ、日本の農林水産物・食品の輸出(made IN Japan)の拡大を図ることとしている。まずは、日本式の現地生産で味を知ってもらい、日本食文化の定着に伴い、本物に移行してもらおうという作戦であり、現に、あるうどんチェーンは、ロシアなど新興国では、原料は現地調達がメインであるが、香港など、日本食文化が定着しているところでは、原料も日本から輸入しているとのことである。

 さらに、日本食の枠を取り払い、世界の料理界で、日本の食材を活用してもらおう(made FROM Japan)というものである。現在でも、日本の干しなまこは、香港の中華の高級食材となっているが、チョコレートでも、さんしょうやみそを使ったものが、メディアでも取り上げられてきているところである。

輸出戦略の意義その2

 -売るものと売り先を明記

 また、これまでは、農林漁業者などに輸出の機会を提供することを目的として、輸出先国や輸出品目を問わず、国内外での商談会の実施や、国際見本市への出展など事業者の取り組みに対する支援を行ってきた。その結果、輸出に取り組む事業者の裾野は広がったが、同時に、①ジャパン・ブランドではなく、国内販売同様に、産地名や県名を前面に出した売り方となり、②輸出先は、香港など輸出しやすい地域に集中し、③輸出時期も周年ではなく、春節前などに集中する、という輸出構造を生んだ。この結果、限られた日系のバイヤーに多数の国内産地の品が一定時期に集中することにより、日本の産地間の過当競争が生じ、買いたたきが発生するなど、輸出額も頭打ちの状態になった。輸出戦略検討時に、各国の輸入担当の話を聞かせていただいたが、香港、台湾を含め、アジア地域でも、皆さん、ジャパン・ブランドへの信頼は高いが、個別産地や県名については、京都と北海道以外は認識できないと言っていた(この点、最近、ジェトロが、地域ブランド認知度アンケート調査の結果を発表していたので参照されたい)。

 輸出戦略においては、農林水産物および食品のうち、①水産物、②加工食品、③コメおよびコメ加工品、④林産物、⑤花き、⑥青果物、⑦牛肉、⑧茶の8品目を重点品目とし、現状の把握、分析および輸出額目標の設定を行い、それぞれについて、輸出先を定めている。その中で、国の役割は、輸出にあたってのさまざまな障壁を除去するなど、政府間交渉等を通じた輸出環境の整備を行うことに集中していくこととし、商談会や国際見本市への参加など、川上から川下に至る総合的なビジネスサポートについては、補助事業を通してJETROが実施することとした。

 また、事業者の皆さんが実施する輸出の取り組みについては、「輸出に取り組む事業者向け対策事業」において、ジャパン・ブランドの確立に向けた取り組みへの支援や、産地が連携した輸出振興体制の構築を図る取り組みへの支援に重点化を図りつつ、これまでの産地ごとの取り組みへの支援については、輸出戦略の内容に沿った取り組み、すなわち、香港や台湾といった安定市場を対象とするものではなく、経済成長著しいアセアン諸国やEU、中東など、新しい市場を対象とするものを優先するなど、支援対象にメリハリをつけていくことにより、オールジャパンでの農林水産物および食品の輸出拡大を、積極的に進めることとしている。

おわりに

 先日、平成25年(2013年)の輸出額を公表したところであるが、ほたて等の水産物やりんご等の農産物の輸出が大きく伸びたこと等から、対前年比22%増の5506億円になった。これは、昭和30年(1955年)に輸出額の統計をとりはじめて以来の最高額である。輸出の過半を占めている香港、台湾、中国および韓国では、未だに、原発事故に伴い、福島県、群馬県、栃木県、茨城県および千葉県(中国については、さらに 新潟、長野、宮城など5都県を追加)からの青果物などの農林水産物および食品の輸出が禁止されているにもかかわらず、輸出額を伸ばしており、まさに、原発事故に伴う輸出規制、風評被害に負けずに、販路の回復、維持および拡大に努められてきた、事業者の努力のたまものである。

 今年は、攻めの農林水産業元年である。国は、原発事故に伴う輸出規制の撤廃ほか輸出環境の整備に努めていくので、昨年の和食の世界無形文化遺産への登録も追い風に、官民でジャパン・ブランドの確立をしていきたい。

プロフィール
小川 良介(おがわ りょうすけ)


【略歴】

1987年4月
 
農林水産省 入省
2012年9月
 
現職



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