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〔特集〕野菜農業の6次産業化に向けた取り組み


国民の食と生活、健康、環境、地域を育てる「野菜農業」の更なる成長に向けて
~野菜の6次産業化の推進~

株式会社農林漁業成長産業化支援機構
代表取締役社長CEO 大多和 巖

 昨今、わが国農業は、農産物価格の低迷等による農業所得の減少、担い手や後継者の不足など厳しい状況に直面しています。さらに、農村経済を支えてきた製造業等の工場も、海外移転などのため撤退、縮小し、農山村における雇用の場はどんどんなくなっています。人口も減り続け、多くの地域でその活力は大きく低下しています。
 このような中、農業者の所得を確保し、農山村に雇用機会を創出し、地域を活性化していくことは、わが国の大きな課題となっています。農山村には、地域それぞれに野菜をはじめとした特色ある農産物があり、豊かな食文化、自然、景観など多くの地域資源もあります。これら農山村の強みである農産物や生産活動などの特色を生かし、農業者が主体となって、その価値を2次、3次産業につなぐ事業体を地場で育成していく、6次産業化の取り組みに、これらの課題解決の期待が集まっています。
 6次産業化には農業者が自ら取り組む6次化と、加工、流通、小売りといった2次、3次産業側から農業者に声をかけて取り組まれる6次化の両方があります。どちらの場合であっても、生産者の努力に報いるような取り組みとしてなされることが重要です。生産者は、よい農産物を作ることには長けていますが、自分たちの生産物に値段をつける力、価格決定権を持っていないケースがほとんどです。また、生産者は加工、流通に関わり付加価値を高めたり、差別化を図ることはどちらかといえば苦手であると言われています。丹精込め、努力して作った農産物を高く売りたいという生産者の要求を踏まえ、農業者が自らの産品の価値を消費者に確実に届けるためには、農業者が主体性をもって2次、3次産業事業者と連携し、生産から消費までのバリューチェーンをつなぎ、農業者が消費者に至るまでの付加価値づくりや価格決定に、主体的に関わっていくことが必要です。このことは、2次、3次産業事業者にとっても、消費を見据えた生産について農業者と連携していけば、安全、安心な食材の安定的な調達および消費者を意識した商品開発等となり、きっと消費者に歓迎される付加価値が高い商品ができるはずで、農業者と2次、3次産業事業者とがWin-Winの関係を築けるものと思っています。幸いわが国には、「安全」と「こだわり」が満たされれば、適切な負担増は受け入れる、少々高くても良い物を買う、という消費者がたくさんいます。
 野菜生産者の中には、既に道の駅やインターネットを活用した直接販売などに取り組んでいる方も数多くおり、漬け物等の加工や直売施設を自前で整備されている生産者の方もでてきています。こうした農業者の6次産業化の取り組みは、これまでも補助や低利融資といった施策により支援されてきました。これらの生産者についても、加工工場や流通施設の整備により、全国展開や海外市場への進出等更なる事業拡大を行う場合には、既に銀行等から与信枠一杯の借り入れを行っていることが多く、資金の調達が大きな課題となっています。このような中、政府の新たな施策として、出資という新たな支援手法が加わりました。出資は、その使途が比較的自由で、経営の発展段階に応じて運転資金の借り入れなどと合わせた活用もでき、さらに、事業体の資本力が増強され、信用力が高まることで、新たな融資等も受けられるようになるなどにより、主体となる農業者の方々の自発的な取り組みを実現することが可能な仕組みです。従来からの補助や低利融資に、使途の柔軟性の高い出資も加えながら、最良、最適の事業計画、資金計画を作り、いずれは「成長して返済する」という事業の絵を描いて頂きたいと思いますし、そうでなければ、6次産業化のような新たな取り組みは成功しないとも思っています。
 6次産業化に取り組むにあたって、もうひとつの大きな課題は販路の確保、拡大です。せっかくいい商品ができても、その価値を適正に評価し、見合う価格で買ってくれる販売先がなければ意味はありません。そういう点でも、販路を持っている2次、3次産業者と一緒に取り組んでいくことは重要なことです。私たちのファンドは、出資等の資金面の支援とともに、2次、3次産業事業者とのマッチング等の支援も行います。
 さらに加えて言えば、6次産業化を推進している本来の目的は、農林漁業を通じて地方を元気にしていくことにあると考えています。これから地方に新たな雇用の場をつくるとなると、おそらく農林漁業を中心とした分野しかないだろうと思われます。かつての高度成長期に、全国各地に製造業等の工場ができ、大ロットの雇用の受け皿となっていました。このようなことを6次産業化事業体に期待することは無理でしょうが、農業者の所得確保と農山村に雇用機会を創出することで地域活性化を図るためには、この6次産業化事業体のような取り組みを、地道に一つ一つ積み上げていくことで新たな雇用が生まれていくはずです。さらに、このような動きを見て、何よりも都会の若者が地方に戻り、農業ならびにその関連産業、正に6次産業化事業体に従事するような流れが出来れば、地域に、そしてわが国にとってすばらしいことと考えています。
 多くの農業者が2次、3次産業事業者と連携して、補助や低利融資にファンドも活用し、農産物の加工や販売の取り組みはもとより、輸出や地域に埋もれた名所などの地域資源の掘り起こしなどによって、地域に多くの雇用機会が生まれ、活性化した農山村が全国に現れることを願っています。
 そして、国民の食と生活、健康、環境、地域を守る「農業」が、更なる成長産業として発展して行くことに少しでも貢献することが出来ればと考えています。

プロフィール
大多和 巖(おおたわ いわお)


【経歴】

1942年 生まれ
1966年 京都大学経済学部卒業、農林中央金庫入庫
2002年 農林中央金庫代表理事副理事長
2004年 株式会社農林中金総合研究所 代表取締役社長
2010年 SMBC日興証券顧問
2013年 株式会社農林漁業成長産業化支援機構 代表取締役社長CEO




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