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話題(野菜情報 2013年2月号)


6次産業化における
地域活性化の取り組み

東京農業大学総合研究所
教授 両角 和夫

 一昨年施行された農林漁業の6次産業化法の目的は、地域社会の活性化のため、地域資源を活用して農林漁者の付加価値=所得の確保を図ることにある。そのため次の二つの側面から取り組みを促進することとされている。一つは、農林漁業者による販売、加工への進出、さらには地域資源を活用したエネルギー等の新事業の創出等、もう一つは、地域の農林水産物の地域内消費、すなわち地産地消の推進である。

 この6次産業化法では、地域資源の活用を前提としているが、これは住民等による地域に根差した経済の活性化の取り組みの基本であろう。また、農林漁業者は、食料あるいは工業原料の生産に止まらず、新たに再生可能のエネルギーの生産等にも取り組むこととされている。これもエネルギー問題が喧伝されている今日、当然である。そしてその一方で、農林水産物の地産地消の推進が組み込まれている。これは地域の農林水産業の維持・存続を図り、ひいては国内自給率の向上を図る上で必要である。

 こうした体系の内容を持つ6次産業化の推進は、経済の不振にあえぐ地域にとって時宜を得た的確な活性化対策といえる。しかし、管見の限りではあるが、今後の推進を図る上で幾つかの課題も見えつつある。以下では、関連して3点ほど述べたい。

 一つは、優良事例として紹介されているものの多くが、個々の農林漁業者による自己完結的な加工、販売への取り組みであり、面的な、地域を挙げた取り組みが少ないと見られることである。

 確かにこうした事例には優れた経営者がいて、生産現場はもとより加工、販売においても創意工夫をもって取り組み、経営的にも成果を上げているようである。しかし、一つの経営体が生産と同時に加工や販売に取り組むことは大変な労力とリスクを伴うのが実態である。このため生産と販売を別の組織に担当させ、あるいは加工、販売の専門業者にゆだねる場合も少なくない。このため6次産業化を推進するには、地域内の2次産業(加工)や3次産業(販売)の専門業者等との連携が重要である。

 こうした連携の必要性は、あらかじめ認識されていたはずである。しかし、現実にはそうした連携の事例はあまり見られない。6次産業化がなかなか地域を挙げた取り組みにならない要因であろう。こうした事態に対処するには、域内の加工や販売の専門業者に6次産業化の意義を十分に理解してもらうこと、そして連携あるいはネットワーク化をコーディネートする者あるいは関係組織を支援、確保することが必要である。農林漁業の6次産業化は地域社会の活性化を目指すものである。そのため地域を挙げて取り組むにはどのようにして連携を進めるのか、模索、検討することが今後の課題であろう。

 二つは、地域資源の利用の範囲が限定的であることである。確かに多くの事例では地域資源の活用に取り組んでいる。しかし、同じく1次産業においても、地域の資源は、農業、林業および漁業ごとに、いわば業態ごとに独占利用しているのが現状である。業態ごとに利用が限定されていては、そのもつポテンシャルが十分に引き出されることはない。

 この問題を解決するには、業態間での地域資源の循環的利用の促進が必要である。例えば、現在その大半が利用されていない間伐材や林地残材は、木炭にすれば農業や漁業で利用できる。我々の研究(「いわて発循環型流域経済圏の構築に関する研究」((独)科学技術振興機構のプロジェクト、平成15-18年度)など)の事例で示せば、木炭は農地の改良、河川の浄化、木炭発電、磯焼け対策のための海中林の造成等に活用できる。海の資源、例えば海藻や貝殻等はたい肥の製造に利用できる。家畜の糞尿も炭化等の処理をすれば海中林の造成に肥料として活用できる。言ってみれば、通常では資源として利用が難しいものであっても、業態間で循環的利用をすることで利用範囲は格段に広がる。

 高度経済成長期ごろまでは、例えば漁家は、海掃除と言って、海藻の生育の支障となる岩に付着した貝などを農家の協力を得て除去し、農家がこれを農地でたい肥として使っていた。また、畜産経営が大規模化するまでは家畜糞尿や森林の落ち葉は肥料として活用された。しかし、現状では地域資源のこうした利用の形態はほとんど見られない。

 これは農林漁業が変貌したことにもよるが、同時に、この間、行政が農業、林業および漁業に縦割りに行われてきたことにも対応している。本来、地域資源の利用は、業態を超えて、その持つポテンシャルを最大限引き出すべきである。そのため行政も、業態縦割り的なものから横の連携に配慮し、地域資源の活用という観点で展開される必要がある。

 三つは、6次産業化における農協の関与の弱さである。農協は、農林漁業が中心的な地域では最大の経済主体であり、6次産業化では重要な役割を果たすべき存在である。しかし現状を見る限り、農協は6次産業化の推進にはあまり関与していない。ちなみに、一昨年、私どもが東北大学で行ったアンケート調査結果によれば、農協において地域活性化を担う組織・事業体制は、そのほとんどが必ずしも十分ではなく(92%)、地域活性化を担う中心的部署が無いがほぼ半分を占める(45%)など、その体制的な不備は否めない。

 地域組合化しつつある農協の今日的使命は、持続的発展が可能となるよう地域社会を運営する一翼を担うことにある、と考える。農協が農山漁村地域の活性化に寄与する6次産業化を推進できるかどうかは、まさに農協の存在意義に関わる問題である。農協は、地域にとって不可欠な存在となるためには、体制を早急に整備し6次産業化に積極的に対応する必要があろう。

プロフィール
両角 和夫(もろずみ かずお)


 東京農業大学総合研究所教授(農学博士、農業経済学、フィールド社会技術学)。昭和47年農林省入省。昭和55年より農林省農業総合研究所,平成11年度から23年度まで東北大学大学院農学研究科教授。平成24年度から現職。
 研究テーマは、「環境と経済が両立する地域社会の構築」、主に、環境修復が地域資源を利用するビジネスになるための条件を研究している。(独)科学技術研究機構の社会技術研究プロジェクト「いわて発循環型流域経済圏の構築に関する研究」、「地域分散型エネルギーの利用促進と農山漁村環境ビジネスの実現」等を実施。平成16年9月からは、NPO「いわて銀河系環境ネットワーク」の会長、現在は特別顧問。




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