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話題2(野菜情報 2012年11月号)


野菜の契約取引の実態と課題

独立行政法人農畜産業振興機構
理事 中村 英男

1 はじめに

 国産野菜が今後とも安定した需要先を確保するためには、加工・業務用需要に応えていく必要があります。加工・業務用需要については、カット野菜等の最終商品の価格が固定されていることから、原料となる野菜についても定価格での取引が基本とされています。また、定時・定量の出荷が求められることから、加工・業務用需要に供給される野菜の多くが契約取引によって取引されています。
 機構では、この契約取引のリスクを低減し、加工・業務用への国産野菜の供給がより一層進むよう、契約取引に当たっての生産者の経営安定を図る各種の事業(契約指定野菜安定供給事業、契約特定野菜等安定供給促進事業、契約野菜収入確保モデル事業(PQモデル事業))を実施しています。特に、PQモデル事業は、平成23年度からの新たな事業ですが、この事業を実施する中で、契約取引の実態や課題等について、改めてさまざまなことが明らかとなっています。

2 契約取引の実態と課題

(1)契約方法

  契約を行う際は、その内容に疑義を生じさせず、履行を確実なものとするために、通常、記名押印した契約書を作成します。しかしながら、野菜の契約取引に当たって、もともと、数量や価格を明記して、記名押印した正式な契約書を交わしていた事例は少ししかありませんでした。
 ただし、そのような場合でも、ほとんどの事例で、何も書面が存在しなかったのではなく、
 ① 数量や価格を明記しない基本契約書を締結していたり
 ② 押印していないメモとして、数量や価格を整理している
といった対応を取っていました。
 野菜は天候の変化によって豊凶になりやすく、ちょっとのことで価格が乱高下することが避けられない中で、正式な契約書に数量や価格を明記しておくと補償問題に発展しかねないとか、相手を信頼しているし、仮に当初思っていたようなことにならなくても、何年かのうちに持ちつ持たれつの状況になるので構わないといったようなことが主な理由となっているようです。
 現行のPQモデル事業は、数量と価格を固定した契約取引を対象とするため、それらを明記した契約書があることが事業実施に当たっての要件のひとつとなっていますが、以上のような契約実態を踏まえると、契約取引の推進を図っていくに当たって、例えば、なるべく個別の契約内容によらない仕組みを検討するといったようなことも必要になってくると思われます。

(2)契約内容の履行

  契約の履行状況を見ると、価格については、当初定めた価格通り履行されているものが多く見受けられました。加工・業務用向けの取引価格は、一般的には市場出荷のものの価格より低い水準ですが、生産者からは、「契約取引のメリットは、売り上げの見通しが立つことであり、価格は高い方が望ましいが、再生産価格は確保した上で、お互い納得のいく水準で値決めを行っている」といった声が聞かれました。価格の遵守は双方の信頼関係の基本となるものであることから、生産者および実需者ともに努力を払っていると思われます。
 他方、数量については、契約数量に比べて実取引数量が少なくなる取引が多く見られました。このような状況に備えて、生産者はどのような対応を行っているのかを聞いてみたところ、

 ① 豊作不作のいかんにかかわらず、普段より実需者との連絡を密に取り栽培状況等を報告することで、信頼関係の構築に努める
② 契約数量よりも多くの作付けを行う
③ 出荷量に対して契約数量を一定割合に抑える
④ 多様な実需者と契約する
などの回答がありました。

  生産者からみると、欠品リスクに加え、加工・業務用の契約取引は定価格取引が基本となるため、不作時に出荷量が減少するとダイレクトに収入の減少に結びつくことになります。また、「不作の場合は、実需者から小玉であっても早期出荷してくれとの要請があり、更に収入が減少してしまう」とコメントする生産者もいました。
 以上を踏まえると、数量変動に対する支援が重要な課題であると考えられます。その際、豊作で市場価格が契約価格より下回った場合に、取引数量を削減されたケースもありますが、多くの場合は、他の契約先との取引を増やすことなどである程度カバーできるとの声もあり、不作の場合の対応策がより求められていると思われます。

(3)数量確保の責任

   PQモデル事業の事例では、不作によって契約数量を確保できない場合に、生産者自らが不足分を他から手当てしてでも納品するようなことを行っている生産者は、他の生産者からの集荷も行っている生産者を除き、いませんでした。
 最終的な実需者に対する数量確保の責任は、多くの場合、生産者と実需者の間にいる中間事業者(卸売業者、カット等を行う一次加工業者等)が負っていると考えられます。ある中間事業者に数量確保について話を聞くと、できる限り多くの産地と契約を行いリスク分散を図るなどの対応を行っているものの、時期によっては産地が一部地域に偏っているために、契約産地のほとんどが不作となり、どうしても契約分だけでは数量を確保できず、市場から高値で調達する場合もあるとのことでした。
 ここ2年間は天候要因による相場の高騰が長期間続き、国内での安定的な調達が困難となることを想定して、国産野菜を志向していても、あらかじめ海外の産地と契約することでリスク回避を行っているという中間事業者もいることから、国産野菜の加工・業務用需要への供給確保を図るためには、中間事業者まで視野に入れて、そのリスクを軽減する方策を検討することも重要な課題のひとつと思われます。

3 最後に

 以上のことは、国産野菜の契約取引の実態とそれを推進するための課題の一部ですが、今後、このようなことを関係者が十分に念頭に置いて、関連する事業やそれぞれの具体的な取組みを進めていくことが求められていると思われます。

 なお、機構では国産野菜の契約取引を推進するため、加工・業務用の野菜産地と実需者との交流会(国産野菜の契約取引マッチング・フェア)を開催しています。今年度は、10月31日(水)に仙台(仙台卸商センター産業見本市会館サンフェスタ)で、また、来年2月19日(火)に東京(東京国際フォーラム)で開催します。多くの実需者の皆様方のご来場をお待ちしています。



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