東京青果株式会社
代表取締役専務 宮本 修
現在、生産者の高齢化および担い手不足から、野菜の自給率は低下しています。このことが、時期および品目によっては、輸入生鮮野菜の増加を促しています。国内野菜生産を維持拡大させ、自給率を上げるためには、生産者の所得拡大をいかに構築するかということが、肝心肝要であります。卸売市場は、野菜の生産、流通および需給変化を的確に把握し、市場取引を再構築することにより、生産者および需給者の要望に十分応えていかなればなりません。
青果物を取扱う卸売市場は、全国で中央卸売市場が72市場(平成24年で44都市に設置)、地方卸売市場が1,159市場(同23年度)あります。市場を取巻く野菜の取扱い状況を見ていきますと、作付面積減、生産量減に加えて市場外流通の増加から、卸売市場経由率は、平成元年が85.8パーセント、同20年が73.8パーセント、同22年が70.3パーセントとなっております。国産青果物の経由率は、平成15年が93パーセント、同22年には87パーセントと、減少傾向ではありますが、卸売市場は、今も昔も流通の基幹的役割を果たしていると言えます。
中央卸売市場の取扱い数量シェアはというと、平成元年が59パーセント、同10年が60パーセント、同22年が62パーセントと、卸売市場経由率低下の中でアップしていますが、一方で地方卸売市場は、取扱い数量低下(平成15年入荷量で538万5000トン、同22年入荷量で452万4000トン)に伴い、集荷販売の改善が迫られています。
東京都中央卸売市場の野菜入荷量は、平成元年が194万5000トン(野菜平均価格は、キログラム当たり203円)、同16年が150万トンに落ち込んで以降、その後9年間を通して150万トン台を維持し、同24年には157万3000トン(野菜平均価格は、キログラム当たり224円)となっています。東京都中央卸売市場の野菜入荷量が150万トン台を維持している要因は、2つ考えられます。第一に、東京は人口が集中し、一大消費地であると同時に、情報発信基地であるということ、第二に、産地が出荷先の集約と出荷経費の合理化から、拠点市場出荷を強化している、ということがあげられます。近在の千葉および埼玉は入荷量が減少傾向、夏秋産地の北海道、青森および長野は、堅調な入荷が持続されております。輸入生鮮野菜は、中国産への抵抗感が薄れていることもあり、平成21年以降は増量傾向にあります(平成24年入荷量で91万2000トン)。
平成に入ってから、野菜の年間平均価格が、キログラム当たり200円を割ったことはありません(最高値はキログラム当たり262円〈平成3年〉、最安値はキログラム当たり201円〈同12年〉)。しかし、年別および月別価格は、高値安値が顕著になってきています。特に近年は、気象条件が作柄を大きく左右することが目立ち、時季別変化を際立たせる傾向にあります。
入荷品目を見ると、野菜は12類142品目、果実は19類96品目に統計分類されています。平成元年の入荷量を100として、同24年対比を見てみますと、野菜全体は、81パーセントとなっています。その中で増えている品目は、ズッキーニ(平成24年対比669%)、ブロッコリー(同167%)、ミニトマト(同146%)、みょうが(同145%)、こねぎ(同135%)、えのき(同131%)、アスパラガス(同125%)およびこまつな(同112%)です。一方、入荷量が減少傾向にある品目で目立つのは、ピーマン(同72%)、きゅうり(同69%)、ほうれんそう(同51%)およびしゅんぎく(同37%)です。特に豆類は、種類も多く季節性は富む品目ですが、入荷減が際立っています。
このような入荷野菜品目構成比の実態を踏まえ、生産販売する品目について、卸売市場も、消費動向を一層分析および検討することが必要となります。
財務省「家計調査」によると、1人当たり1カ月平均(2人以上世帯)の食料品支出金額は、平成22年が21,865円、そのうち野菜の構成比が8.0パーセント、果実が3.5パーセント、調理食品が11.9パーセント、外食が16.9パーセントです。金額構成比のうち、日常必需品である野菜の変化は少ないのですが、調理食品、外食の構成比は着実に増えており、業務用需要が拡大していることが見て取れます。
これは、女性の社会進出、単身世帯の増加等生活スタイルの多様化を背景に、家庭内で行われていた調理や食事を、家庭外に依存することが増えたためです。いわゆる「食の外部化」が進行しています(食の外部化率は、平成元年が39.8%、同21年が42.4%)。
実際に、農林水産政策研究所の調査結果では、主要野菜13品目(だいこん、にんじん、はくさい、キャベツ、ほうれんそう、ねぎ、レタス、きゅうり、なす、トマト、ピーマン、たまねぎおよびさといも)の加工、業務用需要割合は、平成2年が51パーセント、同22年が56パーセントです。13品目中9品目で、加工、業務用需要率が50パーセント以上となっています。業務需要に対しては、組織的な対応が必要であり、供給量全体を視野に入れた販売体制の取組みが求められます。
セリ取引減少、相対取引増加の中で、生産者、スーパー、加工・業務筋等、それぞれの立場から、市場取引をしています。生産者は、手取りが拡大できる品目と有利販売の追求、スーパーは、需要増加が期待できる品目の仕入れによる販売重視と、PB(プライベートブランド)商品の開発があげられます。また、加工・業務筋は、歩留りと作業効率が高い品種の仕入れと、輸入品利用との比較から、価格面の重視も見られます。
生産者が顧客要望を満足させ、手取り増につなげるには、売れる野菜、需要の増加が見込める品目を生産すること、販売においては、新たな価値創造につながる取り組みが必要です。産地、顧客および卸売市場の連携を一層強め、品質が注目されるような商品の提供、情報発信を積極的に行うことが、生産販売継続につながります。
特に本年は、消費税が5パーセントから8パーセントとなり、卸売市場取引にも影響がでてきます。スーパーの価格表示、利益追求から、時季別販売品目および仕入れ産地の選定は、これまで以上に厳しくなってきます。卸売市場としても、平成9年に消費税が3パーセントにアップした時の動向を十分に踏まえ、転換期に即した集荷販売に取り組まなければなりません。生産者の生産意欲が高まり、野菜振興につなげるためには、情報を活用し、野菜流通の変化と対応を十分認識した、卸売市場機能(品揃え、集分荷、価格形成、代金決済および情報発信)の強化および進化が急務です。
このたびの平成25年12月、ユネスコが、「和食、日本人の伝統的な食文化」の無形文化遺産登録を決定しました。このことは、和食の見直し、需要拡大につながり、当然使用される国産野菜にも注目が集まるでしょう。卸売市場は、これを機に、和食および食文化を大事にし、品目開発と掘り起しに一層力を入れてまいります。社会生活変化の中で、野菜の安定供給および生産者の所得向上を図るためには、これまで以上の機能強化と、幅広い役割が求められているのです。
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