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話題(野菜情報 2013年12月号)


わが国「農産物直売所」のこれから
~地産地消活動・6次産業化と関連して~

農業・農村マーケティング研究所
所長 二木 季男

隆盛な「農産物直売所」に影が

 平成21年度におけるわが国の「農産物直売所(以下、直売所という。)」は1万7000カ所余り、そして、その総販売額も年間8700億円を超える規模となり、かつて市場外流通として一括されていた時期とは全く異なったシチュエーションに至っている。ところが、そこに大きな問題点が潜んでいることが次第に明らかになって来た。それは、出荷農業者による安売り合戦が目立つようになっていること、それに安全・安心の根拠が薄弱になって来ていること、そして地域密着型スーパーとの差異性が見えなくなっていることなどである。
 直売所は、本来出荷農業者にとって生産原価を踏まえた有利販売の場であり、付加価値実現の場でもある筈なのに、自らの首を絞める結果になっているだけでなく、直売所の特典と個性を忘れてしまっているのではないだろうか。このことは、自ら栽培した農産物や加工品の特徴(品種、栄養価など品質、栽培方法、安全性、料理方法など)を消費者(顧客)に伝え得る場面に居ながら、そのチャンスを失い、直売所全体のイメージダウンにつながっていると言うことになる。
 この問題に対して、これからの直売所の在り方への視座を踏まえて、若干の提言を述べたいと思う。まさに、直売所自体が、最近の複合化傾向を含めて6次産業化、特に地域内発型6次産業化の有力なモデルと言っても過言ではない、と考えるからである。

「食」「農」に関する価値観の生・消共有化の徹底

 このような事態は、出荷農業者の意識と行為が直接的原因ではあるが、その背景には、消費者が長く慣れ親しんできたスーパーマーケットでの「見栄え」(外観)と「値段」で、農産物を選択する購買習慣が抜けきれていないことに起因していると言ってよいと思う。見栄えさえよければ(最近は産地表示は欠かせないようになってきてはいるが)、値段の安いものを買い求める購買習慣が、この直売所の安売りに現われているのである。もともと農産物は、その特徴を吟味し、家族の健康を考えて選ぶべきものであるが、直売所ですら、それが改められていないと言うことである。これは、消費者が、「食」「農」「健康」「環境」に関して、農業者と価値観の共有化が十分には出来ていないことを示している。この価値観とは、新鮮で、おいしくて栄養価がある安全・安心な農産物であれば、値段がある程度高くても買い求めよ、とする価値観である。
 この価値観共有化の活動は、言い換えれば、消費者への啓蒙・啓発活動でもあるが、地産地消活動の最大のテーマであり、その活動の場は、直売所での農業者と消費者のフェイス・トウ・フェイスの関係の中でこそ、最も有効に実現することとなる。

理念を踏まえて、幅広い活動領域に関わる

 直売所は、地産地消活動の理念(地域農業再生の道筋づくり)を踏まえて、そのための幅広い活動に積極的に参加することが望ましい。例えば、子どもの学校給食食材提供と「食農教育」支援の他、遊休農地の活性化やエコ農業の推進(ゴミのリサイクルを含めて)、そしてこれからはエネルギーの地産地消などと広がっている。このような活動は、先行型の直売所では、既に活動の推進体となっているケースも見受けられるようになった。これらの活動は、先の価値観の生・消共有化推進にも大きな影響をもたらすことになる。
 さらには、直売所の出荷農業者の経営や技術に関する研修活動を重ねることによって、地域農業の担い手(新規の担い手を含む)育成で効果を発揮しているケースも現われている。この出荷農業者には、最近は専業農家や法人も参加して、消費者への啓蒙・啓発活動を通して、確実に有利販売や付加価値販売の実現を図り、農業所得向上と農業への張り合いや誇りを取り戻すことにつながってきている。今や地域農業は、直売所を場にして地域消費者の支持を得ながら、担い手育成が進んでいると言える。

「農産物直売所」からチャネル・ミックスの展開へ

 直売所は有利な販売を可能とする場ではあるが、販売量に限度がある。そこで、直売所で消費者の信頼を得て(ブランド化も)、それを踏まえて従来のチャネル等でのミックス戦略の展開を図る。具体的には、インショップ販売、ネットワーク販売、従来からの産直や共撰・共販による卸売市場販売の組み合わせとなる。地元での信頼(自信)を踏まえて、これらのチャネルとの有利な取引を進めることにより、有利販売(農業所得の向上)の効果をさらに増幅させることとなる。

複合機能化を促進する

 直売所に関する最近の調査では、約4割が「農家レストラン」や「加工ビジネス」などを取り入れており、経営の複合化が進んでいることが示されている。加えて、廃校活用などのソーシャルビジネスとの連携も見られる。これらの効果は、顧客層の拡大や売り上げ増加にも現われ、相乗効果が発揮されていることが分かる。この動きは、これからもさらに進むと思われる。

「地域交流(生活・文化)拠点」へのステージ・アップ

 以上、述べてきたような活動が確実に進めば、直売所は、消費者(組織化等)と共に支えられる存在となる。この先にあるのは、「地域交流(生活・文化)拠点」としてのポジショニングである。
 既に、いくつか先行事例が現われている。例えば、愛媛県今治市にある、JAおちいまばりの「さいさいきて屋」、同県内子町の道の駅にある「株式会社内子フレッシュパークからり」、そして大分県日田市大山町にある、JA大分大山の「木の花ガルテン」などで、他にもいくつか挙げることができる。
 これら先行事例の共通点は、第一に、この直売所は、農業者だけでなく地域住民すべてが参加・協力していること。第二に、直売所を中核にして、飲食、加工、体験施設、農園、文化施設など複合化が進み、地域住民すべてが関われるようになっていること。第三に、長年かけて活動して来た実績(地産地消、農業者教育、村おこし)が積み重ねられて、生かされている上に、今後のビジョンが明らかにされていることである。
 最後に6次産業化との関連であるが、6次産業化にとって不可欠な農産物の高付加価値化が、直売所では、販売、加工、サービスのすべての面で実現できること、そしてそれをさらに発展させるビジネス展開が求められている点を指摘しておきたい。

参考文献
・月刊誌「地上」2013年3月号 特別企画、榊田 みどり

プロフィール
二木 季男(ふたつぎ すえお)


略歴
昭和10年 長野県生まれ、東京農業大学大学院修士課程修了
昭和35年 ㈱綜合統計研究所(現㈱綜研)入社
      市場調査部長、業務本部長、取締役等を歴任
平成6年 同退社
平成8年 東京農業大学より博士号(農業経済学)を授与
平成10年 東京農業大学国際食料情報学部助教授に就任
平成14年 同定年退職、農業・農村マーケティング研究所長
平成18年 埼玉県農業大学校非常勤講師
平成18年~平成22年 出雲市アグリビジネススクール校長




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