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話題(野菜情報 2013年8月号)


農場管理の認証制度の普及に向けた取り組み

特定非営利活動法人日本GAP協会
専務理事 武田 泰明

  安全・安心な農産物の供給を徹底するため、生産工程の各段階に適切な基準を設け農場を管理するGAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)が日本でも広く普及してきた。2010年3月に政府が定めた「食料・農業・農村基本計画」(5年に一度策定される農政の中長期の方針)の中でもGAPが重要な位置を占め、農産物の安全確保の中心にGAPが置かれている。
 農業者には守るべき各種法律(食品衛生法や農薬取締法など)や行政指針(農薬の飛散防止対策など)があるが、GAPとは、これら法律などを順守するために、一連の農作業・農場管理の仕事の中で“最低限どこを押さえるべきか”をまとめた農場管理の基準である。例えば、食品衛生法には野菜の種類ごとに農薬成分ごとの残留基準が定められているが、その基準を守るために、一連の農作業の中でどこを押さえるべきかは全く書かれていない。図1は、都道府県が公表している過去の国産農産物の残留農薬基準違反の事例をまとめたものだが、農薬のドリフトや散布機の洗浄不足など、農薬取締法や履歴記帳運動にもとづく「正しい農薬の使い方」だけではカバーしきれていない原因が並んでいることがわかる。日本の業界標準GAPである「JGAP」は、これらも含めて農場管理の基準が策定されている。

 1990年代に欧州の小売業を中心に始まったGAPは、日本でも2002年頃から大手小売、外食、食品メーカー、生協等が次々に独自のGAP基準を設ける流れが始まった。安全な食品を消費者に提供するため、農業現場に適切な農場管理「GAP」の実践を求めることが当然の要求であった。しかし、GAPの基準はそれぞれバラバラであったため、生産者は売り先ごとにさまざまなGAPに対応しなければならない。そこで、業界統一のGAPを作ろうと、06年11月、農業界・流通業界が集まって日本GAP協会が設立され、JGAPづくりが始まった。
 日本の農業界と流通業界が共同で開発・運営する業界標準GAP「JGAP」は、07年に本格的な第三者認証制度が始まり、1,700を超える農場が認証を得るような段階に来ている(図2)。JGAPは、食品安全以外にも環境保全と労働安全もテーマにしており、総合的な「適切な農場管理の基準」として広く使われつつある。JGAPの基準はホームページ(http://jgap. jp)で公開されているので、ぜひ一度ご覧頂きたい。自治体が作成したGAPや流通・食品メーカーが仕入先の農場・JAに求めるGAPの中にもJGAPを参考に作成したものが増えており、業界標準としての役割を担っている。
 農林水産省も09年以降にGAPガイドラインを発表し、GAPの基準を作成する場合に対応すべき法律や行政指針についてまとめた。これにより、主に自治体やJAが独自に作成しているGAPの高度化と標準化を図ろうとしている。JGAPは、日本で最初に農水省のGAPガイドラインに対応したものである。

 JGAP認証農場は、いわば「農産物の安全管理がしっかりできている信頼できる農場・生産団体」であり、大手流通企業を中心に取引を優先的に増やしていく、または一部のブランド商品については取引基準として活用されつつある。海外のGAP活用は日本以上に進んでおり、例えば日本の農産物の最大の輸出先である香港でも、大手小売業は野菜の産地にGAP認証の取得を義務付けている。JGAPは香港や北京での普及活動を始めており、海外でもJGAPがそのまま利用・評価される環境づくりを進めている。また、韓国やタイにもJGAP認証を取得する農場が出てきており、国境を越えた利用が進みつつある。
 日本GAP協会は、GAP普及のための非営利団体であり、農業現場のGAP活用についてさまざまな相談を受けている。また全国に2,000名ほどのJGAP指導員がおり、各地でGAPに取り組む農場・JAの相談に乗っている。JGAP指導員は主に都道府県の普及指導員やJA職員、肥料商などが担っている。『農業法人白書』のアンケート結果では、取得したい認証の第1位にJGAPが10年度から2年連続選ばれるなど、農業現場の取り組み意欲は非常に高まっている。

 農産物の業界は、ますますグローバルにボーダーレスが進む傾向にある。その中で、日本産農産物がこれからも高く評価されるためには、日本農業の良さである「管理レベルの高さ」を“見える化”する手法であるGAP認証の制度は有用である。アジアでは中国、韓国、タイが熱心にGAPの普及を行っており、日本もGAPの普及をさらに促進し、日本産農産物の優位性の一つにしっかり位置付けていくことが重要である。

プロフィール
武田 泰明(たけだ やすあき)


1999年筑波大学生物資源学類卒業。2000年株式会社ケーアイ・フレッシュアクセス。02年 筑波大学大学院経営政策科学研究科卒業。02年三菱商事株式会社食品本部。06年NPO法人日本GAP協会理事、事務局長就任。08年NPO法人日本GAP協会専務理事就任。




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